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五十四 上位種とゾンビ。彼等の会話を聞き逃すな。

 九月十六日。曇り。午前十時。


 マンション前に到着した。車の片付けを桜花達に任せて、エリーと共にアリス達を連れてエントランスへ移動する。


 エリーに気が付いた強面達が整列して俺達――主にエリー――を出迎えた。彼等は訓練されたゾンビだ。

 AVさながらのアリス達を見ても表情を変えない。ガン見しない。質問しない。騒がない。実に素晴らしい。


 ――なぁ、旦那の連れてるエロいゾンビって……

 ――しっ! 嬢ちゃんに聞こえるぞ!

 ――はぁ……生きてる時に会いたかったなぁ……

 ――旦那ばっかりズルくねぇ!? あきらの姐御とか祭の姐御とか若葉の姐御とか巨乳ばっかりと契約してよぉ! その上巨乳パッツンブルマゾンビが三人って何だよ! 俺にも一人くらい……


 何故かエリーが一人の強面ゾンビの前で、その顔を静かに睨んでいる。


 ――す、スンマセンでしたぁ! 旦那に嫉妬してしまいました!

 ――俺からもあやまります! コイツ最近彼女――近所のゾンビ――と上手くいってないんで愚痴っぽいだけなんです!

 ――後でコイツにはキツく言っておきますんで、何卒(なにとぞ)お許しを!


 ――ボクが居ない間に随分好き勝手やってたみたいじゃないか。彼女さんは可愛いのかい?


 ――は、はい! ただ、束縛が強くてワガママなのが困るんですけど、そこが可愛いって言うか、何て言うか。


 ――その結果がご主人様に嫉妬? ふざけるな!! 殿下が伴侶と言い張っている人物に嫉妬するなんて何様のつもりだ!

 お前達ゾンビの指導をあきらお姉様から引き継いだボクの顔に泥を塗るつもりか! 元女子高生だからって舐めるなよ!!


 強面達を叱責しているのは想像が付くんだけど……無言なのでイマイチ状況が把握出来ない。

 いや、ここは俺の想像力が試されているんだ。自分の才能を信じて彼等の会話を創り出そう。


 ――エリー様、旦那様が退屈なさっています。強面達への制裁は後ほどにした方が宜しいかと具申致します。


 アリスがエリーに近づいた。「エリー様、落ち着いて下さい」って感じかな?


 ――アリスは黙っていろ! ご主人様のお気に入りになったからと言って、ゾンビ如きが上位種に意見するなど百年早いぞ!!


 ――でもぉー、旦那様が暇そうにしてるのは事実だしぃー。

 旦那様第一に考えたらアリスちゃんの意見はもっともなんじゃないのぉー?


 今度はイリスがアリスの肩に手を置いて、アリスの頭を撫でたり、ゆらゆらと謎の動きを始めた。……二人でエリーを挑発しているようにしか見えないが?


 ――……ちっ! 今日のところはお前達の意見を採用してやる! 強面共!! 今夜は覚悟しておけ!! 根性叩き直してやるからな!!


 ――エリー様ぁ~。あたしの出番はまだですかぁ~?


 ――ウリスの出番など無い!! ご主人様の指示に従って大人しくおっぱいでも揉まれてろ!! 無駄巨乳め!!


 彼等は終始無言なのに、何だか複雑なやりとりが終わったかの様な雰囲気だ。

 彼等の台詞を妄想するのはいつものことだが、今日は中々(はかど)ったな。


「エリー、何か普通じゃ無い雰囲気だったけど?」


「そうかな? ゾンビ達がちょっとサボってたみたいだったからね。お説教しちゃったよ」


 はにかんで答えるエリー。いちいち可愛いな。彼女の笑顔に一瞬心が奪われそうになるも、首に輝く赤い首輪が俺を現実に引き戻す。

 エリーは多分、重い。体重では無く、想いが重い。浮気性を自認するワケでは無いが、その気がある俺は彼女の逆鱗に触れる可能性が高い……かも知れない。

 エリーとは距離感を適切に保っていきたいと思う。


 それはそうと、俺の妄想会話劇が意外にも現実に則していたようだ。自分の才能に恐れ入るは。HAHAHA。



 少々時間が経ってしまったが、エントランスに一番近い一○八号室をアリス達の居住空間とする。


 駐車場にも面していないし、強面達が居るエントランスに一番近いこの部屋に住人が近寄る理由は無い。


 掃除用具を渡してエリーに指示をお願いする。結果は期待できないが、待機させておくだけよりはマシだろう。

 あんまり頑張り過ぎないようにね?


 ――聞いたかお前達! ご主人様はこの部屋の清掃を望んでいる! お前達がおっぱいだけの無能では無い事を証明してみせろ!!


 ――了解しました!!!


 アリス達がエリーに敬礼して掃除に取り掛かった。よく分からないけれど、やる気になってくれたようで何よりだ。


 一○八号室を後にして一旦エントランスに戻る。強面ゾンビ達の前に腕を組んで立つあきらさんの表情が厳しい。


 そしてエリーが俺の後ろに引っ込んでカタカタと震えだした。


 ――ちょっと目を離したらその堕落っぷりか。川井の教育が甘いのか、自分の躾が甘いのか、お前達はどちらだと思う?


 あきらさんの前で整列するゾンビ達がガタガタと震えだした。お説教の最中と設定して台詞をあてる。


 ――貴様等の仕事はマンションエントランス付近の警備だ。警備の合間に近所の女ゾンビと縁を深めるのは、まぁ、いいだろう。


 あきらさんから『圧』というか『殺気』というか、あまり宜しくない気配が漏れ出ているのが俺にも理解できる。

 エリーは俺を盾にしてガクガクと震えだした。


 ――その相手と上手くいってないから朝春君に嫉妬しただと? 貴様……


「あきらさん? 何だか怖い顔してるけど大丈夫?」


 空気を読まない感じで声を掛けた。強面ゾンビ達の助けになったなら、幸いなのだが……


「はい! 大丈夫です。お見苦しいところを見せてしまいました……」


 それは良いんだけど、あからさまにホッとした表情の強面ゾンビ達に引っかかる。やっぱりゾンビに自意識、あるよね?


「ありません。ゾンビは本能で人間を襲うだけの獣と変わらない存在です。自分達上位種に従う知能はありますが、それだけの存在です」


 獣ときたか……。そう言い張るならそれでも良いが。

 所詮彼等のやりとりは俺の妄想に過ぎないし、命令に従ってくれるならいいか。


 実際の所、今更ゾンビに自意識があると言われても困る。

 上位種が居ないと意思疎通が難しいし、いざ敵対した場合にためらいなく殺せるか自信が無いからだ。


 ……外ではあきらさん達が単独行動させてくれないし、そもそも銃とクロスボウを手に入れたは良いが、撃ったのは空き缶くらいだ。

 自意識の有無なんて関係無いな! 俺はエロいゾンビにセクハラ出来ればそれで良いんだ! うん。何だかスッキリした。



「あきらさんはどうしてここに?」


「そうでした。自分は朝春君を迎えに来たんです。正確には、ひなたの暴走を抑える手伝いをお願いしたいのですが……」


 お願いされたくない。そもそも朝日奈さんは既にマンション敷地内に侵入しているのか。

 祭さんが居るから心配無いにしても、朝日奈さんの中二病っぷりに苦労しているだろう。


「いえ……それが……その……」


 珍しくあきらさんが言い淀む。(らち)があかないから朝日奈さんに会いに行こう。


「あきらさん、案内よろしく! もたもたしてたらおっぱい揉んじゃうよ!」


「なぁっ! な、何て事を言うんですか! えっちなのはいけないと思います!」


 えっちなのは正義であるべきだ。俺にとっては。取り敢えずの目標として、心のメモにあきらさんのおっぱいを揉むという項目が追加されたのを確認してから、朝日奈さんの元へと向かう。


 おっぱいは正義であるべきだ。安らぎをもたらすおっぱいが悪である筈が無い。

 そして、そのおっぱいを備えるあきらさんや朝日奈さんは讃えられるべき存在なのだ。


 他の誰が否定しようとも俺は肯定する。その柔らかさの全てを肯定する。


 おっぱいは正義だ。正義がおっぱいだ。


 おっぱいに光あれ。



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