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三十四 犬と上位種。結果に怯えて首を差し出せ。

 中学校の正門に集合する。スライド式の門はバリケードが設置されておらず、少しの力で動かす事が出来た。

 ゾンビに襲われたのは昨日だと聞いたが、むしろ昨日まで襲われなかったのかと感心する。周囲にもバリケードは見当たらない。

 この学校が避難施設として、四十日も機能していたという事実に戦慄する。……あり得ないだろ!? だが、ソレを成した地に居るのだ。かつての避難民達はどれ程の静音を求められていたのだろうか。


「トモ君、車はここに置いてくの~?」


「はい。想定外の事態が起こった場合に備えてです。そうそう、緊急事の撤退方法ですが、屋外の場合は祭さんが俺を。あきらさんがあえかを抱えて全速離脱。

 乱悟さんは敵対者がいた場合はこれを処理、又は無力化。臨機応変でお願いします。集合地はここで。危険だと判断した場合は車を置いてマンションまで戻って下さい。二人とも、人を抱えてマンションまで大丈夫?」


「大丈夫よ~」

「問題ありません」


「屋内の場合は、祭さんとあきらさんの各自が付近の壁かガラスを破壊して、脱出経路を確保してから先程と同様に。

 乱悟さんはしんがりをお願いします。祭さんは俺。あきらさんとあえかは離れないように。ここまでで何か質問は?」


 あきらさんを除いた三人が驚いたような表情で俺を見る。


「……お前、普通に仕切ってるけどいつもそうなのか?」


「ええ。緊急時に落ち着いて、適切な指示なんて出来ませんから。最初にマニュアル化しておけば良いかと思ったんですけど……駄目でしたか?」


「いやいや、普通に感心したんだって。さすが修羅場経験者は違うねー」


 危険な目に遭った記憶は無いけど?


「すごいわ! トモ君! さすが私の旦那様ね~!」


「誰が旦那ですか! でも本当に凄いです! 以前のニートだった兄さんからは想像も出来ません!」


 ニートじゃねぇよっ!


「ふふん。自分はデパ地下襲撃事件の際に彼の凄さを目の当たりにしましたからね。この程度の指示など朝春君には日常茶飯事ですよ」


 日常茶飯事では無いけど。つーか襲撃事件って何だ?


「デパ地下略奪事件の方が良かったですか?」


 内容的にはまだ略奪の方が近いけど……強いて言うなら窃盗じゃね?


「デパ地下窃盗事件……コソ泥みたいでイマイチ格好良くありませんね。略奪も強盗みたいですし……。やっぱり襲撃が格好良いかと」


 そうですか。好きにして下さい。


「……それで指示に対する質問は?」


 特に無いようだ。


「じゃあ、先頭を乱悟さん。お願いします」


「よし! 任せな! お前等全員俺が守ってやるからな!」


「単なる壁役よ。あんたは死んでも構わないけど、トモ君とあえかちゃんを危険な目にあわせたら私が刻むから。覚えておきなさい」


 壁役が事実なだけに、乱悟さんを宥めるのには苦労した。



 ようやく中学校敷地内に入る。左手にグラウンド。正面から奥に向けて校舎が建つ。体育館は校舎の右手奥。

 五十メートル程先に、二階にある職員・来客用の玄関に続く階段。少し先に行って一階の生徒用の昇降口だ。


 周囲にゾンビは見当たらない。


 あえかの啖呵に昨日は黙っていたが、俺も――ついでにねねも――この学校の卒業生なので本来あえかの案内は必要無いのだが……ま、今更言うまい。


「祭さん、抗体者の気配は分かりますか?」


「う~ん……ここからだとちょっと遠いから分からないわ。ゴメンね~?」


 大丈夫です。問題ありません。


「さて、あえか。生存者が居そうな場所に心当たりはあるか?」


「えっ!? え、えーと……家庭科室! ……は食材が駄目になってるだろうし……」


「俺なら保健室一択だな! 何故ならベッドがあるからだ!」


「爬虫類は黙ってなさい。あえかちゃんへの質問なのよ」


 相変わらずの暴言に乱悟さんがへこむ。意外とメンタル弱いのかな?


「言われてみれば確かにそうですね。私も保健室だと思います」


「家庭科室も保健室も可能性としては有りだけど、俺は最上階。四階中央から奥に向けての教室だと思う」


「え? 何でですか?」


「抗体者は昨日、地獄を見たはずだ。自分が襲われないと分かっていたとしても、少しでも安全な場所に居たいと……俺ならそう考える。

 保健室も家庭科室も二階だから襲われる心配もあるしな。あとは屋上か倉庫なんかをしらみつぶしに探すしか無いが、近づけば気配が分かるんでしょ?」


「もちろんよ~」

「当たり前だ」

「任せて下さい」

 三者三様の返事が返ってきた。


 校舎には二階入り口から入る事にした。軽く周囲を警戒しつつ、階段中程に差し掛かった所で突如として、前後から何かが襲いかかってきた!


 グルル!! ワンッ! ガルルッ!!


「ゾンビよ! 殺しなさい!」


 祭さんの声に我を取り戻す。しかし上位種達は落ち着いたもので、難なくその首を刎ねる。辺りに犬の死体が散乱する。うえぇ……


「おいおい、祭。犬如きでそう焦るんじゃねぇよ」


「黙りなさい、クソ田楽! トモ君、あえかちゃん。怪我は無い?」


 クソ田楽呼ばわりはさすがに同情する。ほらぁ、あなたのお兄さんいじけてますよ?


 あえかは銃を構えて固まっていた。俺は祭さん達に任せっきりなのでのほほんとしていたが、突発的なイレギュラーな事態に、しかも初心者のあえかが銃を構えるまで動けた事実に驚愕する。

 あえかのスペックが高いのか、それとも俺は妹の覚悟を見くびっていたのか。多分両方だろうな。


「大丈夫。……それにしても『犬』のゾンビか……ゾンビって人間以外は襲わない筈だったよね?」


 あきらさんに問う。


「はい。ですが『今までそうだった』だけで、『これからもそうだ』とは限りません」


「そうだな。ゾンビの生態調査も難航してるみたいだしな」


「出来れば一匹くらいは始末したかったです……」


 あえかが頼もし過ぎて逆にヤバい。テンションに任せて前に出過ぎ無ければ良いんだけど……


 見たくないけど犬の死体を見る。大型犬のシベリアンハスキーと中型の柴犬だ。犬に関しては素人だが、それ位は知っている。


「シベリアンハスキーと柴犬しかいません。ゾンビがこの二種に限定する理由が思いつきませんので、作為的な何か……上位種が絡んでいるのでは無いでしょうか?」


 あえか、俺の台詞を取らないで?


「単にこの二種がゾンビの好物だった可能性は?」


「あり得ません。私は登下校の際に柴犬はともかくシベリアンハスキーを見た事がありませんから」


「単に散歩の時間やコースがずれていた可能性は?」


「ここには五匹のハスキーがいますが、全てが登下校の時間やコースを外して散歩を?」


 五匹だったら無くは無いが。まぁ、登校時間はともかく下校時間はバラツキがあるし……


「敵意ある上位種の仕業で間違いないと思います」


 敵は……


「敵は上位種。犬を操る能力を持っています。予想出来るのはコボルト・犬・狼・狐系の獣人。ケルベロス、オルトロス、ヘルハウンドと言った所でしょうか」


 あえかの知識が頼もし過ぎて俺の立場が無いよ!?


「とにかく犬系の上位種なんでしょ? 大丈夫! 私は龍種だから! 犬なんて目じゃないわよ~!」


 祭さんはファンタジーに弱いらしい。


 ここで引き返すべきか考える。……相手が犬を使役出来る以上、逃げても無駄か。ならば宣戦布告を受諾する。現段階では架空の敵だが。



 二階玄関からお邪魔する。言うまでも無いが土足だ。

 三人に警戒して貰いつつ、校内の階段に辿り着いた。


「よぉ。ようやく来たか。待ちくたびれたぜぇ?」


 金髪――頭のてっぺんが黒くなっているが――長髪で二十歳そこそこの男。両耳のピアスがやたらと目立つ。ついでに鼻の穴や唇の端にもピアスだ。

 見ていて痛々しいな。唇のピアスは食事の邪魔にならないのかな? 階段に座った彼が俺達を迎える。


 あきらさん達の「上位種は居ません」って台詞は信用ならないようだ。コイツがさっきの犬をけしかけた本人だろ?


「よぉ。俺は自衛隊特殊作戦群所属、田楽寺乱悟だ。お前の名前を教えてくれねぇか?」


 え? あんた特戦群だったの?


「はぁ!? 自衛隊なんか知るか! バァーカ!! ギャハハ!! つか、お前トカゲだろ? トカゲが俺様に偉そうな口聞いてんじゃねえよっ!」


 即座に乱悟さんからかつて無い程の殺気が溢れる。今の彼は翼を出していないが、頭の角は見えていないないようだ。


「あっれぇー? 怒っちゃったぁ? ゴメーンちゃいっ!」


 こいつ殺していいですか?


「トモ君落ち着いて。きっとこっちを挑発する作戦なのよ」


「そっちのお前等も人間じゃねぇんだろ? さっさと変身したらどうだ? 殺しちゃうぜー? いや、色っぽいねーちゃん二人は命乞いすれば俺様の奴隷にしてやるよ。嬉しいだろー?」


 女性陣からも冷徹な殺気が……。煽り耐性低くない?


「おい、プリン頭の犬っころ」


 俺もお返しに煽ってみよう。


「ああ゛? クソガキ。今、何て言った?」


 殺気が向けられる。コイツも煽り耐性低いんじゃね?


「鼻の輪っかにリード付けて散歩に連れてってやるから落ち着け。カラメルプリンの野良犬わんこ」


「ガッ! ガキがぁぁ!! ぶっ殺す! 死ねやぁ!!」


 効果は絶大だ。突進してきたプリンに迎撃態勢をとる祭さんだったが、前衛の乱悟さんの放った上段蹴りがプリンの顔にクリーンヒット!

 吹っ飛ぶプリン。……普通の人間だったら即死なのでは?


 上り階段に激突したプリンは階段上部へバウンドし、二階踊り場へゴロゴロと転がり落ちる。あれ? 上位種にとっては大したダメージじゃ無いと思ったんだけど。


「トモ君、撤退は?」


「しない。追いかけてくる。乱悟さん、ここで始末して下さい」


 まだ少しだけ余裕があるので答える。


「ちっ! しゃあねーな!」


 上位種は喉から手が出るほど貴重な存在だが、だからこそ規律に従わない奴は危険極まりない。


 乱悟さんもそれを理解しているようで、トドメを刺すべくプリンに近づく。


「悪く思うなよ?」


 右手を龍化して、その爪を振るった彼が炎に包まれた。


「あきらさん! あえかを連れて逃げろ!」

「ダメですっ!!」


 俺の指示に反応したあきらさんがあえかの言葉に一瞬止まる。


「犬が追ってきます! 拠点がバレます!」


 あきらさんが不安そうに俺を見る。


「……撤回だ。ここであえかを守ってくれ」


 炎に包まれた乱悟さんが崩れ落ちると、プリンの姿が異形に変わっていたのが確認出来た。手足が獣のソレに変わっているのはいい。奴の頭にケモ耳が生えているのもヨシとしよう。

 だが、両肩に犬の頭が生えているのは何だ!? 三つ首でケルベロスか!? つーかケルベロスって炎吐くの?


「作品に依りますが、現代日本のケルベロスモドキはそうなんでしょう」


 そうなんだ。でもあえか。ちょっと煽りが足りないゾ。


「ぎゃははははー!! トカゲ如きが俺様に蹴り入れるから丸焼きになんだよ! ざまぁねぇなっ! ……ああ゛、お前等逃げてもいいけど俺様の犬共が拠点特定すっからな? ちゃんと潰してやるからよく考えて発言しろな?」


 ふと思いついて。どうせ結果は同じ筈なのであえかに発言権を譲る。


「カラメルプリンのケルベロスモドキ。あなたの名前を教えてくれないかしら?」


「あぁん!? 手前ぇがまず名乗れや!」


井上絵里(いのうええり)です。あなたのお名前は?」


 あえかが流れるように偽名を名乗る。


「ああ゛!? 誰が言うかバァーカ!! ……ふーん。……ガキをいたぶるのも面白そうだなぁ!」


「祭さ……」


 俺が言い終わらないタイミングで祭さんがプリンの腹を下から殴り宙に浮かせる。

 そこへあきらさんのドロップキックが炸裂してプリンは校舎奥へと吹き飛ばされた。


「クソ兄貴! いつまで寝てるのっ!」


「ざけんな! 隙を伺ってただけだっつーの!」


 全身のススをパラパラと払い落として乱悟さんが吠える。言って彼は龍の翼を出現させて、高速でプリンを仕留めに掛かる。


 再び火炎が巻き起こるが乱悟さんは怯むこと無くプリンを殴る。


 俺達四人は奥へと走るが、ケルベ……


「兄さん! ケルベロスとドラゴニュートが互角です! 祭さんに加勢して貰うべきです!」


 乱悟さんとプリンが殴り合っている。時々炎が溢れたり、ビタンッッ!! という、乱悟さんの太い尻尾が打ち付けられる音が響く。


 その指示はちょっと違う。……あえかの状況判断と指示能力は興味深いが、訂正して指示をだす。


「祭じゃない! あきらが行け! プリンを外に放り出せ! そのタイミングで祭がトドメを!」


「「了解!」」


 ゴチャゴチャと戯れている連中を押しのけて、あきらさんが突きと同時に炎で焼かれ、プリンは校舎外へと落ちる。双方のダメージは微々たるものだが、これで舞台が整った。


 アレが有るかは賭けだが、無くても状況が悪化する事は無い。……多分。




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