第15話 グレブレット洞窟の攻略
「<火の聖霊よ。我が求めに応じて炎槍を穿て! 穿て! 穿て!> てりゃあああ!!」
「フギャアアアア!」
「ったぁ……はぁはぁ……。ここが、グレブレット洞窟――」
私はその大きな入り口近くの厚い茂みに身を隠して体を休ませる。体の痛みを加速させるように大量の汗が額から零れ落ちる。ここまでほとんど無我夢中で戦い続けてきたせいで疲労困憊だ。
「(にしても、この周囲にはやっぱり人が一人も居ない。もし、そういう人たちがいたら面倒ごとを任せて後ろから付いて行こうと思ったのに……。ん?)」
不意に人の声がしたような気がして私は茂みの中で耳を澄ませる。
だが、何も聞こえない。聞こえるのは魔物の話し声と這いずる音くらいだ。
「居る訳ないか。よし……」
私はランタンを片手に洞窟の中を進み始める。しかし、想像以上に小道が多い。地面に記しを付けて進むと広いスペースがあるかと思えばまた分岐と言った感じで内部は迷路のような構造になっている。
「ん? 何か……来る!!」
歩いているとカサカサと何かがこっちに近づいてくる音が聞こえ、身構えるとそれは小さいスパイダーの大群だった。
「ひっ! 嫌あああああ!! 気持ち悪い!!」
私は思わず、そのうごめく物体から逃げようと踵を返して猛ダッシュで広い空間に逃げる。しかし、前方からたいまつをもったゴブリンたちが向かってくるのが見えた。
「げっ! や、やばい! 挟まれた! ああ、もうこうなったら自棄っぱちだ!!」
二つの入り口が見えるところで左手を構えてビクビクしていると蜘蛛の大群が先にやってきたが、私の事など見向きもせず、一心にゴブリンの方へと向かって行く、数秒後にはゴブリンとスパイダーが戦い始めた。
「魔物同士でやりあってる……? そっか、魔物にも縄張り争いみたいなものがあるのかも。とにかく今のうちに」
私は近場に居た蜘蛛数体を魔術で確実に焼き払って奥へ、奥へと進んでいく。魔物の数は深部に行けば行くほど多くなっていく。それ故に無謀な数と戦闘になったら魔物同士を戦い合わせるという事をしつつ、私は確実に最深部へと近づいて行った。
「……ここがきっと深部だね」
今までとは丸っきり違う黒い門の前までたどり着いた。明らかに深部の入り口に違いない。その証拠に周りに魔物が全くいない。きっとこの先にはオルニアスの花を守るこの洞窟の長が居るに違いない。
「行くしかない。例え、無謀でもミミの為に――」
音を抑えながら私はその部屋へと入った。部屋の中には苔が生えた王座があり、部屋の片隅でパチパチと火が爆ぜていた。不気味さは他の場所に比べて一目瞭然だ。部屋の内部から聞こえてきた音は――
「ふんふんふーん♪ 鹿の肉よりやっぱり、おいしいのは牛の肉~♪」
「(は、はいぃぃ!?)」
「人の育てる牛はおいしいな~っと! 塩コショウはどこいったけ? ああ、あった、あった!」
呆然とするしかなかった。目の前に居たのは紛れもなくオーガだ。
私の知識上、ゴブリンたちよりも攻撃力、素早さ共に遥か格上の存在だが、人の言葉を喋れる魔物など見たことがない。
「(ここは静かにそぉーっとオルニアスの花だけ……)」
「ウガァアアアアア!!!!」
「ひっ!」
オーガは私の気配を気取ったのか、私の進路を阻むように立った。
そして、咆哮を上げて体を巨大化させる。
「ま、待って!! 私はあなたの料理の邪魔をしようとか、命を奪ってやるとかそんな野蛮なことをしに来たわけじゃないの!! オルニアスの花を一つだけ欲しいだけなの!! お願い、お願いだからオルニアスの花を譲って! この通りだから!!」
「んっ……? お前がやろうとしたことは盗みだぞ?」
酷く低い声が部屋の中に響く。でも、言葉が通じた。これなら取引だってできる。
戦いを挑んだところで勝ち目なんてないことは私がよく分かっている。
「ごめんなさい。でも、あなたに話し掛けたら殺されると思ったから」
「それも……そうか。こんな強面だしな。ならば、お前に問おう。その花を何のために使う? そして、お前が代償として出せるのは何だ?」
「大切な人を救うため。『薬』を作るためにどうしても必要なんです。代償は逆に何がいいですか? 私が差し出せるものなら差し出したっていい!」
「そうか……こんな可愛い子にそこまでさせるとはさぞ、バカな奴なのだろうな。うむ、代償は『お前』が良い」
「えっ?(まさか、このオーガ、そういうことを――)」
「馬鹿め、何を赤面している? 俺が求めるのは人間の話だ。それを俺に聞かせろ。特にこの花を奪いに来る奴らのことや街の料理なんかをな! いや、特に料理の事を!! ふんす!」
「え? あ……わ、わかりました。私が分かる範囲ですけど……」
「ああ、構わん! 教えてくれ!! 交渉成立だ! ふんす!!」
急にオーガの鼻息が荒くなったことに苦笑いを零す。
何でもこのグレブレット洞窟の長であるオーガさん曰く、人間に対しては興味があるらしい。特にその料理に関することが聞きたくてしょうがなかったらしい。
「何!? 辛くてスパイシーなかけご飯だと!? それはあの、リゾなんとかとは違うのか?」
「ええ、リゾットとは違います。白いご飯に何種類ものスパイスを入れて、野菜や牛のお肉を煮込んで作ったものです。ただ、私の故郷のご飯なのでここら辺で似たようなものがあるかは分からいんですけどね」
「そうか……だが、同じような感じのモノは作れるかもしれんな」
こんな具合でオーガさんとの料理話は小一時間ほど続き、私は約束通りオルニアスの花を手に入れた。オーガさんの方は興奮冷めやらぬと言った感じでメモを取っていて、なぜか私の呼び方が変わっていた。
「ぜひまた来てくれ! 最早、我々は料理の友!! おいしいモノさえ、共有できればいいと思うのだ!」
「あはは……」
「そんなあからさまに嫌そうな顔をしないでくれ、友よ! 魔物の作る飯には魔力の回復や筋力強化のバフが掛かるのだから聞いて損はないはずだぞ?」
「えっ!? それ本当に!? (てか、バフとかどこで覚えたの!?)」
「本当だ。なにせ、過去の魔王様がそう言っていたのだから間違いない!」
軽く凄いことを言っていたが、私は地雷じゃないかと考えてあえて聞かずにまた来ると告げて去ろうとする。そんな私にオーガさんは『守り獣のお守り』を渡した。何でもこれさえあればここら辺の魔物は全て道を開けるという。
「じゃあ、オーガさん、また来ます!」
「おう! 次はおいしいご馳走を振舞うぞ! ふんす!」
フライパンを片手に手を振るオーガさんに応えながら部屋を出た。疑心暗鬼にりながらも『お守り』を片手に道を歩く。すると洞窟内の魔物が、森林内に居た魔物たちが道を開けて行く。さすが、この洞窟の長のお守りだ。
「さぁ、急いでギルドに行かないと!」
私は治癒士エルバスの指示通り、ギルドで依頼を出すために帝都へ向けて馬を走らせ始めた。




