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四十八 変電所と鳥。狼と鳥の攻防。

 若葉さんの手引きで自動ドアをクリア。救出チームが建物内に侵入して四階を目指す。


 入り口で『完全変化』状態の若葉さんと対面した彼らが悲鳴を上げなかったのは賞賛に値すると思う。


 多分彼らの頭の中にも、若葉さんのエコーのかかった関西弁が響いただろう。

 若葉さんの見た目のホラーと相まって、十分に混乱したに違いない。多分、


『こっちや! ついて()ぃ……て来ぃ……来ぃ……』


 とか、


『罠はあらへんっちゅうとるやろが! ええから行くでぇ……くでぇ……でぇ……』


 とか、関西弁が響いているハズだ。ホラーは別にしても地味にキツいんだよなぁ、あの頭の中で響くエコー。


 長々と続く酒蔵さんの説得に遂に観念したのか、森平がその口を開いた。


「分かりました。貴方達の掲げる日本復興への道筋とゾンビと共存するという理念。大変素晴らしいものだと思います」


「分かってくれたか!」


「十分理解出来ました。貴方達が理想しか語れない、人間の闇を理解できない偽善者だと!」


 雲行きが怪しくなってきた。


「エリー、静かに『完全変化』出来る?」


「任せて! ようやくボクにも活躍の場がやって来たんだね!」


 だから静かに!


「……」


「人間などに生きる価値はありません。少々手間ですが、ゾンビにして我等の『格』を上げる為の食料にするしか利用価値が無いのですよ?」


 我等の『格』を上げる?


「一体どういう事だ! まさか森平、貴様上位種であるにも関わらず、まだ人間を喰らおうと言うのか!?」


「だったら何だと? その為の人質。その為の百人ですよ?」


 上位種が死体を食べたら格が上がると? エリー、桜花。死体……食べたい?


「愚問じゃな。そのようなおぞましい質問は金輪際するでないぞ?」


 ですよねー。

 エリーを見ると黒い毛並みだった彼女が全身銀色のそれに変わり、顔も狼に変化した……何となく女性的な雰囲気が残る。

 手足が若干伸びて、見た目は二足歩行の狼だ。


『ご主人様ぁ! ボク、頑張るから! 後でいっぱい褒めてね?』


 また頭に響く系だ。エコーが掛からないだけマシだが……ケルベロスの時は普通に会話出来てたんだけど?


「上位種については現状、研究中じゃ。そのうち主殿にも色々手伝って貰うかも知れんがの。

 結果を自衛隊連中に報告すればそれで良かろう? 後は頭の出来が良い連中の仕事じゃ」



「貴方との会話にも飽きてきました。貴方一人で私と対峙した度胸は認めます。

 しかし、テロリスト相手に民間人百人を本当に連れてきたのは少々、幻滅ですね。

 どうせ機会を見て私を狙撃するつもりでしょうが、私に銃は効きません。ご覧なさい、貴方の後ろで恐怖に怯える民間人達を。

 どのような作戦かは存じ上げませんが、作戦発案者の方には是非とも一度、お目にかかりたいですね」


 あ、俺です、俺。ここに居ますよー。


 幻覚に支配された森平との交渉は彼が話せば話すほど、茶番の度合いが高まっていくのだが、それを悟られるわけにはいかない。


 人質の安全を確保して変電所を破壊される事無く、森平を排除しなければならないからだ。


 建物の一階はテロリスト対策で入り口が正面玄関しか無く、全ての窓は頑丈な鉄格子で覆われている。

 物理攻撃手段を持たない若葉さんが窓や壁を破壊することは難しく、救出した人質達と一緒に正面玄関から脱出するしか無いのだが……


 やがて建物の壁をすり抜けて若葉さんが現れた。

 ふわふわと浮遊しながら森平の背後に近づく彼女は、口に人差し指をあてて『黙っといてや』と、俺達にジェスチャーを送る。追加の幻覚でも掛けるのかな?


 予定に無い若葉さんの行動に、酒蔵さんの動揺が俺達に……森平にも伝わった。


 不審げな顔で振り向いた森平の前に、骨の手で彼の頭に両手をかざそうとする若葉さん。

 二人の目? が合い、静寂が辺りを包む。数秒ほどして、若葉さんが――骨の――手の平を森平の前でひらひらと振った。


『コイツ気絶してるでぇ……るでぇ……でぇ……』


「確保しろぉーーー!!!」



 こうしてテロリストに占拠された、さいたま第一変電所は奪還され、人質も全員救出された。

 実行犯である森平将介の身柄は拘束され、エリーの活躍の機会だけが失われたのであった……まる。


『まる。じゃないよ! せっかく『完全変化』までしたのに、ボクのやる気はどうしたら良いの!?』


 俺に言われてもな……


『まぁまぁ、エリー。そない落ち込まんとも、次があるやろ? 誰も怪我せんといて良かったやんか……やんか……んか……』


『若葉さんはもう元に戻ってー!』


 残念だがそうはいかない。森平の護送が終わるまで警戒を解くわけにはいかないからだ。


「それにしても、上位種を拘束できる設備ってあるんですか?」


 アリス達の騎馬に跨がったまま、上から酒蔵さんに尋ねる。


「練馬区の朝霞駐屯地に協力を要請しました。植物系の上位種らしいのですが問題無いだろうとの事です」


「上位種の都合が付いたんですか?」


 そのせいで俺達が駆り出されたんだからな。


「有原君同様、戦闘能力は低いようですが、拘束能力に長けているようです」


「じゃあ俺達はその上位種が来るまでは警戒態勢ですか」


「はい。面倒でしょうがよろしくお願いします」


 最後の最後で逃げられても面倒だ。エリーと若葉さんには負担だろうけど……



 突如として、強烈な破裂音と激しいフラッシュが周囲の人間を襲った。アリス達の騎馬が急に後方へと跳ぶ。

 勢い余って振り落とされそうになるが、ギリギリでアリスにしがみ付いて難を逃れた。

 とっさの行動だから。だからアリスの巨乳を鷲掴みにしてしまったのは不可抗力だ。そうに違いない。とても柔らかかった。


 森平の周囲には自衛官が数名横たわり、拘束を……焼き切ったのか? 森平がゆっくりと立ち上がった。


「狙撃班、ヘッドショットお願いします!」


 周囲の建物の屋上に配置された狙撃担当の自衛官に無線で指示を送る。いくつかの発砲音が重なって森平の頭部に命中したが、効果は薄いようだ。


「狙撃やめ! エリー! 出番だ!」


 一応の保険で配置した狙撃班も予想通り効果が無く、エリーによる直接制圧に移行。しかしさっきの光と破裂音から察するに……


「桜花! エリーに耐電魔法を!」


「心得た!」


 桜花の言葉と同時に稲妻がエリーを直撃。硬直する彼女の腹に森平の蹴りが直撃。


 僅かな距離、後方に吹き飛ばされたエリーが赤く染まった唾を吐いて森平を睨み付ける。


 睨み合う二人。森平の周囲には気絶した自衛官。雷を操る奴の前には銀色の毛並みが月に輝くエリー。


「もはやこれまでですね。残念ですが、人質と司令室。破壊させて頂きます」


 言って森平はリモコン――幻覚によって持っていると思い込んでいる――のスイッチを押した。


「何故爆発しない!?」


 するわけが無い。だってあんた、リモコン持ってないんだもん。


 何も持っていない事に気付かず、ただひたすらに親指を上下に動かす彼は、手元と建物四階を交互に確認して混乱を増していく。


「何故だぁーー!!」


 森平の叫びと共に、エリーの振るった爪が彼の右腕を切断した。次いで入るボディブローからのアッパーカット。浮き上がった森平の体を両の手の爪が切り裂いた。


 傷口の割には少ない出血で横たわる森平の頭をエリーが踏みつけて、


『死ぬか奴隷か、どっちか選べ』


 過酷過ぎやしませんかね?


「エリー! そやつは『完全変化』するつもりじゃぞ! 早うトドメを刺さんか!」


 桜花の言葉にエリーがあわてて足に力を込めるも、森平の『完全変化』が先に完了してしまった。


 切断された部分が再生されて、人間よりは一回り大きいだろうか? 赤黒い羽に全身を覆われた彼は(わし)の頭に両手を翼に変えた……あれってガルーダなんじゃないの?


 いや、ガルーダが雷を操るなんて記述見なかったし……雷を操るその能力をもって、サンダーバードと特定する!


 変化したての森平の腹に数発の突きを喰らわせてから一旦距離を取るエリー。


「申し訳ありませんが死んで頂きます。格下の貴女は皆さんの足手まといでしょうしね。

 せめて私の格を上げる糧になって下さい。……『一般階級』の貴女では大した足しにはならないでしょうが」


 エリーの攻撃を何とも思わないのか、森平が冷静に告げた言葉にエリーが反応する。

 アイツはエリーまで食べる気かよ。確かに人間よりは上位種の方が効果的っぽいけど……。


『アハハハハ!! お前は随分面白い事を言うね! ボクが足手まとい?

 そう思っているなら、狼の本当の力を見せてあげるよ!』


 何それ? 俺も見たいんだけど?

 既に『完全変化』状態のエリーが敵を目の前にして月に吠える。

 その隙を逃すはずも無く森平が雷撃を放つが、桜花が施した『雷耐性強化』の魔法の恩恵か。エリーの更なる変化を阻むに至らない。


 エリーは銀色の毛並みのままに手足は狼のそれで、顔は人間の姿にケモ耳と、むしろ『完全変化』から遠ざかって『通常体』の姿に近づいている。


 しかしその瞳は銀色に染まり、爪は太く鋭く、彼女の牙が月明かりに煌めいた。


『サンダーバードだか何だか知らないけど狼に喧嘩を売った以上、無事に済むとは思わないでよね?』


「ハッ! 少々姿を変えただけで、たかが狼風情がサンダーバードに喧嘩を売るとは冗談でも笑えませんね!

 『一般階級』が『貴族階級』に敵うとでもお思いですか!?」


 テロリストの森平将介。上位種の情報に詳しい彼は何かの組織に所属している筈だ。


 上位種が死体を食べる事で格を上げる。

 『我等の格を上げる』という台詞から他にも上位種の仲間がいる。


 重要なのは上位種が死体を食べて格を上げるってトコだけど……それを実行しようとする辺り、前例があるのは間違い無い。


 そっかー、意識が戻った状態で、生前の価値観を持った状態で、死体を食べるのか……そこまでして格を上げなければならない理由はなんだ?


 森平の電撃と弾丸のように撃ち出される羽を相手に、エリーは時にかわして時に防ぐ。鉤爪を伴った蹴りを受け流して彼女は拳をたたき込む。


「エリーが優勢に見えるけど……桜花は何で俺の背中にしがみ付いてんの?」


「主殿が騎馬で移動するのに一々追いかけるのが面倒じゃからな。引っ付いておれば移動の手間が省けて護衛に専念出来る。合理的じゃろ?」


 確かにそうだけども。どうせ背負うなら巨乳の方が……


「しかしエリーの攻撃は確かに鳥を追い詰めておるようじゃな。格下のエリーが何故『貴族階級』相手に優勢なのか?

 先程の変化が原因なのは間違い無かろうが……」


「『完全変化』状態から更なる変化をした……ように見えたな」


 エリーの拳が森平の顔面に入る。クチバシが砕けてよろける彼に、追撃の拳と爪が、顔に体に無数と襲い掛かった。


 吹き飛ばされて痙攣する森平を前にして、再び月に吠えるエリー。


『答えは簡単だよ! 月が満ちる程にボクの力も上がっていくの!

 先月の満月の時はまだ上位種じゃなかったけど、今日は半月だからね! これでも上昇率五割だよ!』


 これで五割かよ。『一般階級』のワーウルフが『貴族階級』のサンダーバードを格闘で圧倒出来るのは能力上昇だけとは思えないが?


「単純に鳥が格闘に不向きと言うだけじゃろ。あやつの攻撃手段は雷撃と羽を飛ばすだけ。

 近接の蹴りは直線的でエリー程の鋭さも無い。エリーはあきら相手に毎晩修練に励んでおったと聞いたが……ようやくその成果を発揮出来たようじゃな」


 そんな修行パート聞いてないんだけど? いや、確かに『修行してるよ』と『修行してたんだよ』じゃ後者が圧倒的に格好いいけども。


 横たわる森平の腹を蹴飛ばすエリーはちょっと愉悦に満ちた表情で森平をいたぶる。ダメだ! それはフラグだ!


「……驚きました。『一般階級』の狼風情にここまでしてやられるとは想像もしていませんでしたよ。

 しかし格下ゆえか、未成熟な少女ゆえか。あなたは上位種の『格』についての理解が浅い。『貴族階級』の本領を、ご覧に入れて差し上げましょう」


 そういう少年マンガ的な展開はいいから早く終わらせたいんだけど?


 俺の願いも虚しく、電力制御盤のボックスを開ける森平に危機感を覚えたエリーが突っ込むも、複数の破裂音と度重なるフラッシュに弾き飛ばされる。


 電力制御盤に腕――っていうか翼――を突っ込んだ森平の体から傷は消えて、帯電するその体からは先程よりも生命力に満ち溢れているように感じる。


 電力で回復したのか!? ズルくない!? チートだろ、それ!


 確かに敵キャラが復活とか強化とかは鉄板ネタだけどさぁ。

 やられる身にもなってよ?


 巨乳三人娘の騎馬に跨がって十歳の少女を背負う俺が、世界の理不尽さに愚痴をこぼす。


 この世は理不尽だらけだ!



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