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七十 或る男の死体。お前が処理しろ。

 テナントを順番に破壊しながら近づいてくる森平達。

 皆に向かって作戦の最終確認を行ってから奴らを待つ。


 ランジェリーショップの入り口には桜花謹製、無色透明の魔法障壁が全面に張られている。

 森平と夢ノ島の位置を確認次第、作戦開始。俺は邪魔にならない程度に発砲するだけの簡単なお仕事だ。


 ガンマンなんて職業は無いし、俺の銃が火を噴く……のは比喩表現としても、発砲するのは間違いじゃ無い。

 出来ればヘッドショット一発で決めたいけど、無理だろうなぁ。


 やがて店の前に現れた森平が――既に『完全変化』状態だ――ランジェリーショップに向かって羽弾丸(フェザーバレット)を撃ってきた。


 当然だが障壁に跳ね返されたソレを見て、寧ろ歓喜の表情で森平が吠えた。


「ようやく見付けましたよ! かくれんぼは終わりです。

 私を殺したカーミラよ! 今度は私が貴女の首を刎ねる番ですよ!」


 桜花と相談して、直前で作戦をちょっと変えてみた。


 桜花の合図でガラスのように割れ落ちる障壁。それを合図に森平の顔面に狙いを定めて一発撃ってみた。


 さすがに『貴族階級』。直前で避けたまでは良かったが、避けた先を狙って放たれた数個の圧縮水球。

 祭さんとの共同開発だそうだが、水球を用いた、いわゆるショットガンと言えよう。

 水を圧縮して破壊力を高めている辺りがちょっとえげつないと思う。


 咄嗟に羽で防御した森平だが、更なる圧縮水球のショットガンが森平を襲う。


「ぐっ……この威力は! 夢ノ島! 加勢しろ!!」


 頼りのキモメン、夢ノ島にはあきらさんが既に襲い掛かっている。防戦一方の彼に森平のサポートは不可能だろう。


 そして俺の前に立ち塞がる斉藤冬樹。特に武器を携帯している様子は無いが、ガチャリと拳銃の撃鉄を起こして狙いを奴の頭に定める。


「ちょっと待てよ! なぁ、話し合おう! 僕は脅されてしょうがなく従ってただけなんだ!

 無抵抗の人間を殺すなんて、お前はどうかしてるぞ! この殺人鬼が!!」


 引き金を引いた後に残ったのは僅かな反響音と、あきらさん達の戦闘音。


「ハ、ハハハ! そりゃそうだよなぁ! ブラジャーで目隠ししたら当たらないよなぁ!

 ていうか何それ? 殺人鬼で変態って救いようが無いでしょ!?」


 ……良く狙って撃ったつもりだったけどかすりもしない。

 撃鉄を起こして再び狙いを定める。


 残弾数は二発。理想は足に一発、トドメに一発。

 アイツの目を見るわけにはいかないからレースのブラジャーで視界を遮ってみたけど……話にならないな。

 やり辛くってしょうがない。


 微かに見える斉藤に銃口を向けて、互いに決め手を欠いたまま時間が過ぎる。


 俺達としてはすぐにでも祭さん達に合流したいところだが、コイツらは時間稼ぎを企んでいる?


 違う。そうであるなら俺達を適当に挑発して付かず離れずの作戦で来るはずだ。


 祭さん達はさほど問題無い状況らしいが、俺達は早めに合流して敵の『王階級』を叩く必要がある。


 急ぐべきは俺達か。


 銃口を斉藤に向けたまま、左手で後方のアリスを指さして、その指を一気に斉藤へと向けた。


「アリス!」


 察してくれた彼女が斉藤へ襲い掛かる。

 やっぱり意識が有るんじゃ無いの?


 迫るアリスに余裕の表情の斉藤が不審でしょうがない。普通のゾンビって思ってるのか?


 だとしても生身の人間が対抗出来る相手じゃ無いんだけどな?


「無駄だよ! アリスちゃん? 君は僕達の味方だよね?」


 そのまま斉藤の首筋に噛み付いたアリスは肉を噛み千切った。

 結構ごっそりいったな……。


 パニックになりながらも、首筋から噴き出す血を手で押さえる斉藤だが、すぐに血の勢いは収まり、目が虚ろになった。


 頼みの綱の催眠がアリスには……いや、グーラーには効かなかったと言う事か?


 上位種では無い――筈の――斉藤には人間とグーラーの見分けが付かなかったらしく、アリスを人間だと勘違いしたようだ。


 心肺停止。体温イコール気温。グーラー独自の外見的特徴は無し。確かに分からないだろうな……。


 だからこそ俺のセクハラ対象になるワケで。……この前は体温が理由で萎えたけど、暖房効かせた部屋なら結構イケると思うんだよね。


 いずれ挑戦してみないといけないな。



 さて、無事? 斉藤はゾンビ化したようだ。しかし、森平の仲間である事を考えると確実に処理しないといけないな。


 また死体を持ち去られて、復活して敵対なんて面倒でしょうがない。


 銃口を斉藤のこめかみに押し付けて、ゆっくりと引き金を引いた。


 破裂音と共に斉藤の身体が一度跳ねて床に横たわる。


 完全に死んだ事を確認してから、目隠し代わりに装着したレースのブラジャーを外す。


 結局、斉藤の催眠については謎のままに終わってしまったが……原因究明よりも安全第一。

 後に起こる問題は無視して目の前の問題を最優先にする。


 何とも刹那的で、その場しのぎで俺らしい。


 黒のレースの視界は最悪だったけど、何とか斉藤を仕留める事が出来た。白のレースだったらまた催眠に掛かってたかも知れないな! HAHAHA!


「朝春……何かもう、色々台無しだよ……」


「あぁん!? こっちはリアルに命懸けの高校生なんだよ! 格好付けて死ぬなんて冗談じゃ無い。

 俺は生き延びる為だったら全裸でマラソンだって出来るぞ?」


 隙をみて斉藤の死体を引き摺りつつ、ねねに吠える。


「ら、蘭堂君。今更だが、つまり、そう言う事かな?」


「そう言う事です。今まで何体も食べてきたんでしょ?

 覚醒の可能性をちょっとでも上げないと娘さん、死んじゃいますよ?」


「蘭堂君! 君は乱世に於ける英雄かも知れないが、平和な世界では異端児だ!

 いや、異常者と言っても良い! 私は決して君を受け入れないぞ!」


 今更何を言ってるんですか。この世は乱世。ここは戦場。旧世界のお上品な常識は通用しないんですよ?

 早く受け入れて喰らい尽くせ! さっさと覚醒しろ!



 予想通り覚醒しなかった健治さんは四つん這いになってぜぇぜぇと息を荒げている。グールのクセにだらしない。

 彼の背中をさするねねを後目に残弾を確認。あと一発。


 予備の弾丸は無い。


 この後に及んで拳銃が役立つとは思えないが、万が一に備えて万全の態勢で……


 ちょっと待って。俺のやる事、もう終わったんじゃね?

 あきらさんが夢ノ島を始末し次第、健治さんの覚醒儀式に突入だ。




「この……! チョロチョロと鬱陶しい! 逃げてないで戦え! この臆病者が!!」


 頭に二本の、黒光りする細い触覚を生やし、背中には同じく黒光りする滑らかな細長い、殻のような何かを背負った夢ノ島があきらさんの爪をことごとく躱している。


「グフフ、一発でも貰ったらその時点で終了だからな。そりゃあ逃げるさ」


 夢ノ島の言い分は確かに間違っていないが、時間稼ぎが目的じゃ無い筈……だよな?


 それなら何で夢ノ島は『完全変化』しない?


 そしてあきらさんは何で『完全変化』しない?

 『完全変化』しても夢ノ島のスピードに付いていけないからか?


 祭さんと連絡を取れるあきらさんと桜花は戦闘中で余裕が無い。


 それならば。当初の予定通りに夢ノ島を仕留めて健治さんの覚醒を促す!


 ……と、息巻いてはみたものの。高速で動くあきらさんと夢ノ島に手出し出来るタイミングは勿論無く、ボンヤリと眺める事しか出来ないのが現状だ。


 桜花の方はというと……よく分からないけど森平が首から下が凍り漬けになっている。


 ……何があったの?


「おお、主殿。森平は良い感じにタフでな。余の魔法の実戦稽古(じっせんげいこ)には実に都合の良い相手じゃぞ?」


 桜花の魔法の練習台として、(もてあそ)ばれた挙げ句の果てが凍り漬けとは……変電所での苦労は一体何だったんだ。

 いや、復活してやるき満々の彼にこの仕打ち。敵とは言え同情を禁じ得ない。


「クッ、殺せ……!!」


 だからオッサンのクッ殺は要らないんだって!


 桜花は森平を完全に弄んでいるようだが……それ、変電所でやってくれてたらエリーの苦労がだいぶ軽減されてたと思うんだけど……?


「変電所とここでは条件が違うじゃろ。多少の失敗なら問題無いmallaujo(モラウジョ)なら色々試せるからの。

 余の魔法も使う機会が少ないので出力調整もままならん。


 先日の大宮駐屯地でも周りの被害を考えて上手く練習出来無かったしの。

 そういう意味ではこの場に於ける森平の存在は実に貴重じゃ。


 多少破壊しても問題無い環境。多少破壊しても死なない相手。

 魔法の練習としては最高の環境ではないか? カハハ」


 クドいようだが桜花は十歳だ。世の小学四年生が皆彼女のような性格だったらと思うと背筋が凍る。


 モンスターペアレントとか体罰禁止とか、いじめ問題とか。


 世の小学校教師の皆様は苦労が絶えないなと思うが、本当に危険なのは桜花のような知恵や知識の高いお子様なんじゃなかろうかと、旧世界の教師達にちょっぴり同情する。


「さて、主殿。森平相手の魔法の練習を続けるのも良いが、そろそろ頃合いかの?」


 あきらさんが夢ノ島に苦戦? している現状、森平相手にいつまでも遊んでいるわけにはいかないか。


「一応聞くけど、一緒に居た『王階級』の種族と能力は?」


「答える筈が無いでしょう? 私は私の矜持(プライド)に従って生きて、また死ぬだけです。

 苦しまないように殺してくれると有り難いんですがね」


「桜花」


「うむ。苦しませて殺すんじゃな?」


「違うよ!? ここは森平の望み通りにサクッとヤる雰囲気だったよね!?

 これから拷問する流れでも雰囲気でも無いし、時間も無いからな!?」


「主殿の主張は理解出来るがテロリストの要望を受け入れるのはどうかと思うぞ?」


 そう言う次元の話じゃ無いと思う。


「冗談じゃ。早く終わらせて祭と合流せんとな」


 桜花の指先の動きを合図として、森平の首が落下した。血が吹き出る事は無かったが、とどめのシーンは未だに目を反らしてしまう。


 ちゃんと直視出来るようにならないといけないな……とは思うけど。

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