五十二 帰路。契約者の手綱を握れ。
何も受け取らずに帰るのも悪いので協議の結果、自衛隊仕様の幌トラックを貰うことにした。
ちょっと頑丈で緑色の車だ。
あきらさんとアリス達が増えたのでちょうど良いだろう。
研究の為にと俺は血やら唾液、尿と精液まで採取され、あきらさん達も似たような目にあったらしい。
研究職の職員? 達と話しているうちに、朝日奈さんのように人造上位種になる気は無いかと聞かれたが全力で断った。
現状で成功例が一件だけの、臨床試験も満足に終わっていない怪しげな薬など断固拒否だ!
バニースーツに着替えた朝日奈さんは、迷彩柄のリュックに戦闘服やらのお土産を詰めて満足げな表情だ。
迷彩柄のリュックを背負うバニーガール。シュールな見た目だな。
彼女は自衛隊を引き連れて実家に戻り鶏を受け渡すらしい。
トラックに支援物資を積み込む自衛官の姿が見受けられる。朝日奈さんの実家に届ける支援物資だろう。
「少年達は後日引き取りに来るのだな? 住所は教えた通りだが、来る前に連絡してくれ」
了解~。
俺達は鶏小屋が完成してから受け取る事にした。
「私もそちらに行く際は連絡するからな」
やっぱり来る気なんだ。ねねとあえか……マンションの男連中が騒ぎそうだな。
「ひなたは今後どうするつもりだ?」
幼馴染みのあきらさんの問いに、朝日奈さんは迷い無く答える。
「私は家族と従業員、そして正義を守るために戦っていく。ただそれだけだ」
それだけだ。じゃねぇよ。あきらさんが複雑な表情をしてるだろうが!
「いや、その、そ、そうか。頑張ってくれ。何か困った事があったら連絡してくれ。力になろう」
まぁ、鶏貰うからちょっとなら手伝う事もやむ無しか。
帰りの護衛の為に同行するスライムの有原が、桜花に挨拶したそうにしている。
いるのだが、接触禁止の命令が下っている為に自衛官に引きずられてトラックに詰め込まれた。哀れ、有原次郎。
挨拶を終えた朝比奈さんがトラック後部に乗り込み、三台に連なったトラックの列が駐屯地を離れていく。
「俺達もそろそろ出発するか」
「そうね。でも帰る前に『おもちゃ屋』に寄る約束、覚えてるわよね?」
出来ればスルーしたかった。ケルベロス騒動から始まった三日間、痴女だテロリストだと慌ただしい毎日だった。
早く帰ってゆっくり寝たいが、意外と子供っぽい若葉さんが駄々をこねると面倒そうなんだよなぁ……。
「もちろん覚えてます。でも帰りが遅くなっちゃうから短時間でお願いしますよ?」
「ええ、大丈夫。前から一度行ってみたかったのよねー」
「殿下、川井? おもちゃ屋とは?」
向こうであきらさんが桜花とエリーに詳細を聞いている。元凶の桜花と、何も知らないエリーに。
トラックの荷台にアリス達を乗せて……さすがにブルマのままは問題だな。普通の服を調達……明日でいいや。
どうせおもちゃ屋にまともな服は無いだろうし、探す時間も無い。そもそも夕食までに家に帰れるか、既に微妙だ。
俺の運転でミニバンに桜花。
あきらさんの運転でトラックにエリー。
若葉さんはアリス達の見張りで荷台。
「また何かあったらよろしくな。困った事があったら習志野じゃなく、俺達を頼れよ?」
ニカッと笑う小林一等陸佐の気持ちの良い笑顔に見送られて――ついでに明日葉二等陸尉とか他の自衛官もいたが――俺達も陸上自衛隊大宮駐屯地を後にした。
スマホの連絡先も何件か増えて、俺の電話帳が充実していく。ゾンビパンデミックから四十数日、実に充実した日々を送っている実感がある。
一昨日の朝に別れたばかりなのに、母さんやあえか、ねね、祭さんを少し懐かしく感じながら、俺は『大人の』おもちゃ屋へと、ハンドルを向ける。
何も知らないエリーとあきらさんを引き連れて。
「桜花、おもちゃ屋さんはどれ位の規模だった?」
「そうじゃの……、スーパー位の大きさだったかの? 中々の品揃えじゃったぞ。昨日はゆっくり見て回る時間が無かったからな。楽しみじゃ」
アダルト……いや、おもちゃに興味津々とはさすがに十歳らしく……ホントに十歳だよね? 最近の小学生は皆そうなの? 火華ちゃんとかもそうなの?
「クラスメイトの女子達は何組の○○君が格好いいだの、可愛い下着がどうのと、お子様な会話ばかりじゃったぞ」
やっぱり桜花がズレてるだけだったか。いや、それも問題だけど。
「それより主殿、マンションの夜間照明禁止の件じゃが、撤回せんか? 余は一晩泊まっただけに過ぎぬが、不便でしょうが無いぞ」
「明かりが付いてるとゾンビはともかく、敵まで引き寄せるだろ?
今回の件で上位種の気配察知能力はザルだって分かったし、環境が良くなってる今は問題を起こしたくないんだ」
桜花の言う事もよく分かるが、鶏小屋が完成すればまた区切りが付く。
ローテーションの仕事以外は日中が暇になるはずだ。
「住人の話では無い。折角睡眠不要の体になったのじゃ。
夜中の静かな時間でネットにゲームに興じたい余の気持ち、分からぬ訳ではあるまい?」
八月二日までの俺がそうだっただけに何も言い返せない。睡眠不要とは何ともオタク向けだな。ちょっとうらやましい……。
「じゃあ、光りが外に漏れないようにすれば良いか? その辺りは暇な時に考えよう。桜花も考えとけよ?」
「うむ。余に新型のハイスペックパソコンを与えよ。話はそれからじゃ」
いい根性だ。駅前の家電量販店にいくらでもあるから好きにしろ。……行くなら住人達の要望も聞いておかないとな。
「主殿、そこを左じゃ。間もなく到着じゃぞ」
駐屯地から三十分ほどで到着したその店は、一階部分が全面駐車場。建物は二階部分だけの造りで……こんな感じのファミレス、見た事あるな。更地にするのも金が掛かるから、そのまま使ったんだろう。
看板には『リサイクル&ホビーの越後屋』とある。が、よく見ると越後屋の『越』の部分。走と成の間に小さな『っ』が目立たないように表記されている。
えちごやの『え』と『ち』の間に小さな『っ』でえっちごや……。何とも評価し辛い看板だ。
周囲のゾンビを呼び寄せて貰って車とアリス達の警護を任せる。アリス達に手を出すんじゃ無いぞ!
若葉さんと桜花はワクワクしながら、エリーも楽しそうだがこの後の反応が楽しみだ。
あきらさんはあまり興味が無さそうだがこの後の反応が以下略。
自動ドアが静かに開いて、明るい店内に入る。
「へぇー! おもちゃが一杯だね!」
各種ゲーム機やぬいぐるみ、子供向けの玩具やプラモデル等が棚一杯に積まれている。……こういう所は時間に余裕がある時に来たかったな。
ショーケースには値段の張るフィギュアやプレミア価格のカード、ゲームソフト、アニメDVD等々……桜花以外の女性陣はカルチャーショックを受けているようだ。
あの、まだ入り口ですよ?
「『美少女戦士セーラーサン~太陽に代わって焼き尽くす~』のDVD全巻セットやんか!
あぁ、懐かしいなぁ……って、五万か! たっかぁ~」
なんだか不穏なタイトルだが、女の子向けの『ちょっと前』の健全なアニメだ。欲しいなら持って帰ったら良いんじゃないですか?
「え? それって泥棒やん……」
「今更なに言ってるんですか。世はゾンビパンデミックですよ?
世界の終わりのちょっと手前で、DVDを回収するくらい何の問題も無いでしょ?
それともドラム缶や食品が良くてDVDが駄目な理由でもあるんですか?」
「せ、せやな! うわー! ウチ、強盗みたいやんなぁ。桜花、アンタは母ちゃんみたいになったらアカンで!?」
一々ボケなきゃ気が済まないのか、俺をチラチラ見ながらネタを振ってくるが、今は構っている時間が無い。
構って貰えないと悟った若葉さんはショーケースのガラスを綺麗に切り裂いてからDVDを取り出す。
スペクターという性質上、近接格闘能力は無い筈だがさすが『貴族階級』。これ位の芸当はやってのけるか。
ちょっと嬉しそうな彼女に紙袋を差し出すと、そこにDVDを恭しく収めて抱きかかえる彼女は、少女のような笑みを浮かべて本来の目的を思い出した。
あきれ気味の桜花の先導で、『ここから先十八歳未満お断り』とプリントされたのれんが姿を現した。
「朝春君、この先は……」
「ご主人様、この先って……」
「大人向けのおもちゃを扱っているエリアだ。何も問題無い。今こそ見識を広める時だ!」
九月十五日。午後五時。辺りは既に薄暗い。
母さんには既に連絡済みだ。ちょっとしたトラブルで今日も帰れないと。
大分心配された。その分、バレた時の反動が怖い。
最初は嫌がっていたあきらさんとエリーが徐々に興味を抱いて、奇妙な形のマッサージ器具や、布地の少ない……或いは透け透けの衣装に興味を示す中、元から興味津々の若葉さんと解説役の桜花相手に「時間だから帰ろう」等という言葉が届く筈も無く、現在に至る。
あきらさんとエリーは自己嫌悪で揃ってぷるぷると震え、なぜか二人をアリス達が囲んでいる。
――姐さん達、エログッズに夢中で時間を忘れていたようですよ?
――えー! 最悪なんですけどぉー! うち待ちくたびれたんですけどー?
――だよねぇ~? あたし達にも何かぁ、お詫びがあっても良いんじゃないかなぁ~?
そんな感じの視線で二人を見つめるアリス達。まぁ、気持ちは分からない事も無い。
結局三時間程、越後屋に滞在して桜花と若葉さんは多数のお土産をゲットしたようだ。
エリーも何だかんだで少数を持ち帰るようで、手ぶらはあきらさんだけだが、……彼女のエロに対する許容範囲は既に臨界を突破。
涙目でぷるぷると震える彼女は生まれたての子鹿かスライムか……と言った風情だ。
全ては女性陣達の行いが招いた結果だ。俺に非は無いので本日はこの場で野営を執り行う!
幸いカップラーメンのストックもあるので食料は問題無い。食べたら俺は寝るぞ。トラックで。アリス達と共に!
「ちょお待ちぃや、朝春さん。今アンタ、何つった?」
「若葉さん、貴女が抱える紙袋の山。それは一体何ですか?」
「そ、そこ突っ込むの卑怯やぁ! しゃあ無いやんか!」
次、エリー。
「エリーも紙袋……」
「ご主人様の好きにしたら良いと思うよ! たまには息抜きも必要だよね!」
二人堕ちた。
「あきらさん、知らない土地で不安なんです。外で見張りをお願いできませんか?」
「任せて下さい! 朝春君の為ならば! 自分は火の中水の中! 安心してお休み下さい!」
三人目陥落。問題は桜花だ。
「桜花はどうする? 俺は寝るから、店を物色するなり好きにしていいぞ?」
「ブルマゾンビにセクハラかましたいのはバレておるぞ、主殿。
……余は周囲を散歩する。主殿は好きに致せ」
十歳の割には達観した桜花が歩を進める。彼女の精神年齢は一体何歳なのか若干疑問だが、とにかく邪魔者は排除出来た。
ちょっと眠いがまだいける! これから俺の時間が始まるんだ!
自衛隊仕様のトラックの荷台で、カップラーメンをすする。すする……。ずるずる……。
アリス達に無表情でガン見されながら食べるカップラーメンはイマイチ美味しくない。パッツンブルマの美女達に囲まれての食事なのに、なんで楽しくないんだろうか?
試しに麺を少量持ち上げて、アリスの口元へ近づけてみる。……反応無し。
イリスとウリスも無反応。カップラーメンはお気に召さないようだ。
スープまで完飲してからゴミを片付ける。九月も中旬になって夜は涼しくなってきたとは言え、ラーメンを食べると軽く汗ばむくらいには暑い。
せめてシャワーくらいは浴びたいが……今からでも駐屯地に戻るか? いや、無いな。おもちゃ屋さんで時間を忘れてはしゃいでいました。なんて、恥ずかしすぎる。
ではホテルとか空き家とか……一ヶ月以上放置されて埃だらけの部屋なんて論外だ。病気になりそうで怖い。
結局、トラックの荷台で寝るしか選択肢は無い。毛布くらいは貰ってくれば良かったな。
まぁ、今の俺には毛布や布団以上に柔らかいお姉様方が居るから問題無いんだけどな!
まずはギャル系巨乳特盛りのイリスに仰向けになって貰って、その上に俺も仰向けに寝る。
眼鏡クール系巨乳大盛りのアリスと、ゆるふわ系巨乳並盛りのウリスを左右に配置して……君達ひんやりしてるね?
いやいや、冬の布団も最初は冷たい。俺の体温で徐々に彼女達も暖かく……ならねぇ!
そりゃそうだよ! 羽毛布団は熱を溜め込むけどゾンビはそうじゃ無いもん!
俺の体温が奪われる一方じゃないか!
確かに柔らかさとスベスベ加減は最高級だけどさぁ……。ゾンビ布団は夏限定か! いや、この上から毛布なり布団なりをかぶれば……無いんだった……!
かつてグーラーだったエリーと祭さんとは違って、素直に従ってくれるアリス達は俺の容赦ないセクハラも受け入れてくれると言うのに……ゾンビであるが故の盲点がこんな所で足枷になるとは……。
萎えた……
外からは若葉さんとエリーが戦利品について語る声と、時々『ウィンウィン……』とか『ヴヴヴヴ……』といった機械音が聞こえ、あきらさんの叱責がそれに混じる。
特盛りイリスを抱きしめて胸の柔らかさを顔全体で感じながら、寂しさを紛らわせる。
ひんやり冷たい彼女を抱きしめながら、俺は眠りに落ちていった。
「なんじゃ、結局ヤらんかったのか?」
桜花、口調はともかく言動がおっさんじみてきてるぞ?
結局睡魔に負けて、俺は何も出来なかった……っていうかすぐ側にあきらさん達が居るのに、ナニかするつもりも無かったけどな!




