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三十一 裁判再び。土産に惑わされるな。

 九月九日。曇り。午後四時。


 第二回、裁判開催のお知らせ。


 裁判長・母さん。

 被告・俺。

 証人・エリー。

 検察・あえか・ねね・祭・あきら。


 以上。

 検察四人って何だよ!? 弁護人は!? 弁護人を要求する!!


「これより裁判を開催します。検察は罪状を読み上げて下さい」

 裁判長が(おごそ)かに告げる。

 俺は前回同様、正座だ。座布団を要求する!

 検察連中が揃って反対。被告人に人権は無いのか!?


「被告人の罪状は反抗出来ない、いたいけな少女に己の歪んだ性癖を強要した罪です」


 検察のあえかが見てきたかの様に述べる。異議有り!


「異議を却下します。弁護人は弁護をお願いします」


 ……は?


「弁護の必要が無い、と言う事ですね?」


 弁護人居ないんですけど!?


「では、証人に質問です。その首輪を『選んだ』のは誰?」


 祭さんがエリーに問うた。


「ご、ご主人様です……」


 確かにそうだけども!


「やっぱり! 物的証拠と証言が揃いました! 裁判長、これ以上の審議は不要だと思います!」


 ねねめ……後で覚えてろよ!


「裁判長! 今更ですが、自分は弁護人を希望します!」


 さすが俺の守護騎士! やっぱりあきらさんは俺の味方だったんだね!


「じゃあ、あきらちゃんは弁護人ね。弁護をお願いします」


 裁判長が楽しそうに言う……


「はい。皆さんご存じの通り、被告人はこのマンションにおける生存者達のリーダーです。ですが責任感の強い彼にはいささか荷が重かったのでしょう……

 そしてゾンビに襲われない抗体者と言えども、このサバイバルのような生活での緊張感も合わさり、彼の奥底に眠る特殊な……、その、性癖が発露してしまったのはやむを得ない事態だと、自分は認識しています」


 その特殊な性癖の扉は開く前にちゃんと閉じたよ!!


「証人は勿論、自分や祭さんが同じ事を要求されれば、……あの、う、受け入れる覚悟は出来ています!!」


 今俺が求めているのはそんな特殊な告白じゃ無いから!


「ですので弁護人は情状酌量と執行猶予を求めます!」


 違う! 俺は無実だ!


「被告人は静粛に。検察側はまだ何かありますか?」


「そうねぇ。私も絆の証しが欲しいわ~。あ、勿論首輪以外でね?」


 祭さん?


「そ、それなら自分はドッグタグを……」


 あきらさん、首輪で揉めてるのに『ドッグ』タグはイカンでしょ……


「そ、それなら私も!」

「あたしもー!」

「じゃあ母さんもー」


「……絆うんぬんの話は出てこなかったと思うんだけど?」


「ああ。祭ちゃんがエリーちゃんにテレパシーで事情聴取したんだって」


 したんだって。じゃねーよ!


「要するにこの裁判は茶番だった……?」


「茶番なんかじゃありません! 兄さんが私以外の女性にプレゼントを贈るなんて容認できません! 被告人に妹と一日イチャイチャの刑を求刑します!」


「いや! 幼馴染みと一日ラブラブデートの刑が妥当だと思います!」


 お前ら……


「はいはい。遊ぶのはこれくらいにしてそろそろご飯にしましょ。閉廷ー」


 裁判長が閉廷を宣言した。って、遊びって言っちゃってるし……


「遊びじゃありません!」

「デートを求刑する!」


 何でも、事情聴取をした祭さんに母さんが蘭堂家裁判制度の入れ知恵をして、それなら……と、この茶番が企画されたようだ。一部本気な人間もいたが、真面目なあきらさんと当事者のエリーは渋々と祭さんに従ったらしい。

 それにしてはあきらさんもノリノリだったような……?


「そ、そんな事はありません! でもドッグタグは欲しいです」


 はいはい。ミリタリーグッズ扱ってる

店って近くにあんのかな?


「私は何にしようかな~。指輪……は水かきが邪魔だし、ネックレス……も多分完全変化したら千切れちゃうわよねぇ。水龍って不便ね~」

 はいはい。主犯は黙ってて下さい。


「もー、トモ君ったらぁ。ちょっとからかっただけじゃない。男の子は女のお茶目を笑って許してあげないと駄目よ~?」


「……そ、そうなんですか?」


「そうそう。これもコミュニケーションの一環よ~」


 じゃあ、しょうが無い……のかな?


 あえかとねねがうるさかったが、じきに夕食なので黙って貰う。プレゼントは検討するから。



 夕食は根菜と鶏肉の炊き込みご飯。そして刺身だ。デパ地下産のサーモンを解凍してわさび醤油で頂く。ねっとりとした口触りにわさびの辛みが後を引く。サーモンの脂とわさびの辛み。炊き込みご飯の塩気が食欲を刺激し続ける。言うまでも無く美味いのだが、カロリー的にちょっと心配だ。特にあえかとねね。


 それをやんわりと伝えると、肉体労働の部署に配属してくれと懇願された。やる気があるなら俺は応えるよ!



 九月十日。曇り。午前。


 夜中にすこし雨が降ったようで、道路の所々に黒い染みが見てとれる。絶好のタイミングだ!

 水を吸って重量が増してしまうが、土埃が舞うこと無く作業出来るのは有り難い。波川さんと祭さんと共に、小学校裏の畑へと向かう。


 ゾンビ達の仕事はしっかりと成されたようで、道路付近に大きな土山が出来上がっていた。ゾンビは真面目に働く。働くのだが、それは脅迫というか、上からの圧力の結果なのでは無いかと……、ちょっとした小山を眺めつつ、彼等の待遇に少しの同情が湧き上がった。


 元を辿れば俺の指示なんだけどね!


 祭さんがスコップや手押し車を回収する中、俺はショベルカーで土を回収する。


 何度か往復して十五時前に土の運搬が終了した。ようやく一番キツイ作業が終わった! 波川さんと達成感を分かち、キリの良い所で全体の作業を終了する。

 門はまだ完成していない。畑も雑草を取り除いて肥料を撒き、畝を作る作業が残っている。

 しかし、今日を一つの区切りとして、約束していた鰻を配る事にした。


「皆さんの協力と努力で、取り敢えずの区切りが付きました! 約束していた鰻とパックの米を配ります!」


 大歓声が巻き起こる。外国産の鰻で釣れるのならば安いものだ。波川さんも苦笑しつつも喜んでいる。

 ちなみに蘭堂家にこの配給は無い。今夜はフカヒレの姿煮を食べる予定だからだ。

 個人的な感想だが、国産のふわふわとした鰻も美味いが、外国産の弾力のある鰻もそれはそれで、美味いと俺は思う。高校生の正直な感想だ。



 フカヒレの姿煮は……つまり食感が全てだと、全員の意見が一致した。ぷちぷちとした食感は心地良いが、ただそれだけだ。じゃあその価値は?

 乾物であるフカヒレを食用に加工する手間と、流通量の少なさが高級食材の所以(ゆえん)らしい。

 フカヒレ自体に味は無いので、煮汁の美味しさが姿煮の美味しさだ。……鰻ほどの感動は無い。


 大ぶりのフカヒレをラーメンの具として乗せてみた。食感という点では中々だ。ちなみに家族は「あんまり美味しくない」と。さもありなん。


 九月十一日。晴れ。


 未成年組に畑の雑草回収を任せて、残りの人員で門の完成を急ぐ。特に難しい作業があるわけでは無いが、全高三メートル程の門だ。木造とはいえ人手が少ないので作業が遅れている。

 遅れていたのだが。祭さんとエリーが加わって作業が加速した。上位種は木材の切断にノコギリは要らない。手刀で済むからだ。

 完成した巨大な扉を立ち上げるのに人手は要らない。片手で持ち上げられるからだ。上位種の彼女達に重機役を任せて作業しつつ、門の建築が進んでいく。


 重機と言えば、色街は元気だろうか。電話が繋がる。距離も近い。その気になれば今からでも会いに行けるのだが。

 かつての平和な世界と条件は同じ筈なのに、かつての世界よりも距離が遠く感じる。

 むさ苦しいオーガに会いたいなんて欠片も思わないけど。



 十五時を目前にして予定していた全ての作業が終了。あとは見張り台とか、バリケード作成とか、畑の畝を作るとか。色々とあるが、まずまずの区切りだ。鰻は昨日配ったので今日は何も無い。お疲れ様でしたー。


「蘭堂さん! あれは!?」


 花小金井さんが空を指す。その言葉で全員がその方向に視線を向けると、翼の生えた人間らしき物体がこちらに向かって飛んでいる。

 「クソ兄貴が……」との呟きが聞こえたがスルー。


「落ち着いて下さい。アレは知り合いの上位種です」


 ざわめく住人を落ち着かせる。


 彼は頭上で大きく旋回すると、やがてゆっくりと下降してきた。


「トモ君、撃ち落として良いかしら?」


 止めてあげて。

 そして彼は数メートル離れた地点に着地する。


「よう! 五日ぶりか? 中々面白そうなモン作ってんな!」


 田楽寺乱悟でんがくじらんご。祭さんの兄で大根おおねさんの弟だ。祭さんは兄二人を毛嫌いしているが、彼等の独善的で一方的な愛情が原因のようだ。……彼等はそれに気付いていないようだが。


「お久しぶり……って程でも無いですね。乱悟さん。今日は何でここに?」


 住人に彼を紹介してから尋ねる。


「兄貴からお前達が畑を作ってるって聞いてな。面白そうだから見学に来てやったんだ」


「なら用事は済んだでしょ。早く帰って仕事をしたらどうなの?」


「おいおい、祭~。そう言うなって!」


 このまま兄妹喧嘩に突入する様を見学していてもしょうが無いので、住人の皆さんに解散を促す。


「あの! あたし祭と同じ会社で同期の花小金井雅です! 田楽寺さんに色々聞きたい事があるんですけど!」


「おう! 祭の同期か。妹が世話になってるな!」


 立ち話も何なので、花小金井さんと共に家に招いた。祭さんの猛抗議は「土産にケーキを持ってきた」という彼の言葉を聞いた女性陣全員に却下される。

 彼女もケーキの前には為す術も無く、渋々兄の来訪を受け入れた。


 せっかくだから夕飯も食べていきなさい。という母さんの提案に花小金井さんは遠慮、乱悟さんは必要無いと断ったが、「今夜はイクラ丼よ」の一言で二人とも陥落。


「この間のデパ地下で高級食材根こそぎ掻っ払ってったみたいだな! 兄貴が愚痴ってたぞ?」


「え!? 何ソレ聞いてないんだけど!?」


 花小金井さんにバレた。


「市役所の連中に奪われる前に回収しただけです。食材は早い者勝ちでしょ?」


「えー! 蘭堂君達だけズルいー。あたし達にもお裾分けしてよー」


「今夜のイクラ丼で我慢して下さい。俺とあきらさん達で回収してきたんだから所有権は蘭堂家に有りますし、今後の作業を頑張ってくれたら少し融通しますよ」

 だから皆には内緒にしていて下さいね。

 花小金井さんの取り分が減りますから。と言うと、彼女は快諾してくれた。そのうち、評価がイマイチだったフカヒレでも渡すかな。


 ケーキは食後に食べることにして、……何でケーキがあるの? 自衛隊にはパティシエでも居るの?


「ケーキ屋で冷凍されてるのを見付けたんだ。解凍も終わってるから早めに食えよ?」


 専門店のケーキか。普段甘いものは食べないけど、今日は食べよう。ついでのお土産として自衛隊の戦闘糧食も頂いた。缶タイプとレトルトタイプの詰め合わせで、保存期間も長く、気に入ったら多めに融通してくれるとの事。乱悟さん、あんたいい人じゃん!


「いや、美味いのは美味いんだけどよ。周辺のスーパーとかに余ってる食材とかで纏めてメシ作ってっから需要がねーんだよ。

 俺達も自給自足に向けて動いてるし、全員で糧食食ったら大した日数保たねぇしな。だから俺が個人的に持ち出しても文句言われねぇって訳だ」


 なるほど。今度トラックで回収しに行こうかな?


「そんな大量にはタダじゃやれねぇよ!」


 そうですか。労働か何かを対価にしろと? 残念。



 花小金井さんと共に自衛隊や政府の動向、今後の見通しを乱悟さんに尋ねたが大した情報は無く、新たな抗体者も見付かっていないとの事。


「そうそう、この間の抗体者のガキだけどよ、お前の方法試してみたら無事覚醒したぜ! いやー、ガキの説得に大分手こずったけどよ、ありゃあグリフォンで間違いねぇな!」


 グリフォンか。ライオンの胴体にわしの頭と翼。尻尾が蛇の幻獣。飛べる上に、攻撃力も高そうだからそれなりの『格』なのだろう。


「色街より上、俺より下ってとこだな。格で言えばちょっと微妙だが協力的だし、何より飛べるのがデカい。」


 言ってドヤる。ちょっと飛べるくらいでいい気になるなよ。こっちは……


 夜にならないと本領発揮できず、建物侵入に便利な霧化・死体を灰にする処理機能を備えた女吸血鬼のカーミラ。


 俊敏な動きと嗅覚・聴覚に優れ、鉄をも切り裂く鋭い爪を持つ狼獣人のワーウルフ。


 能力は未知数だが、水辺で無敵の強さを誇る――ハズの――水龍のアクアドラゴン。


 あれ? 格はともかく、なんか微妙? いやいや、まだ明かされていない特殊能力が山のように有るはずだ。彼女達が気付いていないだけだ。きっとそうだ。だから話題を変えよう。


「そう言えば、ライフラインはいつまで保ちそうですか?」


「何とも言えねぇな。火力発電所なんかは燃料が尽きたらお仕舞いだし、原発もいつまで保つか……。俺は専門家じゃねぇしな」


 強引な話題変更を受け入れてくれた。やはりいい人なのでは?


「ここはオール家電だからガスの心配は無いけど……蘭堂君達はいずれ引っ越すんでしょ? ここに残るのは駄目なの?」


「駄目じゃ無いですけど、俺達家族は田舎でスローライフを送るって決めたんですよ」


 議論の余地無く、駄目に決まってる。だから移住するんだ。

 復興には最短でも数年掛かるだろう。畑が上手く機能すれば食料も何とかなる。だが、水が最大の問題だ。


 井戸を掘れば地下水が湧き出てくるかもしれない。雨水を溜めて蒸留すればいい。川から水を汲んでくればいい。


 冗談じゃ無い!


 敷地内で飲用に適した地下水が必ず有ったとしても、麦と野菜だけの食生活はご免だ。栄養が偏ってしまう。

 雨頼りなど論外。ここから川まで車で二十分。ガソリンって半年程度で腐るんだよ? 車が使えなくなったらどうするの?


 そろそろガソリン回収して劣化防止剤を添加しなければ。仕事が増える……。


 乱悟さんは知ってか知らずか、マンションに残る危険性を指摘しない。この場では有り難いことだ。


「そうそう、俺、今日は泊まらせて貰うから。宜しくな!」


 だからこれ位の暴言は許容しよう。


「駄目に決まってるでしょ!? 何考えてるの!?」


 当然、祭さんが吠える。


「まぁ、良いじゃねぇか。メシ食ってまったりした後に夜間飛行なんてしたくねぇしよ。外泊許可も貰ってあるから問題ねぇよ」


 喚く祭さんをなんとか宥めて、蘭堂家の夕食が始まる。



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[気になる点] 十八 覚醒の祝福。うえに従え。 で、奴らは5メートルを一瞬で跳躍する。と言ってます。 全高三メートル程の門では意味が無いのでは?
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