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魔女の呻きVol:16



ーーそろそろだな...。



キリアンは、彼女の様子を事細かに観察していた。



これだけの、他人から指を刺されて言われたくなかった、

聞きたくなかった、言葉のオンパレード、



これに峰香は、どの様な選択をするのか?



彼は、彼女の行動次第で、何をするか、すでに決めている。



そのクライマックスが今、やってきている所だ。



絶叫し、床に突っ伏した後、幾分かの時間が経過、



外は嵐で吹き荒れ、雷雲が立ち込めていた。



そして、彼女は起き上がった。



「バカ...。」



彼女からの一言。



「私だって...こうなりたくてなりかった訳じゃないの...。」



「変わろうと思ってた。」



「でも、ダメだったの...。」



「私に関わる人達は、みんな不幸になるし、

ここまで生きてきて、ダメなの...。」



「今の彼だって...。」



「うるさい。」



キリアンは、彼女の独白を遮った。



もう救いの様がない人生に堕ちてしまった

彼女にせめてもの供養をしてやろうと、

彼は決めた。



「もういい。」



彼は、写真を取り出した。



「今まで散々、お前に関わってきた人達の分だ。」



「もう、ラクになれ。」



「イ...イヤ!やめて!」



この後、何をするか、語らずとも行動で

雄弁としていたキリアンに、峰香は思わず、

立ち上がった。



その手には、いつの間にか包丁が握られていた。



ーーパン!



彼女は、右太ももを撃たれた衝撃で、転んだ。



「うっ...!」



キリアンから放たれたゴム弾、

殺傷能力は皆無だが、それでも

彼女にとって、衝撃は尋常ではなかった。



その場で、うずくまり、痛みで悶えていた。



キリアンは、彼女の殺意に気づき、彼女の刃が

こちらの身体を貫くよりも早く、銃を構えていた。



「遅い。」



そう言いながら、距離を取り、改めて、

ライターを取り出した。



ーードン!ドン!ドン!



近くの入り口のドアで、誰かがこじ開けようと、

乱暴に叩いている音が聞こえてくる。



タイムオーバー前に、彼女の夢に決着をつける。



「せめてもの餞別だ。」



「生まれ変わって、ゼロからやり直せよ。」



火を点け、その写真の端に炎が移る。



「イヤァァ!!」



彼女は、泣き叫んだ。



もう彼女の頼る、依存してきたモノが消失してしまった。



今の松田峰香は、カラッポだ。



数々の男を魅惑的に陥れ、

奪ってきた性のエネルギー埋め合わせ、

己の生きる源にしてきた。



その象徴が、あの写真であり、彼女の秘密だ。



しかし、目の前の男によって、写真は炎で塵と化す。



他人に依存してきた人間にとって、

拠り所を失ってしまえば、子供同然だ。



彼女は、その場で泣きじゃくるしかない。



これからどう生きていくのか、自分はどうしていくのか、



そういう発想が、今までなかったのだ。



全ては、彼女自身をおざなりにしてきた、

父親、ひいては、男性への憎悪に囚われていた。



わがまま同然の振る舞いをしてきた彼女だが、

生まれて初めて、格が違う人に出会ったのが

運の尽きだった。



キリアンの様な精神性の高い人間に、

彼女の色仕掛けなどの陳腐なモノは効かず、

むしろ、逆効果だ。



その結果、しっぺ返しを喰らい、彼女の精神は保たなかった。



「あぁぁ!!」



未だに、やまない彼女の慟哭。



ーー彼女は、もう何もできないだろう。



キリアンは、精神が崩壊レベルに達してしまった

子供の様に泣き喚く、松田峰香の姿を見た。



あとは、現実の彼女の後を、見届けるだけだ。



ーーその前に...。



この夢から、一刻も早く出なければならない。



ーーパァン!バキ!



銃で撃たれ、入り口のドアが叩き割られている。



彼女の夢の防衛システムが、やってくるのは時間の問題だ。



ーーどうする...?



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