魔女の呻きVol:21
ーー遡る事、5分前
最上階フロアに到着したキリアン、
球体の大広間に続く、渡り廊下へ向かう直前だった。
ーーちょっと、ストップ!
彼の脳内に、再び、声が響きわたっていた。
エージェントから逃げていて、心の余裕がなかったのだが、
よく聞いてみると、少年の様な声色だった。
「...今度は何だ?」
突然、また自分の頭に話しかけてくるのだから、
土足で家に入り込まれる感覚がして、良い気分ではない。
しかし、ツッコんだ詮索をする時間がないので、
キリアンは、いったん歩みを止め、話を聞く事にした。
ーーもう追いついてきてるよ。
ーーこのままだと、危ないかも。
あの冷徹な殺人マシーンが、もう迫ってきている、
そう警告のメッセージを伝えた。
今いる吹き抜けの廊下には、隠れられる場所がない。
このまま真っ直ぐ進めば、格好の餌食だ。
「はぁ...。」
キリアンは、ため息をついた。
これから彼が行おうとするのは、ある意味、賭けになる。
少しでも、相手に怪しまれたら、終わりだ。
どうやら最後の最後まで、気が抜けないらしい。
物事がすんなりと運ばないのはわかれども、
キリアンは、面倒臭さを感じずにはいられなかった。
「ったく、わかったよ。」
急ぎ、準備をした。
ーーあとちょっとだよ。
その声は、愉快で、いかにも楽しげだ。
「他人事だと思って...。」
呆れながら、ツッコミを忘れ無いキリアンであった。
ーー現在に戻る。
「!」
エージェントが気づいて、銃口を向けるよりも、
刹那、キリアンの行動が上回った。
ーーピッ!
キリアンは、スイッチを押したと同時、
ーーボォン!!
突如、彼とエージェントの間で、爆発が起きた。
事前に、キリアンが仕掛けた、爆弾のスイッチを起動したのだ。
この黒人サイコパスを騙す為の、一芝居だった。
撃ってくる事を覚悟し、避けずに銃弾を喰らった。
ダメージを負ってしまったが、
相手は完全に、キリアンのスキをついて
負傷させたと、思い込ませた。
ロボットの様な冷徹な存在が、動揺して、
言葉を乱すまでは、想定していなかったが、
廊下を爆破し、追手を振り切る作戦は成功、
道は分断された。
エージェント側は、耐えきれず、今にも崩れ落ちる所だ。
その中で、バランスを崩すボブであったが、
キリアンの命を奪おうと視線は外さず、
落ちそうになりながらも、再び銃を構えようとする。
ーーパァン!
しかし、キリアンの方が早く、ゴム弾で、
エージェントの額を打ち抜いた。
そのまま意識を持っていかれ、廊下だった建材と共に、
転落していくのだった。
「これで...うっ...。」
これでもう、追われる事は無くなった。
あとは前に進めだけだ。
キリアンは、エージェントが落ちていくのを確認すると、
痛みに堪えながらも、懸念事項をクリアした。
負傷した肩を押さえながら、ようやく広間の扉に辿り着いた。