表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/102

二十五 遠征の思惑。計画の成否。

 九月六日。曇り。午前。


 避難関連のごたごたが終わり、スマホで情報収集しながら午前を過ごす。政府と各省庁のホームページは更新されていない。テレビとラジオも少し前から沈黙したままだ。とあるテレビ局の一社だけはドラマやアニメの再放送をしぶとく垂れ流しているが、有益な情報は無い。


 軽めの昼食を終えて、あきらさん、エリー、蘭堂家(+ねね)の五人を伴い集会所へ向かう。先に来ていた数人と挨拶を交わし、当然のように俺は上座に座る。やや遅れて残りの出席者が到着した。


 今日の会議は住人全員が出席だ。三○六号室の姉妹も無事回復したようで、看護していた三○四号室の夫婦と共に来てくれた。


「第二回、会議を開催します」


 俺が厳かに宣言するとぱちぱちと、控えめな拍手が送られた。前回にちょっと脅したのが効いているのかな?


「始めに、現在の状況を共有したいと思います」


 市役所の状況、抗体者や上位種の存在、色街さんから得た防衛省の情報等、全てをぶちまけた。……皆の驚く顔がちょっと面白かったです。まる。


「じゃ、じゃ、じゃあ! そこの二人はゾンビっていうか、上位種だっての!?」


 三十代と思しき奥様が発言する。……この人前回も発言してなかったかな?


「そうです。証拠に……」


 ナイフで切って超回復! は、女性に配慮して霧化と獣化。ついでに金属バットをねじるパフォーマンスで納得してもらった。


 流石に抗体者がゾンビに襲われないという実演は面倒なので取り止めたが、俺の腕に牙を立てて血を吸う彼女達を見ると蘭堂家以外はドン引きしつつ、納得してくれたようだ。何故引く?


 情報の共有が終わったところで次の議題に移る。ちなみに書記はあえかだ。


「この人数で残りの食料は半年程度。上手く節約すれば一年弱は保つと思います。半年から一年は食料が保証されている今、貴方達が何をすべきか。提案して下さい」


「ご主人様、それじゃ言葉が足りないと思うよ……」


 あれ? そう? 住人達もこくこくと頷いているのでそうなのだろう。


「噛み砕いて言うとですね。しばらく備蓄の食料で賄えますので、その間に自給自足出来る態勢を整えて下さい、と。そういう事です」


 住人達の表情が陰る。


「そっ! それは覚悟してたけどっ! アンタあたし達に丸投げするつもりだったの!?」


 当たり前だ。正確には俺達が移住先で自給自足をするにあたっての予行練習に付き合えという訳だ。頭脳労働は蘭堂家。肉体労働は住人。報酬は野菜。少人数での効率的な農業を試行錯誤しよう!


 そして先程の奥様だ。名簿によると六○八号室の茶畑ちゃばたけはまちさん。

 俺は突っ込まないぞ! 名字も名前も個性的で素晴らしいと思います!

 ついでに見た目も明るい茶髪のポニーテールでヤンママというかギャルっぽいというか……うん。個性的だと思います!


「そうではなくて、茶畑さん。ベランダで家庭菜園しつつ、駐車場のアスファルト引っぺがして農業しましょう。って言ってるんですよ。そんなに興奮しないで、落ち着いて下さい」


「落ち着いていられるかぁー! アンタもうちょっと丁寧に説明して欲しいんだけど!?」


 あきらさんをチラリと見る。残念そうに頷く彼女が見えた。


「そもそも今から畑を準備して、野菜が収穫できるんですか?」


 書記の筈のあえかが答える。


「畑の土壌が出来上がっている事が前提ですが、大根白菜ほうれん草、ブロッコリーキャベツにタマネギ等。時期的に急がなければいけませんが、上手くいけば十二月から一月には収穫できます。

 ただ、土壌改良と皆さんが作業に不慣れな点を鑑みると……冬に植えるタマネギジャガ芋、人参、カブ辺りに焦点をあてる方が良いのではないですか?」


 あえかの言葉に全員がお、おう……と引いた。俺の言葉に従って農業について調べてくれた妹に、その態度は如何なモノかと思うよ! 俺ぁ!


「畑を作る際、アスファルトを剥がすのはこちらで受け持ちます。皆さんには防護柵の設置と畑の世話の全てですね」


 ホントにそれだけか? と住人の視線が若干疑わしい目付きになってきた。


「収穫できた野菜の配分はどうするんですか?」


 そもそも作業量に対して配分を分けるべきでしょうが、いちいち記録する事は不可能です!

 じゃあ雑草一本むしったら作業をしたと言うのですか!?

 いやいや、やはり皆に等分に分けるべきだと思うよ?

 働かざる者は食うべからずです!

 我々は十五人しか居ないんだ! 収穫した野菜を食い切れないぞ!?


「野菜は大量に作って保存食……漬物とか乾燥させたりとか。加工した方が良いですよ? 不作の時期に食べ物が無くなりますよ?

 それと主食用に麦も育てた方が良いですね。麦は……「種蒔きは十一月です。」だそうです」


「米は……やっぱり無理かな?」


「近くに水田が有りませんから、無理ですね」


 等々、植える作物の種類や農業の基礎知識、今後のスケジュールを大まかに纏める。


 マンションに残れば仕事は無いという前回の会議で言った言葉は忘れ去られていたようだ。良かった良かった。


「そう言えばこの間の会議でアンタが言ってた仕事は無いって……」

「備蓄の保存食『だけ』で満足なら働かなくても良いですよ?」


 皆さんに文句は無いようだ。



 昼に近づいたところで全員で駐車場へと移動する。本日は親睦会を兼ねてバーベキュー大会を執り行う! 在庫の肉も大放出だ!


 皆から盛大な拍手が巻き起こる。会議の時のショボい拍手とはテンションが大違いだ。……そんなに肉に飢えていたのか? ちなみに酒はありません!


 一部からブーイングが。駄目です。この後全員で物資調達に行くんだからな!


 わざわざ全員で行動する意味など無い。無いどころか危険が増すだけだ。では何故? 外の状況を把握させるためと、俺の指示を守って団体行動がとれるかを見極めるテストだ。

 これに俺の家族を連れて行く意味は全く無いが、特別扱いが過ぎるのも他から不満が挙がるのでやむを得ない。俺の安全を第一に。次点で家族。他の住人はついでだ。家族とあきらさん達には十分に説明して了承も得てある。


 俺の思惑など知らない住人達は一ヶ月ぶりの開放感と共に肉を食べる食べる! 生鮮野菜が無いので、冷凍野菜を使った味噌汁も用意した。好評なようで何よりだ。



 今回はマイクロバスと近所で見付けてきた二トントラックで向かう。バスの運転は俺。トラックは四○五号室の四十代男性、波川良夫なみかわよしおさんが担当。建設会社勤務らしく、重機の扱いも多少の心得があるらしい。彼の今後の活躍に期待が募る。


 最初の目的地をホームセンターに設定する。距離にして約四キロ。平時なら三十分もしないが、下見をしていないので迂回しなければならない箇所があるかも知れない。


 あきらさんとエリーは車の左右で周囲の警戒をしつつ併走している。二人は平均時速三十キロの車の横を涼しい顔して走っているのだ。これには俺を含めた全員が驚かされた。運転席の隣で走るあきらさんに声を掛ける。


「あきらさん、無理してない? 疲れたら何時でも乗って良いんだよ?」


「問題ありません。むしろもう少しスピードを上げても良いのでは?」


 それもそうだが事故が怖い。今は救急搬送なんて気の利いたサービスは存在しないからだ。

 当初、無免許の俺が運転する事を住人達は渋っていたが、マイクロバスの運転経験者などおらず、数回とは言え放置自動車溢れる道路を運転してきた実績で皆を納得させたのだ。


 途中で一度迂回したが、大きな問題も無く一時間程でホームセンターに到着した。

 ゾンビの皆さんには既にご退場して貰っているので、警戒すべきは生き残りの人間だ。あきらさんに調べてもらい、その心配も無用だったので未だ明るい店内に侵入する。


 女性陣には野菜の種や作業道具などの軽量な物。男性陣とあきらさん、エリーは肥料やフェンス、木材などの重量物を手分けしてトラック後部へと運ぶ。台車やカートを駆使してある程度溜まったら、数人に積み込み作業を頼む。日常品と、女性からの嘆願を受けて化粧品も回収品目に追加しておいたが、予定時刻には作業が終わった。


「蘭堂君、ホームセンター所有の軽トラの鍵があったよ。持ってく?」


 三○四号室の夫婦。夫の早稲田大吉わせだだいきちさんが問う。特に必要無いのだが……、軽トラは便利なのでついでに持って帰るか。


「お願いします。運転は早稲田さんでいいですか?」


「ああ。妻も同乗させていいかな?」


 向日葵ひまわりさんか。優しそうな、感じの良い女性だ。この男には勿体ないような気もするが、顔には出さない。


「はい。大丈夫ですよ。連絡はそちらでお願いします」


「蘭堂君! 蘭堂君!」

 今度は波川さんだ。


「向こうにフェラーリがあるよ! 持って帰っちゃ駄目かなぁ?」


「駄目に決まってるでしょ。あんなうるさくて荷物も積めない車、何が良いんですか?」


 居合わせた早稲田さんも「おお、あれか」と物欲しそうな目で見ているが不許可です。


「後日二人で回収しに来るつもりがあるなら、鍵の有無くらいは確認しましょうか?」


「あきらさんとエリーさんの支援は……?」


 あるはずも無く、しょんぼりする二人だった。



 ホームセンターを後にした俺達はマンション近くのスーパーへ向かう。ここで食料を回収したら今日の予定は終了だ。


 先程と同じくスーパー入り口付近にトラックと軽トラを停め、総動員で食料を回収する。

 冷凍庫の肉や魚は保存場所が各家庭の小さな冷凍庫しか無いので、適当な量に留めておく。どうせゾンビが警備員をやってくれるのだ。他の生存者に奪われる可能性は低いだろう。


 今日の労働に対する報酬――と言うかお土産として、一人レジ袋一つ分、自分の好きな物を自分の所有物として回収する許可を与えている。それ以外の酒も、化粧品も、とにかく全ては一旦回収してから分配する制度にしたからだ。

 ポケットに隠し持つくらいは見逃すが、うちは財産の共有・平等を理念とした共産主義を目指すのだ。――ただし蘭堂家は除く。労働は体力や年齢、能力にバラつきがあるので嗜好品の配給で差を付ける。


 少人数だからこそ『みんな平等!』が成り立つのだ! HAHAHA!


 今回の『お土産制度』は蘭堂家も例外では無いので――もっとも彼女たちは俺が調達に行く度にあれこれ要求していたが――あっちをウロウロこっちをフラフラと、持って帰る品を吟味しているようだ。


「朝春君、市役所の連中が昼前に、駅のデパートに向かったようです。落ち着いて報告できる時間が無かったのでこんな時間になってしまい、申し訳ありません」


 缶コーヒーを飲んで休んでいると、あきらさんから報告が。

 早速動いたか!


「それは問題ないよ。で、連中はまだ居座ってるの?」


「そのようです。建物内のゾンビは離れた場所にいるので様子を伺う事は出来ませんが、もしかしたら泊まりで探索するつもりかも知れません。」


 本来なら今日にでも駅直結のデパートの、地下食料品店フロアの探索をすべきだった。しかし、ゾンビはともかく生存者が立て籠もっている可能性が高い場所に踏み込むのは面倒だし危険なので、色街というオーガを手に入れた市役所連中が露払いをしてくれるのを待っていたのだ。

 連中がデパートに向かう時はゾンビを遠ざけるので命令の上位権を持つあきらさんにはそれが判る。――エリーもだが。――連中が帰ればゾンビも元の場所に戻るのでそれも……。といった具合だ。


 冷凍食品の多数を持って行かれるのは気に入らないが、こちらは少人数なので問題ない。おこぼれをかっ攫おうという計画だ。


 デパート周辺にグール又はグーラーが居ないのは確認済みなので上位種が生まれる事も無いだろう。万が一生まれたとしても、美少女なら俺が。それ以外は坂本に押し付ければ田楽寺も大喜びするだろうしな! ハハハ!


「ご主人様、悪い顔してるよ」


「んー? エリーは悪い顔は嫌いか?」


「あんまり好きじゃないかな。でもご主人様の作戦は本当に凄いと思う! ボクだったら真っ先にデパ地下に行ってたよ!」


「自分も感服しています。ともすれば悪知恵……こほん。双方に利益があり、こちらの負担は最小限に。素晴らしい作戦です」


「それはどうも。あ、連中が帰ってもデパートにゾンビを近づけさせないでね?」


「? 構いませんが、直後にこちらも動くんですか?」


「時間にもよるけど、田楽寺……いや、祭さんを連れて行く。上手くいけば新鮮な死体が処理し放題だ。いい加減覚醒するだろ」


「そこまで考えていたとは。さすが朝春君です!」

「凄いよ! ご主人様!」


 ふはは! もっと褒めたまえ!



 予定時刻になったので撤収する。何人かは遅れて来るかと思ったが、以外にも五分前に全員が集合した。初回の緊張感もあるだろうが、ケンカも無かったし団体行動を守るという点では皆合格だ。


 試す気満々だったのに余裕でクリアされてちょっと悔しいが。まぁ、問題児が居ないと考えれば集団として上出来だ。



 マンションに到着。皆さんお疲れ様でしたー。……とはならず。回収した物資を倉庫に運ぶ作業が残っている。ゾンビ達に任せても良いが、甘やかしてはいけないだろう。俺も身体を動かして命令するだけじゃ無いからっ! とアピール。現場と共に働いてこそのリーダーだ。――と、『上に立つ者』という本で学びました!

 食料は二階に。農業関連の色々は一階の空室に放り込んで、あとは食料を配って終わりかな。といった段階であきらさんが告げる。


「連中が帰りました」


 このタイミングかよ。回収した物資の整理とリストアップと……無理だな。


「急な用事が入ったので今日は保存食の配給だけにします!」


 皆がざわめく。


「レジ袋の分は持って帰って結構!」


 皆が安堵した。


 数日分の食料が入った段ボールであるが、重さはそれほどでも無い。上階から優先して配給する。その作業を家族に任せ、明日の予定はキャンセルして家から出ないように伝え、俺は集会所で携帯食を腹に詰め込み、準備を進める。


 今夜は徹夜かな? 車中泊かな? あ、駅近くのビジネスホテルで一泊も良いかも。二人も一緒にどう?


 左右のほっぺたをビンタされた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ