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五 妹とあえか。どちらか選べ。

 八月十二日。昼過ぎ。


 ネットのお祭り騒ぎは日に賑わいを増しつつ、マスコミュニケーション共は相変わらずテロ派とゾンビ派が場外乱闘の様相を呈している。いい加減にしろよ。


 一部良識有るメディアではゾンビの特性、弱点の検証を行っていたが、頭部を破壊すれば動きが止まる。という結果しか得られなかったようだ。他の情報は既に知っていた。


 やっぱり創作に忠実に忠実に。頭部破壊は基本かー。となると、銃かスコップかバールのようなモノか丸太か、あと何だっけ?


 先人達のアイデアは映画やマンガであろうとも、現状が創作めいた世界に堕ちつつ有る今。その垣根は無くなりつつある。現実がマンガの世界に成り、マンガが現実の世界に成るのだ。


 幼馴染みのスタイルをもっとグラマラスにして下さい。マンガ様。


「なんか言った!?」

 気のせいだよ。空耳だよ。


 前回、ちゃんとしたゾンビパンデミックに軌道修正すると言ったな? あれはウソだ! しばらくはダラダラぐだぐだのラブコメもどきの合間にゾンビ活劇をお送りする! 以上だ! 覚悟しろよ!!



 さて、開き直ってみれば綺麗さっぱり、心さっぱり。

 あれから二日。朝春です。八月三日、渋谷のゾンビ事件(仮称)発生と同時に起きた日本の主要都市でのゾンビ事件。たった九日で捜査が進展するわけでも無く、ただ被害が広がるばかり。


 連日のように鳴り響くサイレン、衝突音、鉄砲と思われる破裂音、悲鳴、悲鳴。日を追う毎に減少していくそれは、生存者の数と比例しているのだろうか。


 ふと窓辺から空を見上げると、カラスが一羽。カァーカァー。つられて俺もかぁーかぁー。

 女性陣があわててやって来る。


「朝春! 大丈夫!?」

「トモ! 大丈夫!?」

「兄さん! 性処理でお困りですか!?」


 最後がおかしいよ! あえか!

 ほんのジョークのつもりだったハズなのに!


 渋谷・新宿・池袋・札幌・仙台・名古屋・大阪・京都・兵庫・福岡。

 以上の十都市でゾンビ事件が八月三日午前九時から十時に発生。同日午前十一時前後、千葉県某市を含む地方中規模都市数十カ所でゾンビが『自然』発生。一般人を感染させつつも勢力を拡大。

 いわゆるベッドタウン、東京における千葉や埼玉の人工密集地から各地に向けて進行中。――と。


 なんだそれは。ゾンビを使った日本侵略か? 警察、機動隊、自衛隊が手こずっている今、それは成功しつつ有るようだが……。


「朝春ー、ピザポテチー」


 俺、まじめに解説してたよね? 高校二年生だけど頑張って難しい言葉使ってるんだよ? それがピザポテチ? 勘弁してくれよ。この!

 ……待て、落ち着こう。俺。非日常に突入したんだし? 自分の為に落ち着こう。すーはーすーはー。今日も窓の外は青い空だ! 白い雲と青のコントラストが何とも美しいな!


「ピザポテチー!」

「んなモンねぇよっっ!!」

「うえーーん。朝春が怒ったー」

「トモ、イライラする気持ちは分かるけどねねちゃんに八つ当たりするのはダメよ?」


 女を殴りたいと、生まれて初めて思った。原因はピザポテチだ。ゾンビなんかどうでもいい。俺の敵はピザポテチだ。


 食料の在庫はまだ余裕があるが、軟禁状態の女性達の心情は如何なものだろうか?


 ねねは論外にしても母さんとあえかの精神状態がいささか不安だ。あれから九日が経った。早めに対応するのが良いだろう。


 まずはあえかの部屋の扉を叩く。コンコン。


「はい、兄さんですか?」


「そうだよ。入っていいかな?」


「どうぞ……」


 言われて扉を開く。ベッドに机に小さい本棚。ありふれた。と言っていいだろう。悪く言えば特徴の無い部屋だ。


「なにか、御用ですか?」

 いや、ただ何となく。ご機嫌を伺いに来ただけだよ!


「なぜ?」

 いや、ストレスとか溜まってないかなー、って思って!


「私がストレスを溜めていると?」

 いや、違うならいいんだけれども。


「兄さん」

 はい?

 言ってあえかは俺を優しく抱きしめる。なんで?


「兄さん」

 はい。


「兄さんは私達家族を守ろうと頑張ってくれています。……情報収集だけですが」

 うん。続きを聞こうか。


「実際、私達にはまだ何も起こっていませんが……兄さんは少し、考え過ぎではないのでしょうか?」

 む。そうなのかな?


 確かにまだ何も起こっていない。でも俺は家族の安全を……。


「フッ、あえかにはお見通しか」


「その通りですけど、言い方がキモいです」

 ――なんでそうなるの!?

 ていうか、あえかはもしかしなくても俺の事がキライなの!?


「ふふふ……」

 ほらぁー!


 あえかが俺を抱きしめる。その手は強まる事も無く緩まるわけでも無く。


「兄さん……」


 すーはー。すーはー。すんすんすん。


 ちょっとあえかさん。なにやってんすか?


 すーはー、すんすん、ぐへへへ。


 あえか! 落ち着け! 大和撫子としてその笑い方はどうよ!?


「兄さん。あの女は私が始末しますから。二人で一緒に終末を過ごしましょう……?」


 彼方からサイレンと悲鳴がこだまする。うーうー! わー! きゃー!


 あの女って誰!? 母さんじゃないよね!? じゃあねね!? 始末って何!?


 妹に抱きつかれたまま、俺は混乱と踊り続ける。始末はヤヴァイよー。俺もオマケとかつけ麺とか言ったけど幼馴染みだし? そんなまさか。


「兄さん。私とつけ麺、どっちが大事?」


 どんなホラーだよ! どんなヤンデレだよ!

 俺の妹が俺の心を読むヤンデレだった件。俺はゾンビパニック小説の主人公だったつもりだったんだ。な……何を言っているのか分からねーと思うが、俺も、何をされたのか分からなかった……。気が付いたら妹がヤンデレだったんだ。しかもブラコンだよ!

 どうしたらいいの!? 助けて田中(仮)さん!


「つ、つけ麺ってなにかなぁ?」

「あら、兄さん。ねねさんの事を散々オマケだのつけ麺だの居候だの。ふふふ」


 助けてー! へるぷみー!


「そ、そんな事言ってないよ? ねねの事を、そんなぁー」


「ええ。『言って』はいませんね。ごめんなさい、兄さん」


「待て! 待て。まって! ねねとあえかだったら勿論あえかが大事だ! 本当だ! 『家族』なんだから当たり前だろ?」


 『家族』? へぇ? ふーん?

「まぁいいです。兄さんが私の事を大事と言ってくれたから。とりあえずヨシとします」


 とりあえずですか。そうですか。先行きが滅茶苦茶不安なんですけど! ゾンビよりあえかの方が怖いよ!


「私は怖くないですよ? 兄さん?」


 俺の心を読まないで! やっぱり怖いよ! 助けて田中(仮)さん!


「ふふふ」



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