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十一 裁判の開廷。ヒエラルキーの壁を砕け。

 八月二十五日深夜。

 そろそろ日付が変わる。眠いよ。パ○ラッシュ……。


 コンビニからの戦利品の仕分けが終了し、お疲れ様でした! 今日はもう寝るかー! ――なんて言い分が通るハズも無く。裁判開催決定のお知らせ。


「トモ、詳しく説明して貰えるかしら?」


 笑顔でそう仰る母さんの目は笑っていない。

 裁判長・母さん。

 被告・俺。

 陪審員・ねね。

 検察・あえか。

 弁護人・三郷さん。


 証人喚問を要求する! 絵璃鈴ちゃんをここに!


「川井は喋れませんよ?」

 そうだった!! ガッデム!


「そもそも、喋れたとして川井が君に有利な証言をするとはとても……」


 法廷の気温は先程から下降中。クーラーの設定温度、ちょっと上げてよ。


 何で俺が被告人!? これが噂に聞く家庭裁判所か!


 本日の審議内容。

 リュックの中身について。……有罪確定らしい。

 食料と共に女性も調達した件。要審議。検察の目つきが恐い。

 道中の出来事の全て。



 リビングの食卓の椅子に、四人が座っている。俺はちょっと離れた場所で正座を強要された。座布団を要求する!

 要求は可決。被告人の心証はまだ、安全圏にある。


「詳しい説明をしてくれるかしら?」


 裁判長に応える。失禁とセクハラの件は秘匿する。頼むよ、弁護人!


「……つまり『抗体者』の兄さんはゾンビに襲われない。三郷さんは一見普通の人間だけど吸血鬼……ええと、『カーミラ』だと。随分とファンタジーな設定ですね?」


 本来、吸血鬼ヴァンパイアに対して女吸血鬼はヴァンピレスらしいのだが、何故かカーミラだそうだ。


 検察が証言を吟味。


「それで、三郷さんが我が家にやって来た理由は食料として兄さんの血液を得るため。ついでに私達の安全を保証してくれるのですね?」


「自分は朝春君の安全にしか興味はありませんが、貴方々が朝春君の心の拠り所である限り、安全を保証します」

 室温が下がる。


 弁護人はうちの家族(+ねね)に、あまり興味が無いようだ。


「三郷さん。トモが抗体者だというのは匂いで判ったと言ってたわよね? ――じゃあ、アタシ達はどうかしら?」


「すみません。何も匂いません」


 三人は複雑な表情だ。女性の会話で匂う匂わないなんて、歓迎される表現ではないな。

 ――ちなみに俺のコンビニ店員姿を見たあえかは「アルバイトに採用されたんですか? これでニート卒業ですね。おめでとうございます。……ついでに彼女も出来たようですシネ」


 冷たい眼差しとセットで祝われた。最後のカタカナは漢字に変換してはいけない。平仮名でお願いします。


「抗体は遺伝しない。ようです。抗体者のサンプルが少なすぎるので、上は苦労しているようですが」


「ちょっと待って! 抗体者って朝春以外にもいるの!?」

 陪審員が口を挟む。俺もそれは聞きたい。あと、上ってなんだ?


「自分が知っている限りでは二人います。彼等の状況は知らされていません」


 少なくとも二人。ゾンビを気にせず散歩できるのか。


「その二人の居場所は?」


「すみません。学生の自分には……」

 ですよね。


「ただ、この付近に居ない事は確かです。自分にはゾンビからの情報が入ってきますので、間違い無いかと」


「ゾンビからの情報って……?」


「なんて表現したらいいでしょうか。ゾンビは近くのゾンビに情報を送れるんです。念話というかテレパシーというか。それがリレーされて纏められて、最終的に自分に届くんです」


 伝言ゲームかよ。


 通信機器を伴わない情報伝達。益々ファンタジーじみてきたな。――そろそろ足が痺れて辛いんだけど。目線を送る。


 裁判長。可決。

 陪審員。気付かず。

 検察。スルー。

 弁護士。気付かねぇ!


 気付かない二人はスルーと見なします。


 可決一。スルー三。正座続行。


「検察から弁護人に質問します。兄さんがコンビニの制服を着ている理由は何ですか?」


 待って! 弁護人に黙秘を要求します!


「要求を否決します。母さんも知りたいわぁ」


 三郷さんはこちらを一瞥し、言った。


「被告人の着衣は雨で濡れていたので風邪を引く可能性がありました。替わりの衣服が店員の制服しかなかったので、やむを得ない処置だと自覚しています」


 あんたは正しく弁護人だ! 少年の黒歴史を守護する女騎士だ! 尊敬する人は誰ですか? 三郷あきらさんです!


「朝春のズボンとトランクスからアレな匂いがしたんだけど? 弁護人はどう考えてるの?」


 陪審員からの死刑宣告。オワタ。


「彼の矜持に関わる問題です。その件に関して、自分は何も知らないし、何も証言しません」


 三郷さーーん!! やっぱりあなたは俺の守護騎士だ! 最高だよ!


「じゃあ、最後に母さんから。川井さんがトモに有利な証言をしない理由はなーに?」


 裁判長からの死刑宣告。今度こそオワタ。いや、俺には守護騎士が付いているんだ! 頑張れ弁護人! 頑張れ三郷さん!


「あ、いえ、その……。つまり、思春期のアレが、自分にはよく分からないのですが……」


 守護騎士ーーー!!!


「被告人は思春期真っ只中の性欲の権化です! 兄さんの性犯罪に対する罰は妹である私が責任を持って執行します! 執行猶予なんて許可しません!」


「あえか、落ち着きなさい……。あなた最近、ブラコンが酷いわよ?」


「母さん! ブラコンは文化です!」


「朝春……。苦労してるんだね……」

「朝春君……。なんか色々、ゴメン」


 二人に同情された。惨めな俺の性欲はドコに向けて進めばいいのだろうか?


 食料その他を調達してきた俺に対する労いの言葉はまだか? 女三人寄れば姦しい。俺はただチヤホヤされたいだけなんだ。


 新しい家族を迎えて更ける夜。痺れた足に悶絶し、俺は寝床でその目を閉じる。




 追伸。エロ本は検察によって封印された。酒は母さんと三郷さんに没収された。俺の苦労は一体……?



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