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二十九 農業への道。酒と鰻で重機を釣れ。

 九月八日。曇り。午前九時。


 今日から畑作りの開始だ。遅刻者、体調不良者は居ない。


「祭!! あんた無事だったの!?」


 七○七号室の花小金井雅はなこがねいみやびさん。


「あら、雅。久しぶり~」


 聞くと二人は同じ会社の同期らしい。それなりに仲が良かったようで、再会を喜んでいる。

 祭さんが既にアクアドラゴンとなった事を説明すると、「でも会えて良かったよ」と涙ながらに言った。


 他の住人にも祭さんを紹介する。白いワンピースに麦わら帽子を被った彼女に男性陣が見惚れるが、祭さん? 今日の作業内容聞いてた?


 あきらさんはいつもの革ジャン。エリーはハーフパンツにサマーセーター。この二人もそんな格好で大丈夫なのか?

 アンデッドの彼女達は汗をかかないから問題無いのかな?


 他の住人達は事前連絡に従ってジーンズやジャージといった格好だ。あえかとねねも学校指定のダサめなジャージ。母さんはカーゴパンツにタンクトップと、我が母ながら色っぽい格好だ。

 ちなみに俺はねねと同じデザイン、同じ色でペアルック。クラスメイトなんだからしょうが無いだろ! ねねも照れてるんじゃない!



 全員に軍手を配る。未成年は周囲の柵の補強。俺と成人組、上位種の三人は駐車場内の車を移動させる。

 それなりに広い駐車場なので、今回は半面を畑にする予定だ。空き部屋から回収できた車のキーがどの車の物か、管理人室のファイルで調べてあるので、住人所有の車と合わせて駐車場の端から詰めて移動。


 キーの無い車は上位種三人が素手で持ち上げて敷地外へと運ぶ。



 車が片付いた後、出入り口に門を作成する。バリケードにすると車で出入りが出来ないからだ。人力で動かせられる程度のバリケードでは突破される恐れもあるし、移動作業中危険を伴うので頑丈な門をねねが設計した。

 多少不安だったが、出来上がった図面は見やすく頑丈そうだ。

 門を二つ設置する事で開門中にゾンビが侵入してきても、内側の門が更なる侵入を防ぐ。ゾンビを処理して安全が確保出来たら、内側の門を開くという考えのようだ。


 図面には見張り台も描かれているが、材料が足りないので別の機会にする。


 俺達が出ていった後、マンションに残る連中が作業出来るように、畑にゾンビが進入出来ない造りにする必要がある。

 いずれは出入り口の全てをバリケードで覆う必要があるが、今日は門と畑だ。


 あきらさんとねね、男連中に門を任して俺と祭さん、エリーは畑予定地のアスファルトを引っぺがす。如何なる方法でそれを成すのか? 二人に尋ねると祭さんが「ちょっと離れててね」と。


 祭さんの右手がブレた後、アスファルトに一メートル四方の切れ込みが入った。まさかの手刀かよ。そしてエリーが中央部を足でトン。程々の大きさに砕けた。


 表層部のアスファルトを手押し車に積んで下層部の砕石を調べる。エリーがトンした部分は多少崩れているが、他はギチギチに固められて崩すのが大変そうだ。

 それもそうか。車の重さに耐えられなけりゃ意味ないもんな。再び崩して貰い、砕石の塊を取り除く。綺麗な四角い穴が出来上がった。深さは約三十センチか。

 ここに肥料をまいて耕せば畑が出来るかも知れない。いや、畑より先に池が出来るかな? 人力でちまちまやってたら完成は春頃になりそうだ。大分甘く見ていたな。

 ……だが、この事態を想定していなかったワケでは無い。『皆の力を合わせて、十日位で出来たら良いな』と、ナメていただけだ! 事前準備が面倒だったワケでは無いのだよ! ……ホントだよ! 


 取り敢えず必要なのはショベルカーとダンプカーだ。ショベルで砕石を一気に掘り出し、ダンプに積む。どっか適当な所に捨てて、近所の畑から土を拝借して掘った穴を埋める。

 野菜作りに適した土を他所から持ってくる事で、土作りの時間と手間を省略するのだ!


 うん。素人考えながら良さそうに思える。一応、使えそうなショベルとダンプの目星は付いているので、後は回収に行くだけだ。建設会社勤務だった波川さんに話を付ける。


「ショベルとダンプですか。一応運転は出来ますけど、これから回収に?」

 はい。そーです。


「ダンプはともかく、ショベルの運搬はどうするんですか?」


「トラックに積まれた状態のショベルがあります。両方とも鍵は刺さったままだったんで、いけると思うんですが」


 波川さんはしばし考える。


「畑作りは私達の為でもあるので協力は惜しみませんが……、特別報酬とかお願い出来たりします?」

 しっかりしてるな。


「具体的には?」


「酒を希望します。出来ればお高い奴で」


「分かりました。ついでに鰻も付けましょう」


「う、鰻!? 鰻くれるの!? やる! 何でもやるよ!」


 テンション爆上がりだ。三十枚入りの段ボールが五箱あったので、昨日食べた分を差っ引いても十分な在庫がある。多大な貢献をした者には鰻を下賜する! パックのご飯とタレもセットだ! オマケで山椒も。

 業務用冷凍庫なので、あと数ヶ月は保つ。だが、皆の意気軒昂に使えるなら多少放出しても良いだろう。


 波川さんの台詞を聞いて他の住人がざわめく。

 ――貢献度の基準は!?

 ――仕事! 仕事をちょうだい!

 ――公平に配るべきでは?

 ――お姉さんに興味ない?


 最後の台詞は雅さんだ。非常に興味が有るのだが、一部女性陣からの視線が痛いので涙を飲んで辞退する。


 人は欲深い。現在の状況に適応する能力は優れているが、過去に捨てた贅沢を決して忘れないからだ。

 望む物の為ならば、人は人を殺す。そうして生き残った俺達人類は、言ってみれば欲深い殺人者達の末裔だ。欲深さの血統を積み重ねて、今日も明日も明後日も。純血にして濃い血筋が受け継がれていくのだろう。……鰻を求めて。


 まあ、今は出産も文字通り命懸けだし、鰻に飢えた亡者はうちのマンションの連中だけだが。


 場を落ち着ける為に、外国産の鰻で良ければ後日配ると告げた。

 歓喜の雄叫びがあがる。お前等一昨日バーベキューしたよな? あれだけ肉食ってまだ足りないの!?


 ……肉と鰻は別腹だそうだ。俺だってそうだ。納得。



 我が家のミニバンで道路を走る。運転手は祭さん。同乗者は俺と波川さんだ。


 波川さんにはデパ地下の鰻を渡すと伝え、他の住人には内緒にしておくようにと言い含めた。バレても問題は無いが、彼の口の堅さを知る良い機会だろう。


 現場に到着。特に問題無いようなので、ダンプカーの……マニュアル車の運転について波川さんから教わった。クラッチとギア操作が面倒過ぎる!

 免許取得はマニュアルが一般的なようだが、彼等の何割が日常的にマニュアル車を運転するのだろうか?

 皆トラックや土木作業車の運転を視野に入れているのだろうか? 日本の免許事情に疑問を感じざるを得ない。


 エンストを繰り返しつつも何とか運転できるようになったので、積載されていた土砂をコンビニの駐車場の隅に『一時的に』置かせてもらった。一時的にだ。


 途中で数回エンストしたが、運転に慣れてきたところでマンションに辿り着く。ダンプカーは運転席が普通自動車よりも高い位置にあり、見通しが良くてちょっと楽しかったのは秘密だ。


 皆は午後の作業に入っていて、俺と波川さんは残ったおにぎりとカップラーメンで遅めの昼食をとる。

 おにぎりにはお弁当用のミニ焼きそばが具に採用されたようで、変わり種ながら中々に美味い。焼きそばパンがあるんだから焼きそばおにぎりがあってもいいよね? という、制作者の創意工夫を感じる一品だ。……冷凍食品を使ったアレンジメニューは想像以上に奥深い。


 カップラーメンはいつもの味だった。


 防護柵の強化を終えた女性陣達と協力しつつ、砕石を集める。切れ目は祭さんによって入れ終わっているので、ショベルが作業中に、別の場所で人力で砕石を一カ所に集める。

 頃合いをみて集まった砕石をショベルがダンプに積む。――これの繰り返しだ。門はまだまだ時間が掛かりそうだが、十五時で作業を終える。


 早い終業だが、当マンションでは夜間の照明はトイレ以外原則禁止だ。食事の支度やくつろぐ時間を考慮して、仕事は早めに切り上げる。

 当マンションはチートが三人も居るのでホワイト企業でいくのだ! 短時間で存分に働いて貰うぞ!


 波川さんには鰻とブランデーを渡した。めっちゃ喜んでた。



 九月九日。曇り。午前。

 材料補充の為に再びホームセンターへエリーと向かう。

 ショベル担当は茶畑さんが立候補したので任せる事に。彼女は独身時代に一時期土木関係で働いていたらしく、数年ぶりとは思えないショベル捌きだ。……言ってくれれば昨日も任せたのに。


 あきらさんは引き続き門担当。祭さんには細かい仕事と砕石投棄時のダンプ護衛をお願いした。波川さん一人で外に出すとゾンビに襲われちゃうからね。


 三日前に走った道を行く。迂回路も判明しているので短時間で到着できるだろう。


「ところでエリーは家族の安否とか気にならないの?」

 助手席の彼女に聞いてみる。


「気になるけど……。あんまり積極的に調べたいとは思わないかなぁ。家族の死を知りたく無いし、何処かに避難しててもボク、アンデッドになっちゃったから。

 あ、アンデッドがイヤだって訳じゃ無くて、心配掛けたく無いっていうか。

 ボクはご主人様から離れられないから一緒に暮らす事も出来ないしね」


「エリーと家族が望むんだったら、うちのマンションに引っ越してくればいいんじゃないか?」


「ううん、特別扱いは他の人が良く思わないと思うよ。確かに一緒に暮らせたらと思うけど、ボクの優先順位はご主人様で、その次がご主人様の家族だから。

 万が一の時はボクは自分の家族を見捨てなきゃいけないって考えると、やっぱり今のままが良いんじゃないかな。

 それに……」


「それに?」


「新しいお義母さんもできたし、ご主人様やお姉様達も優しくしてくれるから。今の生活、結構楽しんでるよ?」


「そうか」

 そこにあえかとねねの名前が挙がらなかったのはたまたまかな? それとも何らかの確執があるのかな? 普段は普通に仲良くしているように見えるが……女って怖い。


「じゃあ、自宅に荷物を取りに行くのは?」

 返答は想像できるが、一応確認する。


「ううん、行かないよ。」

 予想通りの答えだった。


 その後車内で他愛ない話をしつつ、目的地に到着した。



 俺はただぼんやりと、エリーを想う。




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