九十三 押し付ける。押し付けるお前は何を知る?
「蘭堂君! 山猫党の党首姉弟は我々の手に余る! 後生だから協力してくれないか!?」
自衛隊の言い分としては、犬飼姉弟の能力はどうやら俺の近くでは使えないようだという事。
二人とも『王階級』であり、能力は洗脳と空間転移、常識の範囲では拘束手段が無い。
だからせめて、二人の能力を無効化? 出来る俺に側に居て欲しいと。
知らんがな。テロリストが怖いなら、この場で殺したら良いんじゃないの?
「いや……他の仲間の情報を吐かせたり、能力を検査したりと……色々と用があるんだ」
「素直に人体実験がしたいからと、その様に仰れば良いのでは?」
「最上さん。やっぱり、この二人は……人体実験に……?」
「ええ。宮湖橋夫妻も対象ですが、あくまでも人道的な精密検査の域を出ないでしょう。ですが犬飼姉弟はテロリスト。上位種の不死性から鑑みるに、非人道的な実験が繰り返されるのは容易に想像出来ますね」
俺はスローライフを送る為に必要な鶏を受け取りに、ここまでやって来た筈だった。しかし、気が付けばバトル一直線の今日この頃。
どこぞのマンガ雑誌のテコ入れじゃねぇんだから、好きにやらしてくれと、存在しない架空の編集者に愚痴をこぼす。
「そうだ、小林一佐。変電所での借りってまだ有効ですか?」
先週のさいたま第一変電所における功績を認められた際、自衛隊大宮駐屯地から正式な感謝と報酬が与えられる事となったが、特に必要な物が無かったのでトラック一台でお茶を濁した。
今後、何かあった際に力になってくれればそれで十分ですから……と、一言添えて。
「犬飼姉弟はこちらで引き取ります。俺の側であれば催眠も転移も出来ないという仮説に従うなら問題無いでしょう?」
「確かにその通りだが……」
「犬飼姉弟が暴れたとしてもこちらには上位種が五人居ます。『王階級』は桜花だけですが、大宮駐屯地で暴れられて一般人に被害が出るよりはマシだと考えます」
「……」
「そして、自衛隊からは窓口となってくれる人物の派遣を要請しま」
「私が同行します! 私、十島百華が全責任を持って同行します! 何でしたら手土産に一○式戦車を有るだけ全部持ってきますから!」
小林一佐と最上三等陸尉に後頭部を殴られて、涙目の彼女が更に言う。
「で、でしたらありったけの銃火器を……」
「と・し・ま・も・も・か・さん? あなたは自衛官として、淑女として、もっと慎みを覚えるべきだと、いつも言っていますよね?」
最上さんの腕が十島さんの首にハマり、徐々に顔を青ざめていく十島さんが、最上さんの腕をぺしぺしと叩く。ギブアップの合図のようだ。
「……えっと、十島さんを窓口にして連絡を密に出来れば良いかと」
「あ、ああ。蘭堂君達で犬飼姉弟を拘束してくれればこちらの負担は減るんだが……」
「自分は反対です」
まぁ、あきらさんの立場だったら反対するしか無いか。
「彼等の面倒をみる事は自分達にとって負担であり、危険でもあります。一般人である自分達への定期的な手当を要求します」
そうきたか。俺としてはこんなご時世だし、無償でも良かったんだが……あきらさん的にはボランティアは認められないようだ。さすがあきらさん、しっかりしている。
「定期的な手当……具体的には?」
小林一佐の視線が俺に向けられたが……今、俺達が欲しいのは生野菜であって、それは大宮駐屯地でも栽培されているが、数が少ない。
貴重な生野菜を要求するのは気が引けるので、じゃあその他に彼等に要求したい物は何かと言うと……無い。
そもそも、先週のさいたま第一変電所の件でも同じ問題で悩んだ。
犬飼姉弟の件でそれが解消出来たと思った矢先に、同じ問題が浮上してしまったのは嫌がらせかと思いたかった。しかし、提案したのがあきらさんじゃあ、文句も言えない。
どうするかな……また、貸しにするか……?
あ……
「大宮駐屯地では豚を飼育しているんでしたよね?」
「あ、ああ。まだ十分な数は確保出来ていないが」
「数が確保出来てからで構いませんから、豚肉を要求します。それと牛の確保と畜産もお願いします。勿論、乳牛と食肉用に。まゆおばさんと健治さんがそちらに加わるんですから、問題無いですよね?」
「いや、その……」
「蘭堂君、宮湖橋夫妻はしばらくの間、精密検査を受けてもらわないといけないのよ。どうせ大した結果は得られないんでしょうから、無駄な検査はやめた方が良いと思うんだけど、一応、新しい発見があるかも知れないからしょうがないわね。で、そういう事情があるから君の要望に応えるのは時間が掛かってしまうの。お役所仕事で本当に申し訳ないけど、老害達を皆殺しにするまでは我慢してね?」
最上さんの台詞を真剣に聞いていた俺は、彼女の最後の台詞で、それまでの内容が吹き飛んでしまった。
「え、え~と、つまり、一言で言うと?」
「ジジイ共がうるさいからしばらく待って下さい」
はい、分かりました。
最上さんの毒舌は留まる事を知らない。彼女が何故、自衛隊という組織の中で、その毒舌を認知されながら三等陸尉という階級を維持出来ているのが不思議でしょうがない。普通は上司に嫌みを言えば、昇進に響くんじゃないのか?
「ふふふ……」
俺の疑問に、最上さんの意味ありげな笑みを返された。……色々と事情が有るんだろう。大人の世界って怖いな。
「……次に、調査班をこちらに派遣して下さい」
「調査班?」
「あ~……、俺や犬飼姉弟の検査をする人達……ですか。俺がそちらに何泊もするわけにはいかないんで、検査がしたいならそっちが来てくれと。まぁ、そういう事です」
「オレがそのまま報告を上げたら『ふざけた事を言うガキをここに連れて来い! 説教してやる!』って言われる事間違い無しだな」
だからこその『貸し』でしょ? 小林のおっさんよ?
「ぐ……ぬぅ……わ、わかった。君の望みに添えるかは分からんが、何とか頑張ってみよう」
「最悪、おっさんと信頼できる部下共々、うちで面倒見るから。
何だったら気に入らない上司の横っ面、ぶん殴るチャンスじゃね?」
俺の言葉に目を見開く小林一佐。彼は確か五十四歳だったか? 息子と言ってもいい年齢の俺の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でて、腹の底から笑い声を周囲にまき散らす。
「くっ……くくく、ワハハハハ!!
あー……、笑いすぎて腹がいてぇよ。
ガキのくせにこのオレを、陸上自衛隊一等陸佐の小林火山のケツを持つってか!? ガキが調子に乗るんじゃねぇよっ! お前の望みはオレが全部叶えてやる! 今後のお前の面倒も全部オレが見てやる! だからガキは大人しくしてろ。オレ達大人が守ってやるからな!
ま、気に入らねぇ上司は東京で縮こまってる筈だから、殴りにいけねぇのは不満だがなぁ! ワハハハハ!!」
何だかんだ言って、小林一佐のフルネームを初めて知った。小林火山さんとは……中二病的でありながら古めかしくもあり、自衛隊幹部という地位も相まって中々にしっくりくると思う。
名字が風林だったら完璧だったのにな。
「……ていう感じで、勝手に決めちゃったんだけど、あきらさん的にはどう思う?」
「勿論反対ですが、事情が事情なので、受け入れざるを得ないと思います。先程の豚や牛の件も考慮するとやむを得ないかと」
そうか。
「……なぁ、信道さん」
「何だい? 蘭堂君」
「あんたはどう思う? これまでの全ての思想を捨てて、俺達の監視下に入る事、言い換えればあんたの生殺与奪権は俺が握っているワケだが……」
「特に何とも思わないよ? 僕達がテロリストとして犯罪行為を行っていたのは事実だし、僕は罪に対する罰は受け入れるつもりだよ。……まぁ、姉さんは……難しいかな?」
犬飼信道はそのように供述して、暫定的とは言え、俺の配下に収まる事を了承してくれた。
問題は、難しい姉さんだ。
「あたしはあんた達に媚びを売るつもりは無いんだけど?」
「姉さん!」
「じゃあ、残念だけど犬飼紅葉さんは人体実験コースか。俺も付き添うから安心して切り刻まれるといいよ」
「いや、ちょ……」
「小林一佐。司法機関は全滅しましたけど、彼女の本来の待遇はどんな感じなんですか?」
「……この場で断言は出来ないが、さっきも言った通り人権無視で切り刻まれるんだろうな。回復能力を持つ上位種……『王階級』相手なら手加減する理由は無いし……」
「ちょ! ちょっと待って! 確かに姉さんはテロリストだったけど、人権を無視した解剖なんて許されるわけは無いだろう!?」
ちなみに言うと犬飼信道、お前もテロリストだがな。
「犬飼信道と言ったか。お前に告げる事実が二つ有る」
言って小林一佐が犬飼信道の正面に立って彼に告げる。
「一つ。犬飼紅葉を捕らえたのはそこの蘭堂朝春君だ。故に犬飼紅葉の生殺与奪権は蘭堂君に有るものと考える」
そこで俺かよ!?
「二つ。現状で機能している司法機関は無い。つまりお前の罪を裁くのはこの一帯を支配している自衛隊、その長であるオレの裁量次第だ」
淡々と述べる小林一佐に周囲は沈黙して、犬飼姉弟も地面を見つめて同様に沈黙している。
次回投稿日は未定です。エタらないつもりですけど、なんともはや。
気に入って頂けたら、感想、☆評価、レビュー、ブックマークしてもらえると嬉しいです。今後の励みになりますのでよろしくお願いします。
また、これまでに評価、ブックマークして頂いた方にも、この場を借りてお礼申し上げます。




