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五十一 ウサギと鶏。手の平を返せ。

 九月十五日。半月。零時三十分。


 茶番が繰り返されて、遂に日付が変わってしまった。

 真っ先に検討しなければならない事案を放り出してエロだスローライフだと論議が白熱したからだ。


「えっと、どこまで話が進んだんだっけ?」


「ひなたの去就についてです。ひなた、泣き止んだなら話を続けるぞ?」


 いつの間にかあきらさんが『通常体』に戻っていた。エリーも同様に。仮に朝日奈さんが暴れてもあきらさんとエリーが揃っていれば何も問題無いだろう。

 いざとなれば若葉さんに脅して貰えばそれで済むだろうし。


「そ、そうだな。あきら達はこれからどうするんだ?」


 あきらさんが俺を見る。


「俺達はこれから駐屯地に戻って、明日中には拠点に帰るつもりです」


 代わりに答えた俺を見て、何やら考え込む朝日奈さん。

 そう言えば、若葉さんが大人のおもちゃ屋さんに連れてけって言ってたな。あきらさんが一緒だと難しいかも? いや、これを機に少しはエロに耐性を付けて貰うとしよう。何事も慣れだ。


「では私はこのまま実家に戻る。後日少年の拠点に赴くとしよう。場所を教えてくれ」


「え? 普通にお断りしますけど?」


「あきらぁ! あきらの契約者がいじめるぅぅ!」


「ご主人様、痴女だからっていじめるのは良くないよ?」


「そうねぇ。ヘタレな中二病なだけで、悪い事は出来そうも無いからいいんじゃないかしら?」


「そうじゃな。スローライフに興味があるようじゃし所詮は『一般階級』、見張っていれば問題あるまい」


 三人が朝日奈さんに無害判定を下す。あんまり相手したくないんだけどな……って、あきらさんに任せれば良いのか。

 眺めている分には眼福のバニーガールだ。それなら良いかな?


「ひなた。実家に戻ると言ったが、養鶏場は無事なのか?」


「養鶏場だと!? 朝日奈さん! 養鶏場は、鶏は無事なのか!?」


「あ、ああ。幸い実家は周囲が田んぼばかりでな。両親も従業員達も無事だった。

 バリケードも設置したし、食料や飼料も私が定期的に調達しているから問題無いぞ」


「朝日奈さん! 連絡先交換しましょう! それから欲しい物があったら何でも調達しますよ! だから鶏下さい!」


「見事なまでの手の平の返しようじゃな……しかし朝日奈とやら。

 それでよくも余達をドラム缶泥棒呼ばわり出来たのぅ?」


「う……いや、その……ゴメンナサイ」


 胸の谷間からスマホを引っ張り出しつつの謝罪。

 なんて所にしまってるんだ……生まれて初めてスマホに嫉妬した自分に気付く。


「朝日奈さん、もし宜しかったら自分達にも鶏を融通して頂けませんか?」


 酒蔵さんも話しに乗ってきた。朝日奈さんを仲間にするのは?


「いや、その、彼女は望んでいないようですし、無理強いしても無意味なので……」


 珍しく歯切れが悪いな。正直にヘタレでビビリは要らないって言えば良いのに。



 結局、皆で一度駐屯地に戻ってから話をまとめようという事で落ち着いた。もちろん朝日奈さんも同行する。

 森平の死体についてはいったん保留として桜花に収納して貰い、アリス達にエリーの手足を処分して貰ってから出発する事が決定された。


「で、森平の死体はどこじゃ?」


「……あきらさん?」


「自分はひなたの介抱をしていましたので……」


「酒蔵さん?」


「お前達、誰かが運んだのか?」


 彼が部下に問う。


「自分は朝日奈ひなたが不穏な動きを見せないか、全身を注視していました!」

「自分は尻を注視していました!」

「自分は胸を注視していました!」

「自分はブルマを注視していました!」


「お前達、明日を楽しみにしていろよ。済まない蘭堂君。森平の死体は……」


「仲間の上位種が持ち去った……ですかね?」


「しかし先程まで『完全変化』状態の自分達の警戒に引っかからずに事を成すなど……」


「気配遮断の話はもう済んでるから」


 先程俺達が森平に対して行った事だ。自分達がされても文句は言えない。酒蔵さんの部下に対してはちょっと言いたい事があるけれど。


 分からない事をいくら考えてもしょうがないので、他に変わった事が無いのを確認してからアリス達にエリーの手足の処分を始めてもらう。


「自分の手足が食べられるって何だか不思議な気分だね。三人に均等に分けるの?」


「ひとまずアリスで様子を見てみよう。桜花、アリスに指示を」


「うむ。アリス、腕からいくぞ?」


 既に騎馬を解いて待機状態のアリスに、桜花がエリーの腕を渡す。

 スナック菓子の様にポリポリ腕を食べるアリスの姿に自衛官は顔を背け、朝日奈さんは離れた場所でげぇげぇと吐いている。

 軟弱な連中だな。朝日奈さんも……彼女は人造上位種だから食屍の経験が無いのか。それならしょうがないな。


 一本目、変化無し。次は足だ。

 二本目、変化無し。次は二本いっぺんにいってみようか。


 十六本ほどあったエリーの手足の全てがアリスの腹に収まった。変化は無い。


「若葉さんと桜花の時は二人ともゾンビから一発上位種だったんだけどな。なんでだろう?」


「あのケルベロスは『貴族階級』でしたし、格の差でしょうか?」


「うぅ、ボクの格が低いから覚醒出来なかったの……?」


「エリーが存命しているのも関係しているのかも知れんぞ?」


「単純に量の問題では?」


 とにかく上位種どころかグーラーにも成れず、ゾンビのまま。結果は結果なので長居は無用。


「撤収しましょう! 帰って寝ます!」


 既に午前二時に差し掛かろうとしている。昼寝をしたとは言え、さすがにキツイ。

 変電所の警備を残して、俺達は大宮駐屯地へと帰還する。いつになったらマンションに帰れるんだろうか?



 九月十五日。晴れ。正午。


 一時間ほど前に起床して幹部用の食堂に皆で向かうと、朝日奈さんと遭遇した。女性自衛官が二人付き添っている辺り、彼女の監視役なのだろう。


 朝日奈さんは自衛隊戦闘服に身を包み、その上にポケット多めの防弾ベストを装備。

 頭にはツバ広のブッシュハット。その上部からはウサ耳が突き出している。

 手には丸天帽子と呼ばれる、上部が平らな帽子を持ってにこにこと笑っている。

 全て緑色の迷彩柄だ。これからどこの戦場へ?


「記念に一式譲って貰ったんだ! バニースーツ程では無いが、中々似合っているだろう?」


 聞くとバニースーツは洗濯中で、乾くまでの間の代替品として譲って貰ったらしい。鶏確保の為の賄賂か?


「主殿、案ずるな。朝日奈よ、その帽子にウサ耳用の穴を加工してやったのは余である事、忘れてはおるまいな?」


「ああ! 桜花ちゃんには感謝しているぞ。瞬く間に加工されていく様子を見たが、魔法とは凄いものだな!」


 魔法とは……?

 ちゃん呼びにいささか不満げな桜花だったが、彼女なりに鶏確保の為に便宜を図ってくれたのだろう。

 不遜な態度を取る訳にもいかず、曖昧に頷いた。


 食堂で朝食兼昼食を受け取る。ミートソーススパゲッティにハンバーグと目玉焼きが乗っかったスペシャル版だ。

 駐屯地産野菜の入った具沢山コンソメスープと、かなり豪華な食事だ。


 付き添いの女性自衛官達は同メニューながらもハンバーグと目玉焼きが無いので、これは作戦成功のご褒美かな?


 ハンバーグは予想通りの冷凍物だったが、ミートソースはこってりトロトロしていてコクもあり、挽肉たっぷりマッシュルームたっぷりと……もしかして最初から手作りか!?

 さてはプロの仕業だな! シェフを呼べ!


「蘭堂君、落ち着いて下さい。これはレトルトのミートソースに缶詰のトマトや赤ワイン等を加えて作ったそうです。マッシュルームも缶詰だそうですよ?」


 女性自衛官さんが教えてくれた。


「でも美味しいね! うちでも作れるのかなぁ?」


「大量に作る事で出せる味、らしいですから。少量だと難しいかも知れませんね」


「ぎゃあ! ソースがはねた! せっかく貰った戦闘服が! あきらぁ~」


 日常の朝日奈さんはポンコツなのか? ポンコツだよね?

 濡らしたティッシュで胸の染みを拭いて貰っている――拭いているのは勿論あきらさんだ――彼女を見て、酒蔵さんが彼女を諦めたのも止む無しと、一人納得した。


 丁寧に胸の染みを拭き取るあきらさんだが、場所が場所なだけにぐにぐにと変形する朝日奈さんのおっぱい。


 身をよじる彼女に苛ついたあきらさんが朝日奈さんを片手で抱きかかえて拘束し、真面目に染みを拭き取る彼女達の姿は周囲の男性には少々刺激が強すぎたようだ。



 防衛大学校は入試も厳しく、入学してからも厳しく、上下関係も厳しく、休日でさえも自衛隊幹部養成学校の名の通り、甘えなど一切許されない場所らしいのだが。

 そんな場所で一年以上、朝日奈さんが過ごしてきたのが信じられない。


「ひなたは環境に適応出来れば能力を発揮できますので……」


 朝日奈さんは幼なじみの微妙な評価に気付く事無く、ソースで口の周りを汚しながら食事を楽しんでいる。

 残念過ぎる彼女の今後の人生に祝福を祈らずにはいられない……


「ひなた! もうちょっと丁寧に食べろと何度言ったら分かるんだ!」


「こんな美味しいスパゲッティをちまちま食べるなんてマナー違反だぞ!

 何だったら皿を持ってガツガツいくのが礼儀だろう!」


 そんなマナーも礼儀もねぇよ。

 朝日奈さんの口元を拭きつつ漏れ出るあきらさんの溜息に、その場の全員が彼女に同情した。




 食事と休憩を終えて、指定された会議室へ女性陣を引き連れて向かうと、既に大宮駐屯地の幹部達……いつものおっさん連中が待ち構えていた。


「昨日はご苦労だった。適当な場所に座ってくれ」


 小林一等陸佐の言葉で素直に座る。おっさん達の表情は……可も無く不可も無く?


「酒蔵三等陸尉から報告は受けている。まずは作戦成功の礼を言おう」


 小林一佐が軽く頭を下げて話が続く。


「正直に言うが、君達に期待したのはテロリストの殺害だけだった。

 それによって変電所が破壊されても、さいたま第二変電所に電力をまわせば多少不便になるが、重要施設の電力確保は問題無かったんだ」


 つまりなにか?

 変電所も、人質も見捨てるつもりだったと? この場で駐屯地のトップが言う台詞じゃないのでは?


「君達が設備の一部を破壊してしまった事を心配しているようだったんでな。

 オレは駐屯地の(おさ)として命令を下し、本音を隠して蘭堂君にお願いするしか無かった。

 君達の戦力を考慮すれば森平殺害は容易かったろうが、第一変電所を失うのも辛い。

 素人の君達に多くを望み、裏では保険を掛けていたが……結果は第一変電所の一部損壊だけで済んだ。

 くどくどと回りくどくなってしまったが、オレ達の予想を裏切った大活躍だったと、そう言いたいんだ」


 ホントにくどくて長い。これだからおっさんは……。

 とにかく、期待してなかった割には良くやった! と、そういう事らしい。


「第一変電所はこれからどうなるんですか?」


「これからも稼働を続けるよ。破損箇所の復旧は今後の調査によるが、第二発電所が無事なら問題無かろう」


「森平の問題は?」


「それこそ今後の課題だな。蘭堂君達が協力してくれればそれが最善なんだが、そうもいかんのだろ?

 朝日奈さんも消極的だそうだし、まぁ、上位種に関してはゆっくり進めていくさ」


 長々と続いたが、ここまでを挨拶として終了する。


 今回の件は異なる組織同士の共同作戦だった。俺の中ではそういう位置付けだ。

 互いの代表がそれぞれの評価を元に責任やら情報収集やらで、少しでも利益を得ようとする。


 今回は小林一佐が折れてくれたので報酬は好きに要求できるんだけど……大宮駐屯地に要求できる内容で、俺の望む品が無いのが問題だ。



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