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第13話 隠された力

「だめだ。ビクともしない……」

「グーファ! さすがにそのガレキは一人じゃ上げられないよ!」

「エリカ様!? どうして……!?」

「話は後! この子のお母さんを救うんでしょ? リリアナ、何か魔術でこのガレキを粉砕できない?」

「さすがにそれは無理よ! 出来たとしても下になっている人にけがをさせちゃう」


救助活動を始めた私たちだったが、それは正にお門違いな作業で苦戦を強いられる。それでも私たちは諦めなかった。リリアナとミミは女の子とそのお母さんに絶え間なく話し掛け、四人がかりで必死にガレキを除去しようとする。

でも、そのガレキは重くビクともしない。私たちは作戦を変えて近くにあった鉄材をガレキの下に入れて精一杯、テコの原理で引き上げる。


「ふんっ! これでどうだ!?」

「待ってグーファ! 私と合わせて一気に上げるよ! 二人はこの人を引っ張り出して! 行くよ、1、2の3!!!」


ガレキがわずかに上がったタイミングで一気に二人が女性を引き抜く。その姿を見て女の子は慌てて駆け寄る。


「お母さん、おかあさん!!」

「エミリアっ! みなさん、ありがとうございました。どんな風にお礼を言ったらいいか……!」

「いいえ、私たちは当然の事をしたまでです。ね、そうでしょ? グーファ」


そんな私の問いにグーファはしっかりと頷く。それも束の間でまだまだたくさん逃げ遅れた人たちの声が聞こえる。私たちはその人たちの元へ駆けだそうとした。

しかし、それを見越したようにゴーレムが三度、咆哮を上げる。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「な、何あれ!? なんかさっきのゴーレムと色が――っていうか、こっちに来るわよ!!」

「まずい、まずいっ!」


ゴーレムは石まみれだった体に虹色のオーロラを纏って私たちの方へと駆けてくる。その様子を見た周囲の人間は者も蜘蛛の子を散らすように逃げていく。そして、私たちに向けて心無い言葉が飛んでくる。


「おい、奴隷にあいつを止めさせろ! どうせ死んだって奴隷なんだから早く行かせろよぉ!!」

「そうよ、あいつを止めなさいよ!」

「そんなこと出来る訳ないでしょ!! あんな化け物、私たちが束になったって敵う訳ない!!」

「うるせぇ! 少しでも時間を稼ぎやがれ! この奴隷使いがぁ!!」

「くっ……」


私はそれ以上、不毛な議論をするのを辞めて現実を直視した。このまま、今すぐココを離脱してもあのゴーレムの動きじゃ、間違いなく追いつかれる。そうなったら私たちは確実に死んでしまう。こうなったら戦うしかない。


「……リリアナ、馬車の扱いは知ってるよね?」

「えっ? あ、う、うん……」

「なら、ミミとそこの二人を連れて、早く逃げて!」

「ま、まさか、あのゴーレムとやり合うつもりなの!? いくら何でも無謀よ!」

「うん、分かってる。……でも、それしか私たちが生き残る道はない!」

「お、お姉ちゃんがそんなことするなら――私だってここに残る!」

「……ミミ、ありがとう。でも、その言葉だけで充分だよ? その……私は欲張りなの。ここに居る人を犠牲にしたくないし、ミミの事も救いたい。その可能性が一番、高くなるのはこの方法なの。だから……リリアナと一緒に行って」


私はそっとミミの体を抱きしめ、頭を撫でてからグーファへと視線を移す。グーファもこれが到底、勝ち目のない戦いであることは理解しているだろう。それでも、彼の力が必要だった。一秒でも、二秒でも長く時間を稼ぐために――。


「グーファには悪いけど私と時間稼ぎを一緒にしてもらう。それでいい?」

「はいっ! 言われなくてもそのつもりです」

「ふふっ、それは心強い。さすが男の子だね」


私はそっとリリアナに目配せをした。その目線で私は「もし、私たちに何かあったらミミをお願い」と言葉無き姿勢で示す。正直、これがどこまで伝わっているかは半信半疑だ。それでもリリアナは少し辛そうな顔をしつつ、しっかりと頷き返して泣き叫ぶミミを私から引き剥がして親子と共に馬車でこの場を去って行った。


「さーて……グーファ、どうしよっか?」 

「あんなカッコいいこと言っておいてノープランですか?」

「痛いこと言うね、グーファは……。そう、実はノープラン。でもさ、あの足さえ止められればそれでいいと思うの」

「確かに。足さえ止められれば被害を最小限に抑えられますもんね。じゃあ、足狙いで攻撃を集中させましょう」

「うん」


私たちは迫りくる巨体を前に剣を前方に構える。近づいてくる巨体が起こす地揺れが確実に私たちへ恐怖を煽って来る。それでも退く訳に行かない私たちは一瞬、アイコンタクトを交わす。


「こんなの、フラグだから言いたくないけど……もし、私がやられたら全速力で逃げるんだよ?」

「女性を一人置いて逃げる――そんなこと、僕にできると思いますか?」

「へぇ? 嬉しいこと言ってくれるじゃん? 信頼してるよ、グーファ!」


私は意を決して右手に剣を持ち換えて左の掌を突き出し、自分の持てる全ての力を込めて言葉をはっきりと紡ぐ。


「<眩き紫弾よ、我が求めるのは殲滅のみ。爆ぜる風は吹き抜け、かの者に死の旋律を響かせよ!>」


その刹那、リリアナが以前に生成した魔術紋よりも遥かに大きいサイズの紋様が目の前に浮かびあがり、風がその場に吹き荒れる。この初弾が大きな意味を持つことを理解しているからこそ、私は集中力を研ぎ澄ます。過去の失敗は今、ここで取り戻す。


「当たれぇぇぇ!!」


その一言と共に魔術陣がグルンっと時計回りに回って巨大な紫の弾が高速スピードで残像を残して飛んでいき、確実にゴーレムの胸元を抉った。そして、まるでクラスター爆弾の様に分裂し、爆発を引き起こす。その衝撃と爆発音が轟き、確実な手ごたえを感じたが、ゴーレムの動きは一瞬、勢いを失っただけに過ぎない。


「てやぁぁぁ!」


グーファは動きが止まったゴーレムの足元に滑り込んで一閃、二閃と斬撃を足元に入れる。そして、そこからさらにグーファは斬撃に魔術を要り交ぜていく。


「<剣帝よ、鋭き刃は神速となりて真敵を滅する。我が斬撃に力の施しを与えよ>」


グーファがそう言葉を紡ぐと目で姿を追うことが難しくなるほどの速度でゴーレムの足元に斬撃を打ち込み始める。明らかにゴーレムを圧している。しかし、事態はそう簡単ではなかった。


「ヌウウウオオオオオオオオォォォォ!!!」

「うわああぁぁ!」

「グーファ!!」


斬撃の最中、ゴーレムが手をグーファに振り下ろす。剣撃の速度に乗せるように退こうとしたグーファだったが、モロに攻撃を受けて宙に飛ばされる。そして、そのターゲットは私へと移る。今度は「俺のターンだ」と言わんばかりに止まっていたはずのゴーレムの足が再び動き出す。


「<火の聖霊よ。我が求めに応じて炎槍を穿て!>、<穿て!>、<穿て!>」


咄嗟の判断で高速射撃ができる魔術を選択して動きを止めようと撃つ。しかし、その攻撃を受けても「そんなものか」と言わんばかりに真正面から受け止めながら突っ込んでくる。その刹那、ゴーレムの拳が私の腹部を抉って、空高く飛ばされて建物に突き当たる。


「ぐはぁっ……! うっ……」

「こ、このおぉぉ!」

「グ……グ、ファ……にげ、て……」


痛みで声が出ない。その中、再び立ち上がったグーファは一人でぼろぼろになりながら私に向かってくるゴーレムを止めようと足掻く。でも、力の差は歴然としていてゴーレムの攻撃が再び、グーファの体を捉えた。


「ぐはっ……!」

「グーファ! くっ……」


ピクリとも動かなくなったグーファを横目に私は無謀だと理解しながらも体に動けと言い聞かせ、剣を拾い上げてゴーレムに向けて駆け出す。だって、グーファは私を守るためにゴーレムの前に立ちふさがったんだ。私が一矢報いなければグーファの行動が無駄になる。


「うりゃああああああ!! はっ!? くっ……!」


剣を上段に構えて振り下ろそうとするが、強力な腕力任せの攻撃が私に襲い掛かった。剣を盾にするようにしながら私は再び、宙を舞った。落下して地面を数回、バウンドした体にはもう、動ける余力は残っていなかった。ゴーレムはそれを良いことに私の息の根を止めようと近づいてくる。


「もう……だめ……かな……」


ゴーレムに挑む前から既に分かっていたことだった。それに剣撃の戦いに打って出た時点でもう勝負は決していたんだ。この戦いを私たちの勝利で終わらせることなど出来る訳がなかったんだ。ゴーレムの足がゆっくりと地を離れ、私に向かって振り下ろされる。


「潰されて……死ぬ、とか……。私にお似合いじゃん。大切な仲間すら……助けられずにさぁ……」


死を覚悟して涙を流す。もし、私がこの街の人たちを見捨てる判断をしていれば、こんなにも大きな犠牲を払う必要性はなかったはずなのに――。


「みんな、ごめん……」


悪役になり切れなかった自分に後悔を抱きながら、避けられない死を受け入れるように目を閉じた。すべてが暗闇に包まれる。


「どこ見てんのよ、このデカブツ!! <眩き紫弾よ、我が求めるのは殲滅のみ。爆ぜる風は吹き抜け、かの者に死の旋律を響かせよ!>」

「っ……! どうして……」


その場にリリアナの声が響き渡ると共に爆風で目を開けられなくなる。ただ、目の前に居たゴーレムは片足を上げていたせいでバランスを崩して倒れたのは間違いなかった。


「エリカ、助けに来たわよ」

「エリカお姉ちゃんっ!」

「あいつには……敵わないっ! ……早く二人とも逃げてぇ!」

「大丈夫だよ。お姉ちゃん、すぐに終わるから!」

「えっ……?」

「……ミミ、本当にやるのね?」

「うん、リリアナちゃん、それしか道はないよ」


スッと私たちの元を離れようとする二人の言葉に嫌な予感がした。あの二人は私の知らない何かを仕出かすつもりだ。私は咄嗟にミミの手を掴んだ。でも、ミミは静かに笑みを零して手を引き剥がしながら、こう言った。


「ごめんね」


リリアナはゆっくりと左手を前に突き出して言葉を紡ぎ始める。


「<力の始祖たる神帝と大地の聖霊よ、神域に踏み入る我は罪を断罪する代行者なり。聖なる祈りと恵の大地の理は我らと共に在り――」


それと同時にミミがリリアナの手を握る。するとその手が光り輝き、体の周りに黄色の光の粒子が飛び回る。それと同時にリリアナが展開する魔術陣がより大きくなっていく。


「<周り回りし縁は善と悪の天秤にかけられた。我が思いとその名の元に今、審判を下せ。ドウバイン・パニュシュメント!>」


その刹那、輝く光線が立ち上がろうとするゴーレムの体に当たる。その絶対的な輝きを灯す光は全てを飲み込むようにしてゴーレムを貫いた。光が終息するとそこにはゴーレムの姿はなく、完全に消え失せていた。


「消えた? た、倒したの……?」

「ゲホゲホ! えへっ! えへ!……」

「ミミ、ミミ、しっかりして!」

「……ミミ!」


私は痛む体を引きずりながらミミの元に駆け寄る。ミミはその場で崩れ落ちてドス黒い血を吐き続けていた。理由は考えずとも分かる。さっきの魔術使用以外に他ならない。


「……リリアナ!」

「エリカ、私は……」

「分かってる……。リリアナはミミをお願い。私はグーファを」


全身が痛くても頑張って自分に動けと鞭を入れる。正直、今の一件に関してリリアナに対してムカついていたのは事実だ。鋭い視線を送ったのも事実だから言い逃れは出来ない。けれど、リリアナとミミの攻撃が無ければ私たちは確実に死んでいた。


「また……また……わたしのせいだ……」


そう、すべては私の力が足りなかったから。

だから、この子たちに無理を強いる形になってしまった。最も怒られるべきなのは私なのだ。彼女たちを怒る筋合いなんて私にはない。その怒りを心の奥底に飲み込んでグーファの元に駆け寄る。


「グーファ……! うっ……大丈夫……?」

「うっ、腕がぁ……」

「馬車まで……頑張って……!」


腕に力が入っておらず折れているのは見るだけで分かった。私はボロボロになったグーファと共にリリアナの元に合流したものの、グーファの怪我とミミの症状悪化を前にどうしたらいいのか、分からなくなってしまったのだった。

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