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六十八 生存者の在り方。銃と催眠の使い方。

「いやぁ、お取り込み中に声を掛けるのも悪いと思いまして」


 mallaujo(モラウジョ)の生存者達のリーダー、斉藤(さいとう)冬樹(ふゆき)。二十七歳。フツメン。


 うん。実に好感が持てる。物腰は穏やかでそれでいて爽やか。気配りも出来る彼は精神的イケメン……? 斉藤さん、アンタ、イケメンなのかい?


「トモ君~? イケメン拒絶症は置いといて、お話しましょうね~」


 イケメン……敵……イケメン……敵……


「はぁ……。それで斉藤と言ったか。宮湖橋健治とはどういった関係なんだ?」


「はい。八月の……二十何日かに、ここで立て籠もっていた僕達の前に急に現れてですね、「お前達を守ってやる」って。

 見た目からして完全にゾンビじゃないですか。あの時は本当にビックリしましたよ」


「私はまゆを守る事が出来なかった。だからせめて彼等を守る事で、贖罪を果たそうと考えただけだ」


「で、斉藤さん。食料の残りはどんな具合ですか?」


「ああ。乾麺やパックのご飯が残っているから何とかなってるけど、そろそろしんどくなってきたかな?

 だから悪いけど君達に譲ってあげられる食料は無いんだ。ゴメンね」


 おや?


「で? あなた達は全員で何人なのかしら~?」


「僕を含めて十一人ですけど。それが何か?」


「いやぁ、思ってたより少ないなぁって」


「蘭堂君。彼等は病気や怪我、意見の対立による悲しい結果の末に、今の人数になったんだ。あまり彼等を責めないで欲しい……」


「祭さん」


「ええ。斉藤さんって言ったかしら? ちょっと女の子達と話をさせてくれないかしら?」


「えっと、何でですか?」


「ちょっと元気が無いように見えるから相談に乗れればと思って。朝日奈さん、一緒に着いてきてくれる?」


「私が? ……確かに元気が無いように見えるな。よし! 任せろ!」


 斉藤さんは二人を見て、特にバニースーツの朝日奈さんをガン見して許可を出した。


「一応危険が無いように二、三人護衛に付けましょう。おい」


 彼の合図に三人のチャラい男が女性達と共に奥へ移動した。

 女性は四人、チャラ男が三人。この場に残ったのは斉藤を含めた四人。


「で、斉藤さん? 彼女達をレイプしてたんですか?」


 斉藤さん……斉藤の笑顔が僅かに固まった。


「何を言ってるんだい? 僕達はここで避難生活を共に過ごす仲間だよ? こんな状況だからこそ、力を合わせて生きていかないと……」


「だったら彼女達のアザは何だ? 服で隠れていたようだが、自分と目が合った時にそっと見せてくれたぞ?」


 おっとあきらさん、マジですかい?

 レイプに暴力。ツーアウト。


「さ、斉藤君!? まさか君達は……」


「やだなぁ、宮湖橋さん。娘さんの友達とは言え、僕達は今まで協力して生きてきた仲間じゃないですか。信頼して下さいよ」


「健治さんに守って貰ってただけのクズが、協力とか言ってて笑えないな」


「君達こそ、そこの『王階級』の女の子に守って貰っていたんだろ? だったら僕達の事をとやかく言う資格は無いんじゃないかな?」


 『王階級』を知っている。スリーアウト。


「あきらさん」


 彼女の右腕が揺らめき、斉藤の首を跳ねようとしたところで、横に立っていたキモ……顔の造形が現代の美意識とズレている男があきらさんの腕を掴んで止めた。


「待て。オレの顔が何だって?」


 あきらさんがキモ……顔が不自由な男の手を振りほどいて距離をとる。


「素直にキモいって言えよ! 美意識とズレてるとか不自由とか、フォローしてるつもりで、悪口だからな!?」


「女性に暴行を振るうクズに悪口言って何が悪い? それより斉藤。お前『王階級』って単語、誰から聞いた?」


「おいおい、蘭堂君。いきなりガラが悪くなったね? それともそれが君の本性なのかな?」


 斉藤の台詞が終わったタイミングで、祭さん達が移動した辺りから何やら派手な音がした。ようやくか。


「この私を手籠(てご)めにしようなどと百年早いぞ! 上位種になってから出直して来い!」


 おお、朝日奈さんは一般人相手には強気だな。商品陳列棚をいくつか倒して、――多分――気絶した男達を積み重ねて。

 腕組みをして誇らしげに胸を張る朝日奈さん。

 後々面倒だから今始末して貰いたいんだけどな。


 予想通りバニーガールに食いついてくれたようで手間が省けたのは良いが、まさかの上位種。そして『王階級』を知る斉藤。

 相手に王階級は居ないようだが、相性によってはちょっと危険かも。


「ほら、斉藤。お前『王階級』知ってるって事は知り合いに居るんだろ?

 さっさと話した方が身のためだと思うけど?

 良い子ぶってないで素直に話せよ。どうせ無様に負けるんだからさ? ほら。ごめんなさいって言えよ?」


 敵認定した相手に敬語なんて意味が無い。……煽る時に使えば効果的だけどね。

 しかしこの斉藤。キモメンと違って煽るべき特徴が無い。至って普通の、そこら辺を歩いている一山いくらの量産型サラリーマンだ。

 怒らせて隙を突く戦法がとれないので、しょうがないから正攻法で煽る。多分プライドが高いだろうからそこが切っ掛けだろうな。


「……ッチ! おい、武蔵(むさし)。上位種はそこの『王階級』のガキだけじゃ無かったのか?」


「お? 本性が出て来たのか? 口調が雑になってきたよ? 良いねぇ~。冬樹クン?」


「このガキ……!」


「斉藤、少なくとも後ろのバニーガールと、そこの革ジャンの巨乳は上位種だ。しかもそこの巨乳、多分『貴族階級』だぞ」


「おい、失敗ヅラ。俺の女を汚い視線で見るな。女性に対して失礼だと思わないのか?」


「誰が失敗ヅラだ! このクソガキ! ぶっ殺してやる!!」


「いいから質問に答えろ! 斉藤! お前は何で『王階級』を知っている!」


「さぁ、何だったかな? そもそも僕は『王階級』なんて言ったっけ? 君の聞き間違いじゃないのかな?」


 斉藤と話をしているとイライラが収まらない。俺も煽っているんだからお互い様と言えなくも無いが、俺が煽られている自覚は無い。


 何で、こんなに、苛つくんだ?


 パン!!


 斉藤の斜め後ろ。チャラ男に向かって、気が付いたら発砲していた。


 眉間に綺麗に命中した弾丸が、彼を殺した。特に狙ったつもりは無いが、結果が全てだ。殺す『つもり』が有ろうと、無かろうと。

 今日、俺はこの手で初めて人を殺した。


「朝春君!」

「主殿!」

「朝春!」


 言い逃れの出来ない、俺の宣戦布告に対して双方は未だに事態を飲み込めていないようだ。

 生まれて初めて、自分の手で、銃でもって、人を、生きた人間を、殺した。


 特に何か、思う事も無く、ああ、こんなもんか。と言うのが、正直な感想だが、それは彼等が、俺の敵だから。


 だから鬱陶しい蚊、を始末した時と同じように、罪悪、感などは無く、邪魔な存在が死ん、だという安、堵の意識が強かった。


 もう一匹始、末しようと撃鉄を上げようとしたところで、桜、花が俺の手を包んで邪、魔をする。


「主殿! 落ち着け! これ以上殺してはならん!」


 ……桜花ぁ? 俺はぁ、敵を排除しようと思っただけだよぉ? ほらぁ、蠅みたいに鬱陶しいのがぁ、そこに居るだろぉ? 蠅は殺さないとぉ。全て殺さないとねぇ。

 敵は全て殺さないと! 敵は殺す!


 全身が痺れて、一瞬意識が飛んだ気がした。俺は何をしていたんだ?

 右手に握った拳銃の質感。空いた左手で空をまさぐる。


「あん……って、ちょっとどこ触ってるのよ! 朝春! 起きてるんでしょ!」


 二日酔いに似た感覚で頭が痛い。何だか柔らかいモノに抱き抱えられて介抱されているようだが、これはスライムか?

 だったらすぐに仕留めないと。以外と強敵だからな。身体が溶かされないうちにコイツを……


「朝春!!」


 ねねに頭突きを喰らった。ガチの奴を。二発も。

 頭、大丈夫かな……。


「朝春! 正気に戻って! お願いだからぁ!!」


 ? 俺はずっと正気だっただろう? ねねこそおかしくなったんじゃないのか?


「主殿! お主は斉藤の催眠術にやられておったんじゃ!

 復活したなら指示を出さんか!!

 余の伴侶を名乗るならしっかりせぃ!!」


 桜花、まだイマイチ頭が働かないからもうちょっと待って。

 それから伴侶を名乗ってるのはお前だからな?


「へー、これが森平を殺したカーミラかぁ。案外大した事は無いね?」


 ケモ耳の女性の前には息も絶え絶えなあきらさん。

 俺とねねと、アリス達に防御結界を張って中年男性を睨む桜花。


 桜花の視線の先の男性は、


「犬飼様、その女吸血鬼のトドメは私に譲っては頂けませんか?」


 森平(もりひら)将介(しょうすけ)。あきらさんによって死を(もたら)された筈の、その男が悠然と佇んでいた。


 かつて倒した森平はどうでもいいが、突如として現れたケモ耳の女性。

 彼女の頭上に浮かぶ金色の王冠だけは、無視するわけにはいかない。


 彼女は『王階級』で。


 俺達の敵だ。


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