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八十五 三郷あきらの不器用な声援。そこに気持ちは含まれているのか?

 九月二十日。曇り。午後一時三十分。


「さて、それじゃあ朝日奈養鶏場に向かうか!」


 小林一等陸佐の声に反応した部下達の返事は「へぇ~い……」だった。

 いや、自衛隊的にそれはどうよ?


「お前ら! いくらオレの監視役と言ってもその態度はなんだぁ!? 弛みすぎだぞ!!」


「はっ! 申し訳ありませんでした! 小林一等陸佐を舐めて……老害ジジイ共に反抗する気概が無い、クソ野郎に掛ける言葉が『くたばれ』しか思い付きませんでしたっ!!」


 それはいくら何でも小林さんが可哀想過ぎると思う……


「いや、その、私は……私は蘭堂様にこの身を捧げる覚悟を果たしましたが、それでも言わせて貰えるのであれば、やはり小林一等陸佐は惰弱であると言わざるを得ません!

 貴方は周囲の老害の機嫌を気にしてなぁなぁで収めようと腐心するばかりです!

 この際だから言わせて貰いますが、貴方は……」


 十島さんのダメ出しと説教に、小林一等陸佐は膝を突いて、頭を抱えた。


 組織の透明化。派閥と利権を完全に排除して大宮駐屯地の清浄化を進めるのは今しか無い!

 と、次代を担う部下……サドッ気満点の部下二人に詰め寄られて頷かない男は居ないだろう。


 自衛隊大宮駐屯地の今後を……駐屯地の今後が、平穏にある事を願う……


「今更だが、大宮駐屯地は本当に大丈夫なのか?」


 ホントに今更だな。大丈夫か否かは上位種たる健治さん達がこれから作り上げるべきだ。



 いよいよ最後の締めの挨拶という段階で。


「じゃあ、ここはやっぱりあきらさんかな?」

「そうじゃな。余は話にしか聞いた事は無いが」

「あきらお姉様の号令は素晴らしいです!」

「あきらの号令は大したものだからな」


 じゃあ、そういう訳で。朝日奈養鶏場に向かう人達に……いや、全員に気合いを入れてみようか!


「じ、自分がですか!? 朝春君の頼みと言うならやぶさかではありませんが、それでは……自衛隊……と言うか防衛大学校式でいかせて頂きます。あ、後片付けの方達はちょっと手を止めて下さい」


 あきらさんとねねを中心としてマンションの住人達が周りに集まった。


 恐らく市役所でもやったアレだろう。

 あきらさんから若干の距離を置いて構えるが……隣に立つねねはあの時一緒に居たよな?

 なんか照れているような、ちょっと涙目で感慨深そうにしているけど……完全に油断しているようだ。


「じゃあ、準備も整ったようなので、あきらさん、盛大にお願いします」


 頷いたあきらさんは手を腰の後ろに回して深く息を吸い込んだ。そして胸を反らせて。


「傾注ーーーーーーーーー!!!!!」


 きた。あきらさんの良く通る大声が隣に立つねねの鼓膜を震わせて、周囲の注目を一身に受ける。


「本日!! 宮湖橋ねねはこの地を離れ!! 自衛隊大宮駐屯地へと入隊する事が決まった!! 諸君!! 戦地へ赴く同胞たる少女への手向けとして!!

 盛大な拍手を賜りたく願う!!

 拍手ーーーーーーー!!!!!!!」


 ねねに向けて、盛大な拍手が住人達から送られた。正直に言えば「え? ねねちゃん、自衛隊に入るの?」っていう認識だと思うが……まぁ、壮行会? はノリが大事だ。


 門や鶏小屋の作成で住人連中と交流を深めたねねは涙を浮かべて彼等と言葉を交わし、再会を約束してスマホで写真を撮っていたり。


「三郷さん、防大式ならお酒が無いとパチモン……単なる体育会系の声だけ大きい壮行会っぽい何かですよ?」


 やはり最上さんがぶち込んできたな。


「それで良いんですよ。これは壮行会っぽいイベントで単なる区切りですから。あきらさんの口上は箔付けみたいなもんです」


「へぇ? 確かにさっきの口上は大したものだったわね。自衛隊の……男でもあれ程立派な口上は中々聞けないわ」


 あんた……最上千鶴……だよな?


「何故他人を褒める!? さては貴様、最上さんに成りすました敵か!?」


「私だって十年に一度位はゴミを褒めますー」


 つまり生まれてから二度目か。それはレアが過ぎるな。ステーキだったら生焼け過ぎて食えたもんじゃ無い。


「今生の別れじゃ無いんだ。そろそろ時間だから車に乗って下さい」


 ねねに許された荷物は下着と洗面用具に基礎化粧品、筆記用具とメモ帳。あとはスマホ。他は持ち込み禁止だそうだ。

 彼女が望んだ入隊だが……次会った時には性格が変わっていそうだな。



 朝日奈養鶏場へと向かう人員は自衛隊から、小林一等陸佐、最上・十島三等陸尉両名とヒールスライムの有原次郎。


 宮湖橋一家。ベヒモスの健治さんとデスナイトのまゆおばさん、ついでに女子高生のねね。


 市役所から市長代行の田楽寺(でんがくじ)大根(おおね)さんと藤枝(ふじえだ)(いち)さん。


 我等がマンションからは俺、蘭堂朝春とカーミラのあきらさん、狼獣人(ワーウルフ)のエリーとウサギ獣人(バニーガール)の朝日奈さん。


「母さんが、同行するの?」


「ええ。母さんもちょっと遠出してみたいなって思ってたし、まゆさんとも色々話したいから……駄目かしら?」


 母さんがまゆおばさんと話すのは問題無いが、それがよりにもよって朝日奈養鶏場へと向かう道中かよ。


 ……そもそも顔馴染みなのに、ゆっくり話せる時間が少なかったか……


「じゃあ母さんは自衛隊のトラックでまゆおばさんとゆっくり話してて」


「分かったわ。晩ご飯の準備はあえか、よろしくね?」


「はい! 分かりました! 兄さん、今夜は何が食べたいですか?」


 いきなり聞かれても困る。しかもマンションの住人達が居る中で……例えば焼肉とか答えたら文句は言われないにしても、反感を喰らうだろうなぁ……


「あー……カレー……カレーうどんとかどう?」


「カレーうどん……分かりました。うちに有る材料で問題無いですね。あと何品かおかずを作っておきますから、ちゃんと帰ってきて下さいね」


 それはちょっと保証しかねる。トラブルは向こうからやって来るんだ。アポ無しで。問答無用で。そこに俺の意志と責任は無い。断じて無い。


 蘭堂家の食事内容に関してはあまり口外したく無いので、早々に切り上げる。あえかもその辺りは理解しているようで、追求してくる気が無かったのは幸いだ。


 いい加減に、ぐだぐだと話していてもしょうがないので出発を促す。


 自衛隊のトラックには小林一等陸佐を筆頭に最上、十島三等陸尉両名と上位種の有原。

 宮湖橋家の三名と母さんが乗り込んだ。


 市役所からは二トントラックに大根(おおね)さんと藤枝さん。


 蘭堂家からは俺とあきらさん、エリーと朝日奈さんが向かうが、トラックの荷台は鶏用の簡易的なケージで満載されている。


 帰りは母さんもこちらに加わるので、俺とエリーがトラック。あきらさんと朝日奈さんがミニバンで……


「待って下さい、エリー(川井)は自分と共にミニバンでお願いします。ひなたは朝春君とトラックで。いいな? ひなた」


「何でだ? 私はあきらと一緒がいいんだけど?」

「ボクもご主人様と二人っきりのドライブが良いなぁ……」


「必要な事です。朝春君、お願いします」


 言ってあきらさんは深々と頭を下げた。意図は判断しかねるが、朝日奈さんを何とかしろ……って所か。


「分かった。エリーは帰りで一緒に乗ろう。あきらさん、それで良いか?」


「はい。お手数お掛けして申し訳ありません」


 あきらさんが余所余所しいのは今に始まった事では無いが、俺が思うに『朝日奈ひなたを完全な仲間として、尚且つ上位種として戦闘もこなせる様に活を入れてくれ』そう言った内容を凜としたその表情と態度に込めているんだろう。


 あきらさんとは出会ってからそろそろ一ヶ月。短い期間ではあるが、共に過ごしてきたその中身は数年越しの戦友と言っても過言では無い位に濃い。


 俺達レベルになれば相手の表情で、その意図を推し量るのも容易い事だ。


 俺はあきらさんに力強く頷いてから、喚く朝日奈さんをトラックの助手席に放り込んだ。抵抗する彼女の身体のあちこちに触れてしまったのは不可抗力であって、決して意図したものでは無いと追記しておく。



 ちょっとした騒動が終了してトラック三台とミニバンが埼玉へ向かって走る。道中の障害物の一切は既に除かれ、車列の進行は至って順調だ。


 が、流山(ながれやま)の高速道路入口を経由するとなると、どうしても遠回りになってしまう。

 どうせ他に車は走っていないのだから、後日最短ルートを確保するのも悪く無いか。


「何故私が少年と一緒にならなければいけなかったのだ?」


「それがあきらさんの望みだったからですよ」


「あきらの? ……少年よ、申し訳無いが私は年下はちょっと……」


「そうじゃねぇよ! いや、それもちょっとショックだけど!? ……そうじゃ無くてですね、あきらさんとしてはいい加減に覚悟を決めて、戦力として朝日奈さんの力を貸してくれないか……と。

 あきらさんから話したら貴方が覚悟を決められないから、だから俺から話す事になりました。その為の二人でのドライブですよ」


 などと言う話は一切聞いていないが、先程のあきらさんの強い視線。今後、山猫党の件が解決するまで俺達に安息の日々は無い。

 だからこそ一人でも多く、戦士を仲間にしなければならない。まったく……真面目なあきらさんらしいな。


 勿論、朝日奈さんに強要する事は出来ないが、その交渉をあきらさんは俺に託した……そういう事だろう。

 やれやれ、面倒な役割を任されたものだ。


「戦力……私が? いや、私も戦うのはやぶさかでは無いんだがな? いかんせん経験が足りないだろう?

 下手に怪我をして足手まといになっても迷惑が掛かるしな。

 いや、戦う気はもちろん有るんだぞ? ただ、いきなり経験豊富な上位種と戦うのはどうかと。そういう訳だ」


 予想していた言い訳だな。あきらさんに期待された以上、俺も手加減無しで行かざるを得まい。朝日奈さんを追い詰めていく!

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