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日常Ⅲ:Vol2



「えっ...じゃあ...今、松田さんは...?」



続きを聞くのは怖いが、現実の彼女を見届ける為に、

恐る恐ると、その後の事を尋ねた。



「急いで救急車を呼んで、担架で運ばれていきました。」



「暴れ方が尋常じゃなく、目に見えるモノは

全て八つ当たりで、職場はカオスがでしたよ...。」



「しかも、何かブツブツと呟いていましたし...。」



後輩の目に、恐怖と気味の悪さが映っていた。



竜司は、チラッと彼女が普段、勤めている職場を覗くと、

そこは、カオスであった。



床一面、バラバラの書類で散らかっており、

ところどころ、溢れたペットボトルの水で、

濡れているものもある。



彼女のデスク周辺が、特に酷い。



おそらく、振り回したのであろう、

イスが上下に分断されており、机周りには

キズ跡が、生々しく残っている。



窓には、大きくヒビが入っている。



相当、暴れ回っていたのが、現場から伺える。



ーーうわぁ...。



竜司は、目の前に広がる事件現場を見て、言葉にならなかった。



夢で見た、松田峰香の狂気に染まり、

現実を拒否した姿が、現実で繰り広げられている。



救いのない彼女の堕ちたエピローグを、まざまざと

見せつけられる形をなった。



この日、彼女の後処理に追われ、仕事どころではなかった。






-----------------------------






「どうして俺が...」



数週間後、竜司は、花束を携えて、病院の待ち合い所にいた。



ハズレくじを引かされた気分で、

ただ一人だけスーツ姿で、居心地の悪さを

感じながらぼやいていた。



あれから松田峰香は、入院する事になった。



会社の上層部しか知られていない情報だが、

期間は不明、どうやら深刻な症状らしい。



竜司がその事実を知っているのは、

社内で、誰がお見舞いにいくかで揉めた末、



竜司に白羽の矢が立った、



というよりも、問答無用で、行かざるを得なくなった。



松田峰香の所属する課の人間は、彼女の所業を知っているが故、

誰も行きたがらなかった。



それだと、会社のメンツが立たないからという事で、

隣の部署にまで話が周り、くじ引きで決める事にした。



「えぇ..」



運悪く、竜司がその貧乏くじを引いてしまった。



誰もが嫌がっていたので、他の同僚たちは安堵し、

アタリを引いた竜司には、同情の視線が注がれた。



その心中を察してか、上司は、

「お見舞いは、お昼休憩から言ってきて、

その後は、休みでいいよ。」



と、ささやかな半休のボーナスを得た。



その際、松田峰香が療養している病院や

容体などの情報を知らされる事になった次第だ。



そして、具体的な日程を伝えられ、見舞の花を

購入する資金をいくらか貰い、現在に至る。



この数週間、竜司は、夢を見る事はなかった。



きっと彼女を見届けるまでは、事が運ばないのだろう。



それで今回、その機会が巡ってきた、そう捉えられなくもない。



決まったモノは仕方ないが、また気狂いじみた

人間に会うのは、正直、気が重い。



しかも、今回は、暴れ回ったメンタルがヘラった状態でた。



何をされるかもわからないので、たまったものじゃない。



足取りが重いまま、竜司は受付にいる看護師に話かけた。



「すみません、○○社の者でして、

松田峰香さんのお見舞いに伺ったのですが...」



「あぁ、はい、会社の方から連絡を頂いております。」



「803号室です。」



「ありがとうございます。」



滞りなく受付を済ませ、竜司はエレベーターに乗り、

8階へと向かった。



病院独特の匂いに、眉をしかめつつ、803号室へと辿り着く。



「ふぅ...。」



扉を開ける前に、一度、深呼吸を挟んだ。



しっかりとこの目で、彼女の姿を見届けるには、

それなりの覚悟が必要となる。



夢での出来事が、頭を駆け巡る中、竜司は意を決し、扉を開けた。


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