魔女の呻きVol:14
「なっ...!」
「私に向かって...!何を言って...!」
先程の猫撫で声とはうって代わり、
その声色には、怒気が含まれている。
キリアンの一言一句が、彼女のプライドに刺し傷をつける。
ーーおぉ、怖い怖い...まるで鬼婆だな...。
人格が変わったのは、こちらも同じだった。
キリアンは、怒りのオーラをまとい始めた
峰香を前にして、なお、涼しげな態度で、
第二の矢を放つ。
「何、バカみたいな顔をしてんだよ。」
「もしかして、タダで自分よりも、
はるかに若い俺に抱かれるとでも思ってた?」
ーーパキン!
キリアンの煽りに煽ったセリフは、
彼女の夢の空間にヒビを入れ、割れ目をつける。
「お前が、俺の忠犬になるってんなら、
こんなくだらねぇ恋愛ゴッコ遊びに、
付き合ってやってもいいって言ってんだけど?」
ーーパキパキ...!
ヒビがどんどん、広がっていく。
それと比例するかの様に、彼女の顔は青ざめていく。
ーー何を狂った事を言っているんだこの人は!?
そう顔に書いてある程、峰香は、
キリアンの豹変ぶりに、恐怖した。
「まっ、嫌なら別にいいけどさ。」
「その代わり、これがどうなるのか、保証はできないよ?」
キリアンは、脇から先程抜き取った、
写真を峰香に見せつけた。
「そ...それは...!?」
「うっかりどこかに無くすかもしれないねぇ...。」
峰香の言葉をスルーして、キリアンは、
明後日の方角へ向き、写真の端を持ちながら、
ヒラヒラと揺らしていた。
「もし、無くしちゃったらゴメンね...自称美魔女さん。」
ーースタスタスタ...。
キリアンの言葉責めに、耐えられなかったのだろう。
峰香は、キリアンの元に近づき、
その場で3回、クルッと周った。
「ワン!」
犬の鳴き声も、ちゃんと言ってみせた。
ーークッ...。
キリアンは、この上ない口角を広げて、笑った。
「そうそう、いい子いい子。」
「けど、年甲斐もなく、そんな事やらされて
情けないったら、ありゃしないよなぁ。」
なお、キリアンの集中砲火は止まない。
「うぅ...。」
人間からイヌへと成り下がった峰香は、
この恥辱に耐えるしかない。
せめてもの抵抗からか、呻き声を上げる。
「犬って、本当にかわいいよな。」
キリアンの責めは、終わらない。
「純粋にさ、こちらの思惑とか関係なく、
誰にでも尻尾を振り、媚を売る。」
「『お座り』と言ったら、いつまでも
ヨダレを垂らしながら、待つだろ。」
「あのつぶらな瞳で、こちらを見つめながら
主人の言いつけを守る健気」
「その潤んだ瞳が、すごくそそられるよなぁ...。」
聖女にも負けず劣らずの鬼畜なサイコパス発言、
「だからさ、お前も従順になれよ。」
「コロ。」
彼女の顔は、これ以上にない位に、引き攣っていた。