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第11話 戦闘のビギナーとゲテモノ料理

「エリカ様、今です!」

「ぬりゃあぁぁ!!」


私が横凪で振るった剣は蜘蛛のような魔物を捉えた。力一杯、横に振りぬくと綺麗に胴体が両断され、その場に緑色の鮮血が目の前に飛び散った。手には確実にやり切った感覚だけが残る。


ゴブリンに襲撃を受けていた兵士たちを救った私たちは隣国への道のりを辿りながら、魔物を見かけるたびに停車して戦いを挑んでいた。一つ目の山を上り下りする間に、かれこれ10戦くらいはやりあっている。数をこなせば、こなすほど、確実な手ごたえを感じた。


「やりましたね、エリカ様! あの蜘蛛スパイダーに対しての凪払いは見事でした! スパイダーは基本的にいろいろなところに出現するので今後も今みたいな対処をすれば大丈夫です!」

「あ、ありがとう。グーファがうまく誘導してくれたお陰だよ。……でも、できればあんなカサカサした動きをする魔物にはもう会いたくないな……」

「まぁ、それには私も同感ね。でも、結果オーライじゃない? あれだけ速い動きの魔物を倒せれば。――というか、エリカ。あなた何者? 順応力が高過ぎよ。次々に私たちの戦闘技術を自分のモノにしていくじゃない」


リリアナは私の成長ぶりに驚きながらも褒めてくれたが、まだ私的には力不足を感じ続けていた。実際、今回の戦いも見つけてから魔術で奇襲を掛けて一気に畳みかけるはずが、見事に初弾を外してしまい、リリアナのカバーを貰ってしまった。


「自分のモノになんて出来てないよ。リリアナに教わった魔術も当たらなかったし」

「いやいや、そもそも魔術を素人が発動できることが異常だって言ってるの!」

「そういうモノなんだ……?」


私はあくまでグーファやリリアナの動きを見て、それを真似しているだけにしか過ぎない。それがただかみ合っているだけなのであまり驚きようがなかった。


「さてと、もう少し進んで野営の準備をしよっか? 日も暮れてきたし」

「そうですね。ちなみにエリカ様。この山の麓――地図でいうとこの辺まで行けば隣国の領内です」

「いよいよだね。そうと決まったら行けるところまで行こう」


私たちはそのまま山下りを続けて麓の町並みが良く見える平たんな場所に野営地を設営した。山だけあって湧き水や木材も豊富にあり、物資調達には何も困らず、夜を迎えた。


「うさぎちゃん……ごめんねっ! うにゃぁぁぁ!!」

「リリアナ? その……私が代わりにやろうか?」

「エリカ えええんんんっ……!」


リリアナが涙を流しながら料理をする様子を見て居たたまれなくなった私は、隣で一緒に調理をしながらお湯で肉を煮込む。さらにそこにアルフルの果汁と複数の山菜、それから『神経鎮静薬』の調合にも使う『オーディリット草』を入れてマイルドな辛みのある鍋のような感じになった。ウサギの肉だと言われなければ意外にもおいしそうな外観をしている。


「やっぱり、こんな肉なんて食べれっこないわよ」

「まぁ、『モノは試しに』って言うしね」

「お姉ちゃん、この肉ってうさぎさんなの?」

「ミミ、それは聞いちゃ駄目だし、言ってもダメだよ……?」

「うん……? 普通においしいんだけどな? はむっ」


グーファがさも当然の様に口に運ぶ様子を見て私とリリアナ、ミミは恐る恐る口にウサギの肉を口に運ぶ。煮込んでいることもあってか肉が少し硬いような感じもしたが、鶏肉のような感じで不味くはなく、普通においしかった。


「案外、私は行けるかも。リリアナ的にはどう?」

「うん、臭みが少し残ってるけど、これはなかなかかも知れないわ。ゲテモノの中じゃ上級食ね。ミミは食べれそう? それなりにこの肉、固いと思うけど」

「ううん……少し硬くて食べづらいの」

「やっぱりね、貸して?」


リリアナはミミのお茶碗を受け取って肉を口でかみちぎって食べやすい様にしてあげる。正直、私がその役をやりたかったというのはココだけの秘密だ。


「あ、ありがとう、リリアナちゃん」

「本当にリリアナはミミのお姉ちゃんみたいだね」

「え!? いや、別にそんなじゃ――っていうか、グーファ、この肉が固いなら固いって言いなさいよ! ミミが大変でしょうが1?」

「え!? また僕のせい!?」

「違うよ、グーファ。ただ単にリリアナはデレてるだけだから。あれは」

「わ、私はデレてなんて! あちっ!」

「大丈夫? リリアナちゃん」

「だから、『ちゃん』付で呼ばないで!」


リリアナは動揺すれば動揺するほどミスが出てくる。本当に『からかいがい』ある。

それに今更だが、こんな風に三人とワチャワチャするのはすごく楽しい。


「(まるで、家族みたい)」


私は未だガヤガヤしている三人を他所に煮込みで火照った体を冷まそうと三人の元を離れて、山の麓街が見える位置まで歩いて地面に腰を下ろし、その様子を遠目から眺めはじめた。


「ふぅ~……」


ちょうど山の真下を深く切り取ったかのようにできている町はいかにも『鉱山街』と見て取れるような作りをしている。耳を澄ませば微かにカタカタという機械音だったり、石を削るようなカツン、カツンという音が聞こえる。


「やっぱり、標高が高いと涼しいですね。エリカ様」

「……そうだね。あれ、それより二人は?」

「結局、なんやかんやで僕が悪いってことで収まっちゃって……」

「あはは……それで逃げてきたんだ?」

「まぁ、そんなところです。エリカ様はどうして街を?」

「あっ、うん……鍋物を食べてたら熱くなっちゃって。……それにこの街、山を掘ってできた感じの割には随分、要塞化されてるみたいじゃない? 私、フレストしか街なんて見たことないから、なんか新鮮でさ」

「そうだったんですか。この『テッピオ』っていう街は昔から鉱山が中心の街で、ハルバース帝国にとってはリブタニア王国との国境。つまり、防衛の要なんです。そんな理由もあって他の街と比べたら少し物々しい街だから雰囲気も違うんだと思います」


グーファは何処か遠くを見て、思い出すように私に笑みを零す。その面影はどことなく無理に笑っているようにすら見えた。きっとこの地はグーファにとって何らかの意味がある場所なのだろうと感覚的に察した。


「ねぇ、グーファ? グーファはもしかして、この街に来たことあるの?」

「あっ……いえ、僕は別に――」

「そっか。まぁ、街に寄るって言っても通り抜けるけどね。ん~気持ちいい!」


グーファは私の問いに視線をあからさまに外した。何か隠していることは今のやりとりで分かった。けれど、その顔は酷く思い悩むような「言いたくない」と書いてあるような顔だったから私はあえて深くは突っ込まず、後ろに体を倒して背伸びをした。


「ふ~やっぱり山だから空気がいいのかな?」

「横になるのは良いですけど、眠らないでくださいよ?」

「大丈夫、寝たらきっとグーファがテントまで私を運んでくれるでしょ?」

「……そんな、買い被りすぎです。まぁ、頑張りますけど」

「ふっ、本当にグーファって何事にも真っすぐというか、順々というか」

「エ、エリカ様……僕をからかわないでくださいよ……」

「ごめんごめん、冗談だって! ふふっ、でも、本当に寝ちゃいそうだからテントに戻ろっかな? よいしょっと」


やり過ぎると本当にグーファがへそを曲げそうで怖いから私はスッと反動を付けて立ち上がる。すると、グーファも立ち上がって私へと手を差し出す。


「……ん?」

「足場も悪くて危ないので手を繋いで戻りましょう?」

「あっ、ありがとう。ふふっ、エスコートだ? じゃあ、お言葉に甘えて」


グーファは顔を赤らめながらも私の手を握って歩幅に合わせながら歩き方を変えてくれる。現実世界じゃ。こんな女性扱いを受けて来なかっただけに嬉しくなった私はテントに着いた所でグーファにギュッと抱きついた。


「うーん! 到着っ! グーファ、エスコートありがとうね!」

「え、あの、えっと、別にしょんなことは……」

「また、明日からよろしく。見張りの時間になったらちゃんと起こしてね?」


顔がゆでだこ並みに真っ赤になっているグーファの頭を撫でた私は早々にテントで眠りに付いたのだった。

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