七十九 合流と報告。始まる茶番に流されるな。
概ね説明を終えたので乱悟さんに、さっきから気になっていた点を質問する。
「乱悟さんは今日はうちに来るんですか?」
「いや、今日はこのままトンボ返りだ。上の連中が山猫党の情報を欲しがっててな。
まぁ、活動地域を変えるってのは気に入らないが、弟の存在が確認出来たのは大きい。
近いうちにまた話を聞きに来ると思うけどよろしくな」
また来るのかよ。面倒くせぇな。
「田楽寺乱悟、一つ聞きたい事があるんだが良いか?」
と、あきらさん。
「あ? 何だ?」
「お前は自分よりもやや格下だが、戦闘能力は互角と言っても差し支え無いだろう」
「あ"? 喧嘩売ってんのか?」
「まぁ、聞け。今回の状況、お前が当事者だったらどう動いた?」
「そりゃあ、お前……朝春連れて逃げの一手に決まってるだろ? そもそも最初に祭と二手に分かれたのも……待て、結果としては正しかったか?
いや、犬飼の能力が未知数だったし……そもそも逃げ切れる保証も無い……
あー、よく分かんねぇな。俺は頭脳労働は苦手なんだよ!」
「そうか。手間を掛けてしまったな」
「乱悟、既に起きた事を別の角度から検証するのは重要な事だと理解しているだろう。
お前は上位種で特戦群なのだから臨機応変に判断する能力を養わなければならないのではないか?」
「分かってるよ! ったく、説教すんなっての」
あきらさんは今日の一連の戦闘に疑問を抱いているのか?
確かに今日の俺は場当たり的な指示が殆どだったし、最後のマタタビも賭けでしか無かったしなぁ……
「ち、違うんです! 自分は君を信じて戦いましたし、それが正しかったと確信しています。
トカゲに意見を求めたのはほんの気まぐれだったのですが、間違っていたようです」
「てめぇ……」
「お前は朝春君の指揮を賞賛すれば良かったんだ! 無能に意見を求めた自分が愚かだった! 申し訳ありません、朝春君!」
「いや、結果として犬飼紅葉を殺しきれなかったのは事実だし。洗脳は発動条件が厳しいみたいだけど、『完全変化』させないで仕留めるべきだったかなぁ……」
「それで仕留め切れたかは疑問だな。『完全変化』で上昇する能力は個人で違うし、祭の攻撃が足止め程度にしかならなかったなら、そこのクソカーミラが『完全変化』しても役には立たなかっただろ」
おっと? 乱悟さんの反撃か?
「……! 確かにあの状況で自分が『完全変化』しても無意味だったのは事実だが……」
「ていうか宮湖橋の親父。あいつが駄目だろ。
『王階級』はスゲェと思うけど攻撃が当たらなきゃ意味ねぇし、そもそも覚醒したてで自分の能力も分かってない素人はなぁ。盾として機能した分、まだマシか?」
「乱悟、時間は良いのか?」
「あ? おっと、もうこんな時間か! 朝春! 連絡するからスケジュール空けとけよ!」
それは保証出来ない。
あきらさんの無言の殺気に若干怯みつつも、慌てて外へ駆けていく乱悟さん。
「それにしても死者蘇生とは……魔法だけでもとんでもないと言うのに。
まるで映画の中の世界に迷い込んだみたいだな」
「だがこれが現実だ。今回犬飼はお前達を洗脳して人質としたが、場合によっては皆殺しにされた可能性もあった」
「……私達は巻き込まれただけなのでは無いのか?」
「ピッグカメラの避難者に山猫党の上位種が紛れ込んでたんですよ。
今回の件が無かったら時間を掛けて丁寧に洗脳されたんじゃないですかね?」
それも元を辿れば俺達のせいと言われればそれまでだが、さすがに避難者に山猫党の一員が混ざっていた責任までは負えない。
「今日やって来る女性達は大丈夫なんだろうね?」
「山猫党の一員か確かめる方法は有りませんから。精々上位種か否か、くらいじゃ無いですか」
気配は察知出来なくても、姿が確認出来ればそれは分かるらしい。
外へ出ると祭さん達も到着したようで、市役所職員と避難者の女性四人が何やら話している。
傍らにはまゆおばさんと健治さん。無事『人化』出来たようだ。
薄桃色のワンピースに白いカーディガン姿の祭さんがこちらに気付いた。
「トモ君、お待たせ~」
「お疲れ様です。あきらさん、彼女達は?」
「……上位種ではありませんね」
それは何より。
「祭さん、生き残りの男達は……」
「朝日奈さんに始末して貰ったわよ~」
「朝日奈さんが?」
「ひなたが?」
「うぅ、あきらぁ……私はついに殺人を犯してしまった……しかも一度に四人だ……。
私は自首しようと思う。面会と差し入れを期待してるぞ……」
「はいはい、ギャグはいいですから。結局男達は普通の人間だったんですか?」
「ギャグとはなんだ! 少年は殺人を犯した経験が……あったな……それも今日。
よし、少年、私と一緒に自首しよう。一人じゃ心細かったんだ。
さすがにあきらに付いてきて貰うのは気が引けたが、同じ殺人犯同士仲良くしようじゃないか」
確かに俺も今日人を殺したけど。なんなら俺は銃刀法違反も追加だろうな。
「で、ひなた。男達は普通の人間だったのか?」
「ああ。ビックリするくらい簡単に殺せてしまったぞ。人が脆いのか、上位種の力が凄いのか。ちょっと判断に迷うな。
特に気になる点は無かったから普通の人間だったと思う」
朝日奈さんの所感はいまいち信用出来ないが……
「祭さんはその場に居たんですか?」
「むしろ私に襲い掛かってきた連中を朝日奈さんに始末させたのよ?」
「『何の役にも立って無いんだから最後の掃除くらいしなさい! アホウサギ!』……って、祭がウサギの尻を蹴っ飛ばして無理矢理始末させておったぞ?」
「ちょ、殿下! そう言う事は言わないのが格好いいんですよ~」
まぁ、ヘタレの朝日奈さんが積極的に人を殺すとは思えない。相手は山猫党と関わりがる――かも知れない――強姦魔だ。後の被害を考えれば、殺すべき相手だったと思うが……
多分朝日奈さんに度胸を付けさせる為に悪役を演じたんだろう。
祭さんらしいと言えばらしい態度だが、数日を共に過ごして朝日奈さんと仲良くなった結果だと思いたい。
「朝春ちゃん、ちょっと良いかしら?」
かつての優しそうな笑顔を取り戻したまゆおばさんが、ねねに腕を抱かれたまま歩きにくそうに近寄ってきた。
「改めて、お久しぶりです……って言うか、まゆおばさん……何か若返ってませんか?」
「あらー、やっぱり分かるぅー? あたしもね? 最初はちょっと身体の調子が良いなぁって感じだったんだけどね、鏡見てビックリよ!
多分二十代中頃くらいじゃないかしらー。でね? 『人化』の時だけかなぁって思って『通常体』に戻ってみたんだけど若いままなのよー!
凄いわよね? これならねねのお姉ちゃんでも通用しそうよねぇ? ねぇ、朝春ちゃんはどう思うー?」
中身はかつてのまゆおばさんのままだった。早口でまくし立てるが、滑舌が良いのかリズムが良いのか。聞こえづらい事は全く無い。
ちなみに彼女の後方でやや寂しそうに立っている健治さんは年相応の姿だ。
「まゆおばさんが若い姿になって、今まで以上に魅力的な女性になったと思いますよ。
二十代には出せない筈の成熟した色気を伴った女性を俺は知りません」
俺だってあきらさん達と暮らすうちに、女性に対する免疫が上がってきたんだ。これ位のお世辞はスラスラと言えるぞ。
敵を煽るのも女性にお世辞を言うのも、身体的特徴を元にするなら大した違いは無いな。
煽る場合は不快な言葉、お世辞では愉快な言葉を選べば良いだけだ。
「ちょっと朝春! お母さんを口説かないでよ!」
「そうだぞ蘭堂君! 君は女なら誰でも良いのか!?」
「もー、二人とも落ち着きなさい。朝春ちゃんもおばさん相手に口説き文句の練習しちゃ駄目よー?」
さすがにバレたか。ちなみにあきらさんは顔を真っ赤にしてくねくねと身をくねらせ、祭さん、桜花は興味深そうに観察やら考察している。
「まゆおばさん、茶番は終わりにして、色々聞きたい事があります。だから今日は健治さんと一緒にうちに来て下さい」
「あら、いきなり家に誘っちゃうの? 駄目よー。あたしは夫も娘もいるんだからー」
だから夫も娘も一緒だっての! 二人の……特に健治さんの視線が殺気を帯びてきたから! 今は真面目な話になったんだからついてきて下さいよ!?
「ところでまゆおばさんは……」
「待って、朝春ちゃん。あたしはもう、おばさんって見た目じゃ無いわよね?
だから『まゆさん』か『まゆお姉さん』か、何だったら『まゆ』って呼び捨てにしてくれても良いのよー?」
だから話が進まねぇんだよ! 若返って浮かれるのは分かるけどお前の旦那はそこの筋肉ダルマの脳筋だろうが! 何だったらお前もババア呼ばわりしても良いんだぞ!?
「……ま、まゆおばさん? ちょっと真面目な話をさせてくれませんか?」
「トモ君、よく我慢出来たわね。偉いわ~」
ストレスがヤバい勢いで溜まっていくのが分かる。俺、そろそろキレても良いよね?
「ねねはあの母親の元でよくぞマトモに育ったものだな。父親の性格を受け継いだのか?」
ちょっと深呼吸して気持ちを落ち着かせる。以前のまゆおばさんはよく喋る人だったが、ここまで会話が噛み合わない事は無かった。
やはり若返った事や家族と再会出来た事でテンションが上がっているからだろう。……多分。
「まゆおばさんは抗体者ですか?」
「そうよー」
「じゃあ、上位者としてのまゆおばさんの契約者は自分自身ですか?」
「ええ。ちなみにあたしは死霊騎士。デスナイトって種族よ」
死霊はともかく騎士は職業では? デスナイトがOKならデスパティシエやデスアスリートだってOKになる道理な筈だが?
……実際に居るかも知れない。迂闊な事を考えるのはやめよう。
とにかくまゆおばさんは抗体者と上位種のハイブリッド。俺が知る限り、朝日奈さんに続いて二人目だ。
「じゃあ、健治さんの契約者はまゆおばさんで決まりですね」
「契約者……?」
健治さんに基礎知識をたたき込んで契約が……無事、終了した。
密かに不安だった健治さんの契約が終わって、何だか解放された気分になった。もしかしたら健治さんと契約しなきゃいけないかな……と、考えていたが……
正直に言えば習志野か大宮の駐屯地にいる抗体者に投げるつもりだった。
そう言えば、駅前のデパ地下で保護した交代者が二人、どっかの駐屯地に移っていたな。
俺はこれ以上、上位種と契約するつもりは無かったから結果オーライ。
上手く行けば自衛隊にも恩が売れる。
唯一の懸念は山猫党だが……今日はもう考えない。あとはラーメン食って寝るだけだ!




