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童貞の覚醒Vol:1

2024/1/4、加筆・修正しました。



「はぁ...不幸だ...」



ため息と共に漏れ出す、ネガティブワード。



幸せが、体内から逃げ出していくかの様に、

不快感を表している。



その原因は、隣の部屋に住む、バカップル。



(本人は、そう呼んでいる。)



深夜0時過ぎ、



ほぼ必ず、夜の営みを、おっ始めやがるのだ。



プライバシーの安全や快適な生活を

確保するはずの壁は、無いに等しい。



特に、女性の甲高く、悲鳴にも近い声が、

こちらまで、響き渡ってくる始末だ。



それが、睡眠の妨げになり、おちおち眠れもしない。



彼、春田竜司はるたりゅうじは、

そんな男女の神聖な営みに対して、

苦い顔をしながら、ベッドについていた。



「どうして、いつもこんな...」



誰も、彼の独り言など聞いてはくれない。



だが、天井に向かって話しかけたくなる程、



その鬱憤を晴らせる場所が、虚空にしかない。



「当てつけかよ、くそ...。」



何を隠そう、彼は生まれてきてからの、30年間、



今の今まで、異性との交際経験がないのだ。



父親は中小企業のサラリーマン、

母親は、昼間にスーパーのパートタイマー、

共働きの家庭に生まれた。



しかし、彼が10歳の時、両親は離婚した。



父親はDVで暴力気質、母親はお人好しの

性格が災いとなり、友人の借金の

連帯保証人となってしまった。



友人は、どこかへ消え失せ、裏切られた、

彼女は、家族の前から行方をくらまし、蒸発した。



どちらも、可愛いはずの我が子を、見捨てた。



その為、母方の祖父母に預けられ、学生時代を過ごした。



中肉中背、身長は168cmの体型、

運動神経は中の下、これといった特技もない。



スクールカーストは最下層、成績も真ん中よりも下、



ーーやーい、バイキンー!



クラスメイトのイジメの標的にされ、

あだ名は「〇〇菌」と、バイ菌扱いされた。



上級生からはカツアゲをされ、所持金は、0円。



当時、流行っていたカードゲームのレアカードなんて、

盗られる事も、しょっちゅうだった。



生涯の付き合いとなる、親友はもちろん、

友人や話し相手でさえ、恵まれなかった。



そんな酷い状況だったにも関わらず、

家庭環境の悲惨さも相まって、竜司は、

誰にも、相談する事ができなかった。



告発した所で、それがイジメに繋がる事を恐れたからだ。



おまけに、彼自身、家族に、期待をしていなかった。



ーーどうせ誰も、助けてなんてくれない。



ーー言った所で、理不尽な目に遭うだけ。



不信感の闇が、少年の頃から、すでに覆われていた。



青春の「せ」の字もない春は、黒く染められている。



何をしても、暴言や暴力の雨が、

幼い彼に、降りかかってくる凄惨な環境。



誰かを信用したり、頼るという発想が、

1ミリ足りとも、思い浮かばなかった。



SNSに登録しても、フォローしてくれる人はいない。



連絡先に至っては、片手の指で数えられる人数しかいない。



会話も苦手、いわゆる、コミュニケーション障害である。



言葉を発しようとするだけで、心拍数は上がってしまい、

緊張して、一言目から声が上ずってしまう。



思う様に、彼が、意見や言葉を発する事が、困難であった。



当然ながら、異性と話す機会なんて、ほぼ皆無。



せいぜい、授業で配られるプリントを黙って渡す事しか、

クラスの女子生徒との接点がなかったのである。



「あっ...あの...」



か細い声で、絞り出すのが、精一杯。



だが、それがかえって、気味悪がられてしまっていた。



高校生の時に至っては、トイレで、ご飯を食べていた。



いわゆる、便所飯が、彼の安住の地。



ランチタイム、周りが、机をくっつけて、

グループを形成して、昼食を摂りながら、

談笑する中、



竜司は、ひっそりと、教室を跡にする。



誰にも、悟られない様に、クラスから

遠く離れた、個室のトイレへと、引き篭もり。



そして、弁当の開封から、食事を終えるまでの間。



一切の音を立てない。



咀嚼音を立てない様に、おそるおそるの黙食、

チャイムの鳴る3分前まで、過ごしていたのだ。



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