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第10話 薬草作りとゴブリンの群れ

森の中は至って静かで昨夜みたいな魔物は存在しないのではないかと思うほど平穏だった。所々で休憩をしつつ、隣国に向けて歩みを続けていく。そんな中、ミミは今朝、グーファが取っていたアルフルの実の一部に穴を開けて草を中に詰め込む。


「ミミ、それは何を作ってるの?」

「アルフルの実の果汁にミルティア草を浸して傷薬を作ってるの! 正直、塗ると痛いけど、効き目は凄いから」

「へぇ~? 私でも作れるかな?」

「うん、簡単だよ! こんな風に切ってそれから中身を――」


私はミミと一緒に休憩の度に集まって薬を作り続けた。リリアナとグーファは周りを警戒しながらも周りにある川から水を汲んだり、食べられそうなモノを探し出してくれていた。


「エリカ様~!」

「ん? どこからかグーファの声が……って、え!? うさぎ!?」

「はいっ! ウサギの肉って食べれるんですよ? 知ってました?」

「食料……なんだね、あはは、ありがとう」


食べれるものだって言うのは聞いたことがあるけど、ウサギと言えば飼うモノというイメージがある私は引きつった笑みを浮かべる。するとグーファはウサギと私を比べ見て、「おいしいのに」と首を傾げていた。狩りの結果を自慢したくなったグーファはリリアナに声を掛けたが、その場に絶叫が木霊した。


「ぎゃぁあああ!! うさぎちゃんがこっちをみてるっ! ちょっとグーファ!!」

「な、な、何だよ!?」

「何だよじゃないわよぉ! なんでこんな可愛い子を!」

「いや、だっておいしいだろ?」


リリアナはやっぱり分かってくれると思っていた。調味料にこだわった朝の料理ができる彼女ならゲテモノ料理になるであろう食料を容認するはずがないと思っていた。でも、同時にここまで素直になんでもかんでも食料を集めるグーファを見ているとその天然ぶり――無垢さ加減は相当なモノだと思ってしまう。


「お姉ちゃん? 笑ってるけど、なにか可笑しいの?」

「いや、改めてグーファってすごく愚直で努力家で、誰よりも他人の為に頑張れる男の子なんだなって思ったら、おかしくなっちゃってさ。ただそれだけ! さぁ、そろそろ出発しないとね」

「う、うんっ!」

「グーファ、リリアナ、そろそろ行くよ!」

「は、はい!」


グーファが威勢よく返事をする中、リリアナは険しい視線を向けたまま、早歩きで寄って来る。そんな様子は馬車の中でも同じで、人目をはばからずにウサギの血抜きをするグーファにリリアナは軽蔑するような目を向け続けていた。私はミミに寄りかかられながら馬車の手綱を握って進み続ける。


「お姉ちゃん、この道を通れば山道に出るよ」

「山道に出たらそこからは山登りなんだっけ?」


私がミミにそう問いを投げると一番、後方に居たグーファが誰よりも先に反応した。


「ええ、そうです。2つ山を越えて行けば目的のハルバースが見えてくるはずです。でも、気を付けてください。ここら辺一帯は視界が悪いので魔物に出くわす可能性が――ってエリカ様?」

「ああ~うん……。(いや、グーファさ、なんでそんなこと言うの!? それ絶対にフラグになるから!)」


そう思ったのもつかの間で前方に煙が立ち込めているのが見えた。よく目を凝らしてみるとそこには商人風の馬車を護衛する兵士たちが居て、数十体のゴブリンを相手に奮闘している最中だった。


「ほら、グーファ……」

「え? な、なんですか? なんでそんな嫌そうな目で僕を見るんですか?」

「もう、鈍いわね!? エリカは「変なことを言うから現実になった」って言いたいのよ!」

「え?? 僕のせい!?」


リリアナはグーファにそう吐き捨てながら、ミミの持つ地図を注意深く覗き込む。


「ん~……エリカ、この道を外れると随分、遠回りになるわ。あの兵士たちに加勢してゴブリンを追いやることができれば遠回りしなくて済むわ」

「……。でも、私たちが加勢して勝てる見込みはあるの? ぶっちゃけ、私とミミは戦力外だよ?」

「ゴブリンは集団だと強いですが、統率さえ失えば崩壊します。腕章を付けているゴブリンを最初に討ち取れば勝機はあります。どうしますか、エリカ様?」


私たちにとって最良な選択は目の前の戦闘に介入することだということは理解している。しかし、昨日、起こった一連の出来事が私の決断を鈍らせた。この世界の人々は『奴隷』を人間として扱わない。それなのに私たちが彼らに協力する価値はあるのかという思いが巡る。それでも今は、前に進む決断をしなくてはならなかった。


「(悩んでる余裕はない。例え、見下されても私たちには時間がないんだから)」


ここで手間取れば『ミミの残された時間』がさらに限られてしまう。悩んだ末、私は前を見据えた。


「あの兵士たちに加勢して突破しよう。時間は待ってくれないからね」

「そう来なくっちゃね! やるわよ、グーファ! 私が前衛、接近されたら対処はお願い」

「わかった。ミミとエリカ様は馬車から離れないでください」


馬車から颯爽と降りたリリアナは杖を構えてアウトレンジから攻撃の体制をつくる。

そして、一つ深呼吸をしてから手を杖に意識を集中させて言葉を紡ぐ。


「<眩き紫弾よ、我が求めるのは殲滅のみ。爆ぜる風は吹き抜け、かの者たちに死の旋律を響かせよ!>」


その刹那、目の前に紫色の魔術陣が展開され、その中から高速スピードで紫の球体がゴブリンたちの方へ飛んでいく。息を突く間もなく着弾した紫の球体は散弾銃の如くさく裂した。意識外からの攻撃に防御が間に合わなかった指揮官ゴブリンは一瞬にして消し飛び、統率が崩壊する。


これを好機と踏んだ兵士たちは一気に攻勢へと転じる。


「ぬらぁあ!!」

「ぎゃぎぃぃいい!!」


統率の要である指揮官を失ったゴブリンたちはその場から慌てて逃げ去って行った。その様子を見た兵士たちは疲れ切って地面に腰を下ろす。私たちはその様子を見て一難去ったことに安堵しながら馬車を彼らの方に寄せた。


「大丈夫でしたか? あなた達、怪我は?」

「ああ、大丈夫だ。悪いな、援護に感謝する。数名程度の負傷だから問題ない」

「そうですか、けが人の方が居たら私たちが――」

「いや、いい。奴隷なんぞ連れてる連中に手を貸してもらっては我々の名が廃る」


傷薬もあるし、軽い応急処置くらいならと思ったが、またしても心無い言葉を掛けられ、「またこいつらもか」と私は鋭い眼光を兵士たちに向ける。

よく見ると彼らの馬車には『剣と馬の紋章』が埋め込まれていて、どこか高貴な家柄の馬車である事は理解できた。彼らはその『プライド』を守るためにお高くとまって意地を張っている。それなら私たちが手を貸す必要もない。


「そう……。じゃあ私たちはこれで」

「あ、あの、これ傷薬で――」

「要らねぇって言ってんだろ!!」


私の言葉と反してミミが親切心で運んで行った傷薬を兵士の一人が跳ね除けた。その反動でミミが地面に倒れ、アルフルの実がゴロッと転がる。


「ひゃっ……!」

「ミミ、大丈夫!? ……あなた達なんて助けなきゃ良かった。せいぜい『奴隷連れの私たち』に助けられたことに感謝することね、この馬鹿どもが!!」


私はそう吐き捨てながらミミを抱えて馬車に乗せ、その場を後にした。

毎回まいかい、こんな心無い言葉を掛けられてしまうと馬車の中は完全にお通夜状態だ。こんな時、私は何と声を掛けたらいいのか全く分からなかった。


「(「気にしないで行こう」なんて言えたモノじゃない。でも、ここで私が何も話さなかったら話さなかったで『自分たちのせいだ』って思いこんじゃうよね……。ああもう私、何やってんだろ。私らしく生きようって思っていたはずなのに)」


そこで自分の中で改めて誓いを立てた。

『もう、この子たちが悲しむのなら誰とも関わらずに自分たちの力で生きて行こう』と。だから、私は自分を戒めるようにこう言った。


「次から魔物が居たら私も前に出るからグーファとリリアナはフォローして」

「え、あっ……はい。でも、どうして急に? 前に出ると危険ですし、エリカ様は後ろに居た方が――」

「ううん、それだと何も変わらないでしょ。昨日も言ったけど私は自分の身を自分で守れるくらいの力は持っておきたいの」

「エリカ……」

「……わかりました。ただ、本当に気を付けてくださいね?」

「ありがとう、本当に優しいね? グーファは」


私がそう言いつつ、チラッとグーファを見ると顔を赤らめていたのが分かった。本当に初心だと分かる反応に微笑を零しながらも私は再度、馬に鞭を入れる。正直、前に出て戦うことで何か意味ある結果を生むことになるのか、私にも分からない。でも、確かなことが一つあった。


「(現実世界でもこの世界でも経験を積まなきゃ、何も学べない。それに成長なんてしない。その点は絶対に同じ。怖いっていう感情は確実にあるけど、ミミを救うためにも、みんなを守るためにもそういう力は絶対に必要なんだから)」


今まで下向き気味で生きてきた私はそれを痛い程、理解している。別にこの世界の主人公になる必要はない。私個人として唯一、生かせる強みを心に抱きながらこの子たちと一緒に前へ、前へと進んでいければそれでいい。私は一段と明確になった目標を胸に隣国への道をひたすら進むのだった。

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