魔女の呻き:Vol12
そこは、ホテルのスウィートルームだった。
透明のガラス越しから見えるシャワールーム、
キングサイズのベッド、王族や貴族が座りそうな
ソファ、200㎡以上の広さがある、
ラグジュアリーな一室へ、キリアンは入り込んだ。
ーーシャァ....!
シャワーの音が聞こえる。
そして、シャワー室からは女性らしきシルエットが
浴びている様子が窺える。
松田峰香のより深い夢なのは、間違いない。
さしづめ、この後の展開がどうなるのかも。
彼女が、キリアンに、すっかり心を許している証左でもある。
ーーさて...どこにある...。
ここに、彼女の隠しているモノがあるのだろう。
キリアンが、ベッドルームを出る、その時だった。
「今回も、うまく入り込みましたね。」
どこからともなく、聖女が現れた。
相変わらず、全身黒づくめの衣服を纏っている。
シャワー音も聞こえないから、また空間が
時間停止したかの様に、止まっているのだろう。
「まぁ、彼女ほど簡単な人間はそういませんが。」
毒を出しているのも、忘れていない。
竜司自身も、ここまで難なく入り込めたので、
否定はできなかった。
「情報もすぐに手に入るでしょうが、
問題は、彼女の強固な思考回路です。」
「その点に関しましては、実力行使も構いません。」
「そうでもしないと、彼女の悪夢は終わらないでしょう。」
現実の彼女を知っている竜司からすれば、
夢の峰香だと、篭絡するのは難しいのだろう。
下手に媚びれば、彼女をつけ上がらせ、立場が逆転する。
「その点に気をつけて、彼女を攻略して下さいね。」
ーーコクリ。
と、竜司はうなづいた。
「後は、わかっていると思いますが、性的な事にもですよ。」
「彼女、抱かれる気が、満々ですから。」
ーー...。
あれだけお膳立てされたシチュエーションは、そうないだろう。
返す言葉のない竜司であったが、
その未来だけは避けようとは決めている。
「では、健闘を祈ります。」
ーーパチン!
聖女が、右手の指で音を鳴らし、
竜司が瞬きをした時には、彼女の姿は
消えていた。
「はぁ...やるか...。」
竜司改め、キリアンは、部屋の捜索を始める。
お目当てのモノは、5分も経たずと見つかった。
ゲストルームであろう二つのシングルサイズのベッド、
その間にある、照明台の下に金庫があった。
「これだな...。」
そう言いながら、キリアンは、ダイヤルに触れる。
事前に、暗証番号がインストール済みの為、
開錠も容易だった。
ーーガチャ...!
モノを見る前に、キリアンは、周りを警戒した。
前回は、機密情報を取った直後、囲まれた。
密室にいる今回、逃げ場がない為、慎重に確認した。
ーーシャァ...!
水の流れる音が聞こえるから、
彼女はまだシャワーを浴びている途中だろう。
「大丈夫そうだな...。」
そう言いながら、キリアンは、扉を開いた。
中には、一枚の写真が入っていた。
一組の男女のカップルが写っていた。
女性は、松田峰香、そしてもう片方の男性は...
「元婚約者か...」
相当、彼女にとって堪えたのだろう。
たったの一枚の写真に、とてつもない重さを感じた。
ーー持っているだけで、ヤバそうだなこれ...。
なんとなくの感覚だが、キリアンは、
この写真に込められた、怨念の様な
呪いの類を感じ取っていた。
ひとまずは、彼女の秘密は入手した。
後は、脱出するだけなのだが...。
「シャワー出たわよ。」
彼女の艶やか声が聞こえてきた。




