四 停滞した日常。夏の窓辺。
ここで今更ではあるが、軽く自己紹介と家族(&オマケ)の紹介をしよう。
中盤からは本編が再開するので注意して欲しい。
まずは『俺』、蘭堂 朝春。十七歳、高校二年生帰宅部。外見も身長も成績も普通。友人は少ない。終末思想を持つ自称プレッパーだ。
母さん、蘭堂 巴。三十七歳。専業主婦。優しく家族想いで料理上手。知的な印象の美人でありスタイルも抜群だ!
……ねぇ、これでいいの? 母さん? ちょっと盛り過ぎ……ナンデモナイデス。
妹、蘭堂 あえか。十五歳。中学三年生。母さんに似て知的な印象のクールビューティー。スタイルは若干残念だが、これからの成長に期待か?
文武両道がモットーな彼女は薙刀・弓道・合気道、等々、広く浅く、――つまみ食いみたいなもんだな。――武を修めているのだとか。あえか、視線が厳しいぞー。
えー、大和撫子として恥じない所作も勉強中であり……。――うっそだぁー!
あえかの丁寧な口調からにじみ出るサドっ気は――待て、あえか。冷静に話し合おうじゃないか。な?
……コホン。俺の可愛い妹の紹介でした。
次。ねね。居候。終わり。
後頭部の殴打は危険だぞ、ねね。大体、お前の紹介は本編ですでに出尽くしているんだから……分かったよ。やるってば!
えー、宮湖橋ねね。俺と同じクラス。文化芸術部……だっけ? へー? 副部長なんだ? 周りからの印象は純朴な美少女? らしい。
俺の幼馴染み。っていうか腐れ縁かな。スタイルが顔ほど良くない辺りが純朴たる所以だろう。あ、待って。目覚まし時計を投げないで。
最後に蘭堂家の家長たる我が家の大黒柱。父親の蘭堂 夜彦。四十五歳。出張中。終わり。
以上、蘭堂家+居候の紹介でした。
ねぇ、父さんの紹介ってあれだけでよかったの? いいんですか。そうですか。
じゃあ、気を取り直して本編にそそくさとレッツゴー。
八月十日。午後。
「朝春はアレがゾンビだと思う?」
「ゾンビでも構わないと思う」
一週間が経ち、個人レベルでも多少の情報が得られた。
「なんだか意味深ですね。兄さんは逆に、ゾンビじゃ無くても構わないと?」
「判断材料が少なすぎるんだよ。現状で分かっている事と言えば……」
ゾンビ(仮)は伝染する。感染経路は嚙み傷から体液(唾液)の侵入で。感染から発症は一秒から数秒。
ゾンビ(仮)になると身体能力が飛躍的に向上する。多分足も速い。
ゾンビ(仮)……面倒くさいな。(仮)は外す。ゾンビでいいよ。もう。
ゾンビはゾンビを襲わない。
ゾンビは人間以外の生き物を襲わない。カラスのゾンビが襲ってきたら詰みだね。
「ああ、感染から発症まで数秒ってのは例外があるかも」
「え? なんで?」
「最初の日に交通事故を起こした、仮に田中さんとしよう。運転手が田中さん父。助手席に奥さん、後ろに息子さん」
うんうん。それで?
「事故後、車から出てきた三人はそれぞれ別の人物に噛み付いて全員が発症。つまり事故直後は車内の三人全員がゾンビだったわけだ」
「発症後に車の運転をした……わけじゃないわよね?」
「その可能性無いと思う。ゾンビに車の運転が出来ないとしたら?」
「えっと、父親が運転後に発症。原因は既にゾンビ化した奥さんか息子さんにかまれたから?」
「おしい、ねね。俺の仮説では……」
車に搭乗時は全員陰性。ドライブの始まりだ。発車してからの時間は分からないけど、うちの近くで車内の『誰か』が発症。ゾンビ化。電柱激突。父親が発症したのか、その他の二人が発症し父親を襲ったのか。
どちらにしても、ゾンビは人を襲う。という事実に基づけば……乗車前の三人は陰性。さっきも言った。ゾンビに噛まれて発症するまでは数秒だからだ。
乗車前にゾンビであるハズが無い。ゾンビに噛まれていないのだから発症するはずが無い。
推論としては――
田中(仮)家の誰かが既に感染した状態で車に乗る(まだゾンビ化していない)。ドライブ中に田中(仮)家の誰かがゾンビ化。電柱へGO。と、なってしまう。
だが発症まで数秒のルールに反する。個人差があるのか? あるいは……。
「あるいは。空気感染」
「そんなはずありません! だとしたら既に私達もゾンビですよ! あ……でも日本各地での同時多発発症に説明が付かない……?」
「可能性の一つとしてあり得る程度だよ。個体差か変異種か。情報が無いから推測しか出来ないけど、一応頭の片隅にでも入れといて」
あえかは頷き、「はい、兄さんは今まで通りのニー……いえ、情報収集をお願いします」
いちいちツっこまないからね!?
田中(仮)さんは眷属を増やしている最中だろうし、邪魔したくても出来ない。
……我が家の冷凍庫にはそれなりのアイスが備蓄されているが、もってあと数日だろう。ちなみに俺はアイスはあまり食べない。
「だからバニラこそ基本にて王道なんだよ? あえかちゃん?」
「基本である事は認めますが、他人に押し付けるのは良くありません。私はチョコミント至上主義者ですが。ちなみに兄さんも同じですよ」
「べ、別に朝春は関係ないでしょー」
「あんた達下らない喧嘩しないの。ちなみに母さんはチョコ一択だけどね」
残り僅かなアイスを巡り、それでも自分の好みの味を貫けるのか。数日後が楽しみだ。
我が家は八階建てマンションの五階。501号室の角部屋だ。共用部廊下の端なので、バリケードや鳴子等の細工は容易なんだけど……。材料がねぇよ! ちくしょう! ホームセンターって遠いよねー。
ま、無い物はしょうがない。俺の力不足か終末が早すぎたか。
世界が終わってホームセンターにもコンビニにも行けない自称プレッパー。確かにプレッパーは引き籠もりの連中だが、それは準備が整っている奴らだけだ。
俺はアクティブ派のプレッパーとして! ここに名乗りを上げる! プレッパーとしては矛盾しているがな! ガハハ。違いねぇ!
「トモー。晩ご飯カレーでいいー?」
はあーい。辛口プリーズ。
って、そうじゃねぇよ! 辛口が好きだけども! そんなだからゾンビパンデミックの皮を被った日常系ラブ(?)コメモドキなんて言われるんだよ!
だらだらと過ごして合間にゾンビ検証して全然話が進まないなんて言われるんだよ!
『ラブコメ』なんて米はいらねぇ。精米済みの米は有る。精米していない玄米も有る。知ってるか? 白米の消費期限は一ヶ月程だが、精米していない玄米の消費期限は約一年だ。小さいながら精米機も用意してある。つまり玄米が続く限り白メシが食い放題というわけだ! ヒャッハーー! 米だ! 米を食らいつくせ! 江戸患いがなんだー! 脚気なんてピーだー!
「「「うるさい!!!」」」
ひぃっ! ゴメンナサイ!
はぁはぁ……、分かってる。ゾンビパンデミックだろう? 任せておけ。おふざけは終わりだ。次回からはハードボイルド&ゾンビでお送りするゼ。




