四十六 変電所と罠。ゾンビにアレ。
「その根拠をお聞きしてもよろしいですか?」
今回の作戦で一番問題なのは敵の上位種の種族と人数だ。ここが不明な以上、成功率百パーなんてあり得ないが、最悪桜花の『ドカン』で済む。
済むのだ。が。
それを実行すると文句を言われるだけじゃ済まされないのは承知している。だから細かい細工と若葉さんの幻覚魔法が重要なんだよ?
「敵上位種が一人だけなら百パーセントは言い過ぎにしても、八~九割で成功します。これは単純にこちらの上位種が三人いるからですけど、『王階級』の桜花の存在が大きいですね。
敵の能力が余程おかしなものでも無い限り大丈夫だと思いますよ」
「そうですか。ちなみに、翼をもった姿から相手の種族を予想する事は出来ますか?」
鳥系のモンスターだと風属性が多いけど、それ以外は……
ロックバード:デカいだけ。楽勝。
グリフォン:大した能力は無い。楽勝。
フェニックス:火属性。不死鳥、ヤバい。
ハーピー:敵は男だからこれは無い。
コカトリス:ブレスが毒や石化の効果。超ヤバい。激烈にヤバい。
サンダーバード:雷属性。危険。
スマホでざっと調べるとこんな感じだ。神話とかに出てくるのは多分『王階級』だろうから除外。
「敵が『王階級』では無い根拠は?」
冠が無いから。それだけ。
「根拠としては弱いですが、そもそも『王階級』という言葉は初耳ですし、桜木さんのように冠をかぶった上位種も確認されていませんので、妥当なところでしょう」
「お前はご主人様の作戦とボク達の力を信じてないのか?」
「エリー、相手は年上だから言葉遣いを丁寧にだな……」
「構いませんよ。今回の作戦は絶対に失敗が許されませんから、自分を安心させる為に色々と聞いてしまいました。お詫びします」
固いなぁ……。組織ってのはこれだからいけないな。もっとこう、その場のノリで臨機応変にいかないと!
食事を終えて作戦の最終調整を行う。付近のゾンビ――約百人――を桜花の指揮下に入れて先に変電所付近に向かわせる。彼らに大した役割は無いが何かの役には立つだろう。
だから桜花に跪いてないでさっさと行け!
それからそこ! 柏手打って拝むんじゃない!
桜花も「大義である……」とか言ってないで言う事聞かせて!
間に合わなくなるから!
現在二十時。あれから四時間ほど仮眠をとって食事も終えた。
駐屯地出発は二十時三十分。変電所まで四十分程。作戦開始は二十二時。
場所は作戦会議室。俺の左右にエリー、若葉さん、桜花。
前には酒蔵三等陸尉とその部下四名、後方にサポート要員達が整列。
彼らは皆、黒の迷彩服に黒いヘルメット、各種装備を身に付け……その迷彩服正式装備じゃないよね? わざわざ用意したの? 夜間作戦だから? へぇ。
そして横では小林一等陸佐と幹部のおっさん達が渋い顔をして座っている。
原因の桜花が『緑』の迷彩柄の戦闘服を着ているからだ。袖や裾を折り畳んでいるものの、当然ながらブカブカ。
そして『緑』の迷彩柄のヘルメット……冠の上半分がメットから突き出てふよふよと漂っている。どちらも陸上自衛隊の正式装備だ。
「……あの、桜花さん? 人命が掛かった真面目な作戦だって分かってるよね?」
「ちゃんと理解しておる。余は接近戦はせんから服装は何でも良かろう?」
その格好のせいで緊張感が失われてしまっているんだが……まあいい。
小林一等陸佐が伝達事項を述べた後で、指揮官としてスピーチを求められた。
こほん。
「これから我々が行うのは戦闘ではありません。貴方がた自衛官は人質の救出。
……俺達は同胞を殺したクソッタレの鳥野郎を一方的に蹂躙するだけだ!
人質も! 変電所も! 俺達は何一つ失わない! それが散っていった同胞達に対するせめてもの手向けだ!
本日、諸君のような素晴らしい男達を率いて戦える事を俺は誇りに思う! 以上!!」
一拍の静寂の後、男達の拍手と雄叫びが巻き起こる。上手くスピーチ出来て良かったと、内心ホッとしたのは秘密だ。
トラックへ向かう途中、いたく感心した様子の酒蔵さんは、
「蘭堂君、自分はこんなに心が動いたのは生まれて初めてかも知れません。
心の何処かで素人の少年だと侮っていた自分を恥ずかしく思います」
いや、そんな淡々と言われても……
「酒蔵隊長がこんなに熱く語ってるのは初めてッスよ? 俺もやる気になったッス!」
熱いの? これで?
「先行部隊の罠の設置も気付かれなかったみたいですし、後の指揮はお願いしますよ!」
有効打になるかは不明だが、先日のケルベロス戦をヒントに仕掛けた罠だ。
気付いていて放置かも知れないが、無事設置出来たなら他はどうでも良い。
あとは若葉さんの幻覚が成功するか否かで今後の展開が変わる。お願いしますよ! 若葉さん!
「任しとき! むっちゃ練習したから自信たっぷりやで!」
「エリーは手はず通りに最初っから全開でよろしくな!」
「うん! 任せて!」
「桜花は俺の護衛だ。魔法撃って施設壊すんじゃないぞ?」
「むー! 余も活躍の場が欲しいぞ!」
代わりに『耐性強化』の補助魔法を使って貰う。長時間保たないらしいが、短期決着の予定なので何とかなるだろう。多分。
若い自衛官にトラックの運転を任せて後部から搭乗。エリーと若葉さんの、『同乗者達』と俺に対する視線が冷たく感じる。
「ご主人様?」
「朝春さん?」
「「この女ゾンビ達は、なんなの?」」
事情を知る桜花はニヤニヤするだけで助ける気はゼロのようだ……
俺達四人と美人ゾンビ三人を乗せたトラックが、駐屯地から南東にある『さいたま第一変電所』に向かって走行中、車内では俺に対する事情聴取という名の尋問が行われた。
「何も疚しい事なんて無いぞ。彼女達は作戦中の俺の盾となり、足になるんだ」
「疚しいかそうや無いかはひとまず置いといたる。『盾』はまだ分かるんやけど、『足』っちゅうんは何や?」
「HAHAHA。よくぞ聞いてくれた! 知っての通り俺は抗体者だが、身体能力は一般人と変わらない。
そこでだ! アリス(仮称)・イリス(仮称)・ウリス(仮称)の三人に騎馬になって貰う事で移動速度を補うのが目的だ!」
「ちょい待ちぃ!! なんやソレ! 名前まで付けてもうたんか!?」
それが何か? (仮称)だけど名前が無いと愛着が沸かな……指示する時に不便だろ?
「朝春ぅぅぅぅ!! こん、浮気モンがぁぁぁ!!」
「ちょ、若葉さん! 落ち着いて! まだご主人様の余罪が追及できてないから!」
待て待て二人共。確かに若い女性であるアリス達に疑問を抱く気持ちは理解できる。
「しかしゴツい男の騎馬よりは彼女達の方が俺のやる気が上がるのは分かるだろ?」
「く……! そんなん言われたら納得するしかあらへんやんかっ! 卑怯やで!」
「むしろセクハラに夢中で指揮に影響が出ないか心配だよ……」
「そ、そうや! さっきからずっとツッコミたくてウズウズしとったんや!」
「まだ何か? 運転手の兄さんがさっきから迷惑そうにチラチラ見てるけど?」
「知るかボケぇ! つーか、三人揃って巨乳でパッツンパッツンの体操着にブルマってなんやそれ! イメクラかっ!
ご丁寧にハチマキとブルマで赤・青・黄色って、お前ら信号かぁっ!!」
「連続ツッコミは反応しづらいですよ?」
「し、しまった! ウチとした事が……ツッコミ所有りまくりやから焦ってもうたわ……ウチもまだまだやな……」
「大丈夫ですよ、若葉さん。俺達、これからじゃないですか。
一度や二度の失敗で落ち込むなんて若葉さんらしくないですよ? もっと貪欲に攻めてこそのツッコミでしょ?」
「せ、せやな……うん! ウチ、危うくダメになってまうトコやった!
やっぱりウチの相方は朝春さんしかおらへんな!」
「夫婦漫才師として頑張りましょう!」
「ややわぁ。ウチ、朝春さんの愛人枠なんやから、不倫漫才師やで?」
「そう言えばそうでした!」
「「あはははは!」」
パチパチパチと、アリス達の無表情で空虚な拍手によって、寸劇の幕は閉じられた。拍手は桜花の指示かな?
「七十点」
微妙な点数だな?
「三人の『必勝』ハチマキのツッコミが無かったよ?」
エリーはお笑い好きなのかな?
「う……ウチかてそれは分かってたんやけど……ツッコミ所が多すぎて拾いきれなかったんや……」
「カハハハハ! 余の渾身の作であるハチマキを後回しにするとは、母上もつれないのぉ!
それぞれの色の迷彩柄をハチマキに仕立てた挙げ句、『必勝』の二文字を白抜きして黒の縁取りまでした一品ぞ!
僅かな時間で体操着と主殿好みの女ゾンビ達を調達し、風呂に入らせている間に魔法でハチマキを仕上げた余はもっと褒められても良いと思うんじゃが、そこの所どうなんじゃ!?」
「桜花の自白があったという事で、俺は無罪放免なんじゃないの?」
「二人とも同罪だよ」
「何故だ!? 俺は桜花にエロいねーちゃん達で騎馬戦やりたいから調達ヨロシク! って、言っただけだぞ!?」
「何を言う! 体操着は首元と袖口のラインもそれぞれの赤・青・黄色に合わせたんじゃぞ!? 余の努力を何と心得るか!?」
「どっちもどっちやなぁ……てか桜花。アンタ午後おらん思っとったけど、ナニしとってん……」
「余の探究心は生前のソレを超えたのじゃ。上位種によるゾンビの有効活用もその一つ。余が架け橋となって人とゾンビを結ぶのじゃ。
もう……今までの常識は通用しないんじゃ。母上……」
どっかで聞いた台詞だな?
「ほぅ? その架け橋の結果がパッツンブルマやと。そう言うわけやな?」
「待て、母上。余は主殿に忖度しただけじゃ。騎馬戦と言ったら運動会。ならば体操着は必然じゃろう?
サイズとブルマは……それしか無かったから仕方なくじゃ!」
「殿下は何処で体操服を調達してきたの?」
まて桜花、その先を言っちゃ……
「おもちゃ屋さんじゃ!」
「おもちゃ……?」
キョトンとするエリーだが、若葉さんは見当が付いていたらしく、
「『大人の』……やろ?」
「な、何の事じゃ? よく覚えておらんの~」
「はぁ……まぁ、ええわ。桜花もお年頃やし、そういうのに興味持つのもしゃあ無いから許したる」
おお。意外とあっさりお許しが出た!
ちなみに桜花は十歳だけど……
「せやから、明日ウチも連れてってな?」
なぜそうなる!? 何も分かっていない純真なエリーはどうするんだ? おいていくのか!?
「仲間外れはアカンやろ。エリーちゃんも一緒に決まっとるやん?」
「?? 良く分からないけど、ボクも一緒に行くよ! そうと決まったら鳥野郎はサクっと始末して早く寝ないとね!」
うん、ソウダネ。済まないエリー。俺は自分の保身の為に君の無垢な心を若葉さんに差し出してしまった……。
アリス達の件をうやむやに出来たから結果オーライだけどな!
連なるトラックが変電所に向かって、夜の街を走る。
街灯と月明かりだけが、無人の街を照らしていた。




