日常Ⅲ:Vol1
ーーチュン、チュン...
閉じられている窓の隙間から、光が差し込む。
「...。」
その一筋の太陽光で、竜司は、目を開いた。
ゆっくりと腰を上げ、辺りを見回す。
「会社行くか...。」
現実は酷である。
どれだけ、夢の中で奮闘していたとしても、
それは、竜司個人の話であり、他人からすれば
フィクションに過ぎない。
「すみません、世界を救いにいってまして...。」
仮に、仮病で会社を休むにしても、
彼にとっては、事実であったとしても
企業側は納得するはずがないだろう。
ブラック企業であれば、即刻クビ対象にされ、
まともな企業であれば、メンタルクリニックに通う事を
その場で、伝えられる可能性が非常に高い。
幸い、竜司の会社はそういう面では、ホワイトだ。
むしろ、竜司にとって、そういう噂が職場に
広がって、奇人・変人に見られて、孤立する方が
よっぽど怖い。
波風立てず、穏便に過ごすのが、彼にとって、
ある意味、現実での使命ともいえる。
あれだけの命からがらの戦線を切り抜いたのに、
現実に帰れば、身体はいつもの時間に目を覚ます。
ーー今度は、華金に起きます様に...。
サラリーマン的なメンタル満載で、
竜司は、出社の準備を始めるのであった。
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ーーザワザワ...ザワザワ...
「なんか騒がしいな...?」
会社に到着すると、竜司は、社内のざわつきに気づいた。
落ち着かない雰囲気の中、職場に着いた。
「おはようございます。」
「あっ!竜司さん!大変!大変!」
挨拶を済ませると、職場の後輩が、それ所ではない
ニュースを持ってきた。
「どうしたの?」
いつもならば、竜司には必要最低限の会話しかしない間柄だ。
その関係を飛び越えて、話しかけてくるのは、
よっぽどの事だったのだろう。
ただごとではないであろう事は、容易に想像がつく。
気になった竜司は尋ねた。
その答えは、まだボンヤリする彼の頭を
スッカリと覚めさせるには、十分だった。
「隣の部署の松田峰香さんが突然、苦しむ様に暴れて倒れたんです!」
「...ハァ!?」
竜司は、後輩のセリフに理解が追いつかず、一瞬、思考が停止した。
直後、内容を理解するや否や、声を大にして上げてしまった。