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六 臭う家。生ゴミを捨てろ。

 八月十五日。午後二時。雨。

 色々と神経を磨り減らし、大事な何かを捨てて俺はここに在る。多くは語らない。男として、主人公として。行動で示す。


 それより、今回のタイトルどうにかならない? ゴミ屋敷みたいじゃん!

 確かにヤバくなってきたけども! ぐぬぬ。


 空は昼前から雨模様。時間とともに雨量が増していく。ゾンビ達は傘を差すのだろうか? それともレインコート派か?


 ベランダから覗く地上に雨音がタタタと跳ね、数日前までの平穏な世界を彷彿とさせる。たかだか十七年しか人生を重ねていない俺だが、終末における世界の余韻を感じ取るには十分な年齢ではないだろうか。

 ここで煙草の煙でもくゆらせれば完璧だ。だがそれは、未成年であるが故の羨望なのかも知れない。

 そうして俺は窓辺に寄り添い、ロックグラスを傾ける。氷とグラスの軽快なダンス。さしずめ雨音が楽士団と言ったところか。


 今日からハードボイルドに、俺は生きる。母さんに対しても。ねねに対しても、だ。あえか? が、ガンバルよ!


「トモ……大丈夫?」

「朝春……麦茶片手に何やってんの?」

「兄さん……熱があるなら座薬の挿入は私が担当します!」


 ちくしょう! コメディに邪魔された!


 滞っていたゾンビ関連の件だが、何も進展が無い。本日も日本中でゾンビが人を噛み噛み。順調に勢力を増やしている模様。


 国会においては曰く、

『ゾンビはウイルスに感染した病人だ! 頭部を破壊するなどもっての外だ!』

『ゾンビにも人権はある! 法を遵守して対処しろ!』

『ゾンビが生命活動を停止していたとしても動いているじゃないか! 動いていれば人間だ!』

『うるせぇ! 文句があるならお前らがゾンビを保護しろ!!』


 等々。のんきだねー。いや、終末世界で国会を開く程度の気概はあるんだ。


 マテ、最後の! 生命活動停止! 新情報じゃないの!? 心臓止まってるんでしょ? それでも動いてんの? スゲー!

 野党のクセに何処からそんな情報を! むむむ。


 情報が更新されました。ゾンビの心臓は停止しています。でも肉体は元気過ぎるほどに動きます。


「それっておかしくない?」

 うん。おかしいよ。


「心臓が停止してるんなら脳に血液、酸素が送られない。脳細胞の維持が困難になれば神経を通じての手足への動作命令が送れない。じゃあ活動しているゾンビは心臓が動いていなきゃダメ。でしょ?」


 ねねさん? 君からそんな三段論法が出てくるなんて!?


「野党議員の戯れ言の可能性は高いけど……心肺停止の確認は難しいよなぁ」


 いや、あの言い方なら心肺停止は確信を持っての発言か?


「どちらにしても。あんた達はここで仮説を立てる事しか出来ないんでしょ? そんな事より宿題を片付けなさい?」


 母さん!? この期に及んで何をほざきやがるのですか!? ゾンビが蔓延る終末世界ですよ? ヒャッハー達が宿題なんてやるわけ無いでしょ!?


「そうだとしても! 元通りの世界に戻るかも知れないでしょ! 他にやる事が無いなら勉強しなさい!」


 うぇーい。りょーかいー。


「それは置いといてトモ。……生ゴミ、どうしよう?」


 説明しよう! 我らのマンションにはディスポーザーが装備されていない!

 そしてディスポーザーとは! 台所のシンク、排水溝に取り付けられている装備であり、生ゴミを粉砕し水と共に下水へと排出するのだ!


 その恩恵に与れない、築年数二桁の我等がマンションは、生ゴミを所定のゴミ捨て場に定期的に運搬しなければならない! ゾンビに隠れながら。


 ノロノロ歩くイージーモードのゾンビだったなら楽なミッションだろう。だが、今世は一発勝負のハードモード。ヘタすりゃルナティック……ゴミ捨てで死ねる世界。勿論コンティニューは無し。来世でニューゲーム。やっぱりクソゲーだ!


 いや、ゴミ捨て場に持って行っても回収されなければ、その場に溜まるだけだ。ゴミが。


 日本の行政サービスは実にきめ細やかで繊細で。どれか一つが停止するだけでこうも生活が立ち行かなくなるのだな。


「窓から投げ捨てれば?」


「……」


 他に方法があるなら聞こう。


「……そうね。それしかないわよね。……ハァ」


 恨むならディスポーザーとハードモードを恨んで下さい。命懸けの生ゴミ運搬なんて俺はヤだ。


 数日ぶりのベランダから地上を見下ろす。ノロノロとした動きの人々が。あれはゾンビですか?


 他の部屋の住人が捨てたと思しきゴミ袋の残骸が周囲に散らばっているが……生ゴミ自体は見当たらない。カラスが処理してくれたのか? それともゾンビが……生ゴミを拾って……腐りかけの……?


 怖くなったので考えるのをやめる。カラスだ。都心部に多く棲息するハシブトガラスだ。そうだそうだ。


 そんなこんなでベランダから生ゴミを投げ捨てる。ポイー。ゾンビめがけて。ちょっとした実験だヨ! HAHAHA!! ゴミ袋はゾンビに命中せず、チッ!

 ドサリと落下。衝撃で中身が周囲にばら撒かれる。あの香しい匂いを放つ物体Xにゾンビはどのような反応を……!?


 生ゴミに寄って来たゾンビは暫くして離れていく。たまたま近くを通りがかったゾンビも臭いに気付いたのだろう。生ゴミに近寄り、やがて満足したかのように去って行く。ゾンビの嗅覚が働いている事が証明された! 我が家の生ゴミで!

 臭いにだけ反応してゴミ自体には無関心ぽいな。ふむふむ。やはり最終処理はカラスさんでしたか。かぁーかぁー。


 どたどたどた!!


 だから俺はまだ正常なんだよ! 心配してくれるのはありがたいけどさぁ! あと妹に性処理は望んでないから!




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