日常Ⅲ:Vol4
あとから聞かされた事であるが、
松田峰香には、いくつかの疾患があった。
アルコール依存症、
元々、彼女は酒癖が悪い事で有名であったが、
トラブルが起きる度に、お酒で解消していた。
職場でも、彼女の体に、酒臭さを感じる日もあったそうだ。
きっと、彼女の身の寂しさを紛らわしたり、
思うようにいかない現実から逃避する為に
確信犯的に、飲んでいたのだろう。
統合失調症、
常に彼女の精神は、不安定だった。
公共の場でも、些細な事にヒステリックになり、
被害妄想も激しく、いつも部下には攻撃的な態度、
自分でも、何を話しているのか理解せず、
感情の振り回されるがままに、抑えが効かなかった。
また、身体面でも、病気の疑いのがある症状があるそうだ。
竜司は、彼女とお酒の席で話していた際、
いつも身体の不調があると言っていたのを思い出した。
きっと彼女の内蔵達も、ボロボロなのだろう。
入院しているから、ある程度の回復は見込めるだろうが、
社会復帰は、困難を極めるだろう。
竜司が、見舞っていた所も精神病棟だった。
彼女が己の内面や心に向き合い、
悪夢を乗り越えない限り、生涯、
あそこに幽閉された生活を送る事になるのだろう。
帰り道の途中、リフレッシュする為に、公園を訪れた。
噴水前にあるベンチ、そこが、現実の彼の指定席だ。
「ふぅ...。」
何も考えたくなかった。
噴出している水しぶきをぼんやりと眺め、
全ての雑音や雑念を、頭から追い出している。
現実の松田峰香のあと始末に追われ、
休まる暇もなく、駆け抜けたのだ。
ようやく慢性ストレスから解放され、落ち着く余暇を得た。
頭を空に仰向かせ、両手を限界までストレッチさせる。
「あぁ...やっと終わった...!」
ついでに、両足も大の字にして広げる。
彼の人生史上、最も長い期間だった。
思い返すと、とんでもない、とばっちりを受けたものだ。
そもそも、隣の部署の怒鳴り声に始まり、
休憩時間に、自販機の前で、鉢合わせた事から
始まった。
そして、残業帰りで、たまたま彼女との出会い頭、
お酒の席にまで、付き合わされた直後、
黒人エージェントと地獄の鬼ごっこ、
無事に夢からの帰還を果たせたが、
今度は、病院送りになった、現実の
彼女の後始末に追われる事になった。
ハンパない情報量で、いまだに竜司の
脳内のスペックは、処理中である。
身体は落ち着いても、頭はまだ整理中である。
「コンビニでアイス買って帰ろ...。」
まとまらない頭を整えるには、
自宅に帰って休養するに限る。
竜司は、無性に、甘いモノを食べたくなった。
少しでも頭の負担を軽くさせるべく、
糖分を摂取する事にした。
「うぅぅん!!」
ベンチから立ち上がり、再び、身体を伸ばす。
奇妙な声を上げながら、一瞬、全身を緊張状態にして、
一気に、リラックスさせる。
「...行くか。」
晴天の空を一瞥し、竜司は、歩み始めた。
松田峰香の物語は、ここに終わりを告げた。