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四十三 成り行きと流れ。食事を比べるな。

 ドラム缶販売会社。倉庫前。


 明日葉二等陸尉を筆頭に四名の自衛官とスライムの少年、有原。


 某国民的RPGによってスライムは雑魚というイメージが固まってしまったが、純粋なファンタジー作品におけるスライム『粘性生物』は、物理攻撃が効きにくく、触れた対象を溶かす……等の特性を持つやっかいなモンスターだ。


 有原がそうだとは限らないが、仮にも上位種。油断できる相手では無い……そう言えば明日葉が『戦闘力は無い』とか言ってたな。

 いや、上位種として『人間離れした身体能力』という基本能力が有るはずだ。騙されないぞ。


「私達は朝比奈ひなたを追っているんです。

 だけどそれは、彼女が自分の意志に反して上位種にされたと思い込んで逃げているからで、誤解を解いて自衛隊に協力して欲しいからなんだよ」


 有原が桜花をチラチラ見ているが、無視して話を進める。


「あの痴女……彼女は悪の組織に改造されたって言い張ってましたけど?」


「改造は語弊があるんだけど……人造抗体者やゾンビウイルスに関する研究は防衛省と厚生労働省が連携して行っているんだよ。

 政府が機能していないから、正確には無許可で勝手に進めているんだけどね。

 ま、有志によるボランティアみたいなもんだよ」


「では厚生労働省だか何だかの施設で投薬された朝日奈ひなたは、そこを悪の組織だと思い込んでいると?」


「そうなんだ。人造抗体者の時も人造上位種の時も私が立ち会ってきちんと説明を受けていたし、ちゃんと了承してくれたんだけどね」


「あんな中二病の痴女は放っておけばいいんじゃないんですか?」


「それが出来たら楽なんだけどね。彼女は抗体者と上位種のハイブリッドで、自分自身を血の契約者としているんだ」


 つまり無力な抗体者を守る必要が無く、尚且つ食料である抗体者の血も自分の血で済む……


「メリットが有るようで、無いような存在じゃな」


「お前らは抗体者を匿ってれば良いだけだろ?

 ハイブリッドにしたって、血は週に一回で済むんだから、たかがウサギの獣人に固執する意味が分からないよ」


「貴重な上位種の確保と今後の研究の為かしら?」


 しかし、抗体者と上位種は共存関係だけど、自衛隊が抗体者を保護するのは言い換えれば人質みたいなもんだ。

 抗体者の身柄を担保にある程度の命令を聞かせられる。

 そう考えるとますます、ハイブリッドのメリットが無くなるけど?


「それは勿論理解しているよ。現在の研究は蘭堂君の様な『襲われない』『感染しない』抗体者が目的なんだ。

 朝日奈さんはゾンビウイルスを知る為の研究過程でハイブリッドになってしまっただけなんだよ」


「どちらにせよ、あの阿呆は既にここから離れておるぞ?

 まさか捜索に協力しろ等と言うつもりではあるまいな?」


「それもお願いしたい所だけど……無理だよね?」


 当たり前だ。エロい痴女だけなら協力もやぶさかでは無いが、話が通じない中二病重症患者とは関わりたくない。


 で? さっさと本命を話して欲しいんだけど?


「あ、ああ。実は三日前にある場所の重要な変電所が上位種とゾンビに占拠されたんだ。

 要求は一週間以内に百人の人間と自衛隊の戦闘糧食、後は酒と煙草を大量に。

 物資はともかく、テロリストに民間人を差し出すなんて出来る筈も無いし、襲撃するにしても有原君は戦えない」


 それで朝日奈ひなたか。


「うん。だけど期限内に彼女を捕まえて説得するのは現実的じゃ無いし、他の駐屯地の上位種達は忙しくて応援に来られないんだ」


 乱悟さんは暇そうに見えたけど?


 ていうか有原だって上位種として身体能力強化は出来るんじゃ無いのか?


「確かに出来るんだけど、元々が十歳の少年だからね。

 スライムの特性は身体能力に加算されないし、むしろ俊敏さに関してはマイナス補正が掛かってるようなんだ」


 哀れスライム、現実世界でも雑魚認定か。


「うるさい! 僕はヒールスライムなんだから、戦えなくて当然なんだ! お前が怪我しても絶対に直してやらないからな!」


 明日葉が頭を抱えている。どうやら秘密だったようだが、煽り耐性の低いスライムを憎むんだな!

 さて、明日葉さん? ヒールスライムって何かなー?


「し……仕方ない、話すよ。でも有原君の事は秘密だからね?」



 聞けば、その粘液は外傷を治癒する効果があるようで、骨折なんかも十日ほどで完治させる事が出来ると。

 命に関わる怪我は? 試してないの? まぁ、骨折が十日ならそれなりに使えるのかな?



「話を戻すよ? そんな時に現れたのが君達なんだ。万が一変電所が破壊されると、この辺り一帯は電気が使えなくなってしまう。

 だから頼む! 今回だけでも協力してくれないか!?」


 言って明日葉と他の自衛官が深く頭を下げる。そういう事情ならしょうが無いか? 皆はどう?


「ボクはご主人様に従うよ!」

「あたしも異論は無いわ」

「余の極大魔法で一発ドカンじゃ!」


 だからドカンはやめて。


「で、明日葉さん。報酬は?」


「う……わ、私達もあまり物資にゆとりが有る方じゃ無いんだけど、何が良いかな?」


 うーん……。これと言って欲しい物は……戦闘糧食……も良いんだけど……あ、牛か豚か鶏って飼ってる?


「豚と鶏がいるけど、まだ数が少ないんだ。今は勘弁してくれないかな?」


 豚と鶏の情報ゲット! 今後増える事を期待してるよ!


「そう言えば蘭堂君は女好きで有名らしいね。有志を募って若い女性達による歓待なんかは……ひぃっ!!」


 女性陣の圧……というか殺気が明日葉に向けられる。

 俺は何も言ってないぞ! 俺は関係無いぞ! 悪いのは明日葉だぞ!


「おい、お前。ご主人様が女好きって、誰からの情報だ?」


 エリー、一応相手は人間なんだから手加減をだな……


「な、習志野駐屯地の田楽寺乱悟だ! 彼によって君達の詳細な情報が、少なくとも防衛省と厚生労働省に流れている!

 個人で上位種五人も抱えているなんて普通はあり得ないんだよ。各地の自衛隊駐屯地だって、多くても三人。普通は一人なんだ。

 君達がいかに注目されているか、理解できたかい?」


 よくもまぁ、ペラペラと。これだからイケメンリア充は信用出来ない。


「あのトカゲ……次会ったら引っこ抜く……」


 何を引っこ抜くんだ?


「まぁ落ち着けエリー。英雄、色を好むと言うじゃろ。

 主殿の欲望は余達が満たしてやればそれで良い。余所の女を近づけさせなければ良いだけの話じゃ」


 明日葉の顔が引きつった。俺はロリコンじゃないからな!


「それで明日葉とか言ったかしら? 相手の種族は判明してるんでしょうね?」


「正確には判明していないんだけど、有翼種だと報告が上がってきているよ」


 有翼種ねぇ……。飛んで逃げられたら面倒だな。


「その時こそ余の魔法で撃ち落としてやれば良い!」


「それもそうか。ねぇ、明日葉二等陸尉? 相手の死体はどうすんの?」


「殺す事が前提なんだ……出来ればこちらに譲ってくれるとありがたいね。桜木親子の前例もあるし、人造抗体者のアテもある。

 戦力になる上位種は一人でも多い方が良いからね」


 じゃあ、報酬上乗せでよろしく。内容は後で考えるとして、書面で契約しよっか?


「手伝ってくれるのかい!? ありがとう。恩に着るよ!」


 はいはい。で、これからどうする? 今から襲いに行っても良いけど?


「いや、作戦の立て直しだね。申し訳無いんだけど、大宮駐屯地までご同行願えるかな?」


「あんまり時間が掛かるようなら一旦家に帰らせて貰うけど?」


 俺達なら力押しで制圧出来るが、変電所が破壊されてしまっては意味が無い。

 設備を破壊すること無く、テロリストを無力化するのが今回のミッションだ。


 『今回のミッション』か。うん、良いね!

 力押しでは無く、知略を以て相手をハメていく感じ? いやー、何だかやる気になってきたぞ!


「とにかく話し合おうよ。今日ぐらいは泊まっていって貰ってもいいかな?」


 エリーと若葉さんは不満そうだったが、桜花は駐屯地に興味津々なご様子。

 まぁ、引き受けたからにはしょうがない。母さんに連絡しないと……



 あきらさんが参加させて下さい! と、珍しく駄々をこねた。昨日のケルベロス戦でも俺とあえかの護衛で活躍出来なかったしなぁ……


 思いついた作戦ではこちらの三人で十分なんだけど……検討しますと返事をして放置。



 陸上自衛隊大宮駐屯地。


 埼玉県さいたま市、大宮駅の北西に位置するこの場所までに要した時間は一時間。時刻は午後三時を過ぎたところだ。

 有原が桜花にトラックへの同乗を誘っていたが、スルーされて俺を睨む。俺のせいにするんじゃ無い。


 元々が堅固な壁に囲まれた施設で、随所にテントや簡易炊事場などが見受けられる。


「避難民の方の為のテントですよ」


 高齢者は建物内で。若い連中はテントでキャンプがここの方針らしい。

 しかし、キャンプ連中には定期的にBBQを開催したりと、精神的なケアも怠っていないようだ。

 畑作りや畜産も早い段階から始められたようで、自給自足のサイクルが出来つつあるこの駐屯地を今、見学出来たのは一つの幸運だったのかも知れない。


 明日葉に紹介された女性自衛隊員に各所を案内されて、俺達は食堂に辿り着いた。

 佐官未満の自衛官や避難民とは別の、幹部自衛官専用の食堂だそうで、急な来客であるにも関わらず、俺達をもてなしてくれるようだ。


 白米に梅干し、根菜の味噌汁。

 小松菜とベーコンの卵とじと――小さな――チキンソテー。


「おお! 今日はご馳走だね! 鶏肉や玉子なんて何日ぶりかな?」


 小松菜は大宮駐屯地で初収穫されたものだそうだ。貴重な生鮮野菜と鶏肉、卵を振る舞ってくれるのは嬉しいが……なんか朝食みたいだな。


 女性陣も供された手前断る訳にもいかず、もそもそと食べ進める。いやいや、美味しいよ?

 味噌汁も小松菜の卵とじも出汁が効いてて美味しいよ?

 それでも母さんの料理と比べるとね……。刺身が恋しいよ。


 エリーがロングライフ牛乳が無い事にショックを受けた頃、そろそろ作戦を立てようかと会議室に連行された。疲れたからもう休みたいんですけど?



「話は聞いてるぞ、蘭堂君。我々の作戦への協力、感謝する」


 ここのトップの小林一等陸佐だそうだ。

 口ひげを生やしたナイスミドルだがエリー達に対する警戒は怠っていないようで、笑顔で出迎えてくれた割には目が笑っていない。ちょっと怖いよ?


「うん? ああ、スマンスマン。色々と仕事が立て込んでてな。疲れが溜まってんだよ」


 そーですか。大変ですね。それじゃあ、作戦会議、始めましょうか。


 狙うは上位種の首! 巻き込まれた鬱憤を全てテロリストにぶち込む!


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