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六十九 作戦会議と下着。王階級とブラジャー。

「あたしの事は紅葉(もみじ)様って呼べと、何度も言ってるだろうがぁ!」


 紅葉様の蹴りが森平に炸裂。吹っ飛ぶ彼に対する慈愛は無いようだ。


 まだ頭にモヤが掛かったような、二日酔いの時のような気持ち悪さがする……


「桜花。各自二階に移動。あきらさんはねねの護衛。祭さんは女性達の保護を。朝比奈さんはとにかく逃げて」


 ボンヤリした頭でとりあえず指示を出したは良いが、いきなり逃げの一手ってどうなのかな?


 どうでもいいや。桜花に指示を頼まれた以上、頭がスッキリするまではひたすら逃げよう。


「心得た。指示を送ったぞ。主殿、大丈夫か?」


 精神的には落ち着きつつあるが、状況の把握が出来ていない。

 とりあえず二階に逃げる指示を出したが、それは正しかったのか?


 敵のケモ耳は『王階級』だ。あの金色の王冠を見間違える筈は無い。

 遂に『王階級』を敵に回してしまった。


 寝起きの状態で色々と情報を吹き込まれた気分だが、時間が経つにつれて頭が冴え渡る事を実感する。

 右手に握った拳銃はホルスターに戻した。ここまで派手なイベントは求めていなかったけど、『王階級』が来たなら丁度良い。

 この場で始末して……


 獣人で『王階級』。少なくとも近接格闘最強……だよな? どんな獣人か知らないけど、ハムスターの獣人じゃあないだろうしなぁ。


 アリス達の騎馬によじ登って桜花を背負う。祭さん達とはぐれるのは悪手に違いないだろうが、一旦態勢を立て直す必要がある。


「少年!? 少年ーー!!」


 何か聞こえたけど無視。あんたも上位種なら根性見せてみろ。


 生存者の女性達を見捨てればこちらの勝率も上がるが……さすがにソレは格好悪いな。手を差し伸べたからには最期まで責任を持たないと。


「主殿! 森平と夢ノ島(ゆめのしま)、それと斉藤が追ってきたぞ! 迎撃するか!?」


 斉藤の催眠術の秘密に興味が有るが、今はそれどころじゃ無い。……夢ノ島って誰?


「桜花、建物に被害が出ない程度の中規模爆発。威力より目眩まし優先で。そらから……」


「ほぅ、ようやく調子を取り戻してきたようじゃな」


 一階フロアをスーパーとは反対方向に走りつつ、無言で後ろを振り向いた桜花の後方で爆発が起こった。


 かつて桜花は言っていた。術の詠唱も術の名前を事前に申告するのもナンセンスだと。

 でもやっぱりこう、華が無いと言うか、盛り上がりに欠けると言うか……


「この程度の爆発、私には効きません! いくぞ! 二人とも、はやく……」


 ゴツン! と、何かが固い物に衝突した音が聞こえた。どうやら成功したようだ。


「あれが魔法というものか……凄まじいな。それにしても何か衝突音のような音が聞こえたが?」


 ちゃっかり隣を走っている健治さん。まぁ、娘のねねが居るし当然か。


「今の爆発魔法は威嚇と目眩ましが目的です。本命は爆風と足止め目的の魔法障壁……魔法で作った半透明の壁です。

 皆、二階へ行こう」


 ようやく頭が再起動してくれた。森平の手の内は知れているが、日中ではあきらさんが『完全変化』しても森平を圧倒出来るかちょっと微妙?

 建物内で桜花が遠慮無く魔法をぶちかましたら俺達が生き埋めになる可能性が高い。


 かと言って、屋外に出ればサンダーバードの森平は自由に飛び回れるからこちらが不利だ。

 あきらさんも飛べるけど、多分飛行能力はカーミラよりサンダーバードの方が上だろう。


 あれ? 桜花って使いどころが難しい? いやいや、俺に出来る事は相手を混乱させて怒らせて罠に嵌める。

 あきらさんが戦いやすいように……


「そう言えば、夢ノ島って誰?」


 とりあえず二階のランジェリーショップの奥に皆で身を隠して、小声で桜花に尋ねる。


「店のチョイスが実に主殿らしいが、まぁ、良い。

 斉藤の隣にキモいのが()ったろう? 主殿が昏睡中に判明したんじゃ。

 夢ノ島(ゆめのしま)武蔵(むさし)。二十六歳。上位種じゃが種族は不明。『一般階級』じゃ」


 同じく小声で返す桜花。


 森平達が店の前を通ったが、ランジェリーショップを捜索するのが躊躇われたのか、素通りしていった。


 予想通りだ。ランジェリーショップに隠れるのも作戦の一つ。決して俺の趣味じゃないぞ? 趣味じゃないからな?


「『一般階級』か……何か能力の片鱗は見せた?」


「いや、何も……おお、主殿。この巨大なブラジャーを見てみい。あきらのよりデカいんじゃないのか?」


「じ、自分の下着はどうでもいいでしょう! このままでは森平達が祭さんの方に向かって行ってしまいますよ!?」


「うわ、デカ! こんなサイズのブラって需要有るのかな……?」


「君達。事情に疎い私だが、今は絶体絶命のピンチなんじゃ無いのか?」


 まぁまぁ、健治さん。あんまりシリアスばっかりだと死亡フラグが立っちゃいますよ?


「桜花、祭さんの状況分かる?」


「うむ、ちょっと待っておれ……特に問題無いようじゃな。ウサギが泣きわめいて足手まといじゃと嘆いておるぞ」


 朝日奈さん……


「あの森平ってのは一度倒した相手でしょ? 復活してパワーアップしてるならともかく、そうじゃないなら楽勝なんじゃ無いの?」


 C-4爆薬が有ればね。


「あきらさん、『完全変化』でどうにかなりそう?」


「日中ではちょっと厳しいかも知れません。半月時のエリー(川井)ですら決定力に欠いた相手ですから……」


 やや大きめのブラジャーを頭に被ってアゴの下でホックを止める。

 カップの膨らみがまるで猫耳のようで、桜花にウケた。


「と・も・は・る!! 真面目にやんなさいよ! それともまだ正気に戻ってないの!?」


「落ち着けねね。緊急事態のこの時こそ心に余裕を持つ事が大事じゃ。一見ふざけておるようじゃが余には分かるぞ。

 主殿が常人離れした速度の思考で策を巡らせているのがな」


 そんな事無いけど?

 桜花が俺の真似をしてブラジャーを被りながら、キメ顔で答えた。


「私には下着で遊ぶ変態にしか見えないんだが……。ねね、蘭堂君は大丈夫なのか?」


「うぅ、ちょっと自信が無くなってきた……」


「何言ってるんですか。全員同じ格好するんですよ。それとも健治さんはショーツを被りますか? 昔のマンガの『変態紳士』みたいに」


「「「ちょっと何言ってるの!?」」」


 猛反対を喰らった。特に健治さんから。

 『それは私のフランクフルトだ』って台詞を……やっぱりいいや。


 真剣に正気を疑われたので猫耳ブラジャー案は取り下げた。出オチ感満点の、ちょっとした動揺を誘うだけの案だったからどうでも良い。


「宮湖橋健治さん。貴方はねねの為に、上位種の死体を食べる事が出来ますか?」


 ギャンブル要素が強いが、周到な罠を張る時間が無い今、彼の存在がちょっとした鍵に成りつつある。


 健治さんが覚醒してくれれば一気に形勢逆転……出来るかも知れないからだ。


「私に上位種になれと? もちろん娘の為だったら何でもしよう。しかし足手まといになるんじゃ無いか?」


「それも含めて駄目な時はプランBが有ります。健治さんが『王階級』にでも覚醒してくれれば一番楽なんですけどね」


「……分かった。期待に添えるかは不明だが、全力を尽くそう。

 だからその、ブラジャーは外して貰えないか? やる気が萎えてしまうので……」


 残念。敵の前に味方の邪魔になってしまったか。


「それと桜花。斉藤の催眠は……あれ、何なのか分かる?」


「全く分からん。しかし、モスキート音では無い事は確かじゃな」


 若い年代にしか聞こえない高周波音、だったよな。一緒にいたねねが無事だったから音では無い。

 特に変な動作も無かったし……視線で催眠? 面倒だな。



 やや離れたテナントから破壊音が聞こえてきた。連中、俺達が見付からないもんだから手当たり次第の破壊で炙り出しにでたか。


 イリスとウリスの衣装――の、候補――が無事だと良いんだけど。


「あきらさんは夢ノ島を瞬殺。無理そうなら『完全変化』で。終わり次第死体を健治さんの元へ。

 桜花は同じく完全……しなくていいや。

『通常体』のままで森平の足止め。アイツを物理結界で閉じ込めて中を水で一杯に出来る?」


「ふむ、それは面白そうじゃな。出来るか分からんが、要は足止め出来ればそれで良いのじゃろ?」


「健治さんはねねの護衛。夢ノ島の死体が届いたら速攻で食べて、無理矢理でも覚醒して下さい。

 今回の作戦のキモですよ」


「ははは……無茶を言うね……」


「斉藤は俺が足止めします」


「朝春君!? いくら何でもそれは無茶だ! また催眠に掛かってしまったら、今度はどうなるか分からないぞ!?」


「大丈夫。今日の勝利のアイテムはレースのブラジャーだ。変態には変態なりの戦い方があるって、爽やかヅラの強姦魔に教えてやるから!」


「あぁ……、あたしは何でこんな変態を好きになっちゃったのかな……」


 そんなの俺の知った事じゃ無い。


 敵対する上位種との第三戦。

 次回はガンマンとして覚醒した俺の銃が火を噴くぜ!

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