十 帰路と現実。酒と涙と女とアイス。
三郷さんは抗体者である俺の血液が欲しい。週に一度コップ一杯程度の量。吸われた俺は献血感覚。三郷さんは周囲のゾンビに命令できる上位者。
「さっき血液を吸われた後に俺、気絶しましたよね? 毎回ああなるんですか?」
ついでに変な夢をみた。
「すみません。初めての吸血だったので加減が判らなくて……。次からは上手くやってみせます」
そうですか。害が無いならいい。……のかな? まだ信用出来ないしなぁー。
契約内容をざっくり説明すると、食料(血液)を提供する見返りに俺と家族の安全を保証する。
不平等条約が締結された。家族の安全が俎上に上がれば、俺に否の言葉は無い。
代わりにゾンビの代理指揮権を頂いた。何だよソレ?
「周囲のゾンビに簡単な命令が出来ます。人間からここ(コンビニ)を守れとか、あそこ(避難所)の人間を全滅させろとか」
何ソレ物騒だよ!?
「あくまで指揮権を持つのは自分ですが、自分の下位として朝春君の命令を受諾するように周知しました」
常識が高速で更新されていく。でも川井ちゃんが俺の言いなりになってくれるのは理解した!
川井ちゃん! カモン!
右ソバットが俺の尻にヒット! 呼んだだけじゃん!
川井ちゃん! ラリアットはやめようよ! 君はプロレスラー志望なの!?
「川井ちゃんが反抗的な件について!」
「川井 絵璃鈴はグーラーです。多少の自我がありますよ」
またツッコミ所が増えたよ! 川井ちゃんからいつの間にか消えた(仮)は最初から必要なかったんだね! ていうか絵璃鈴ちゃんですか。今流行のキラキラネームってやつかな?
「全て説明するとかなりの長話になってしまいますので……」
ハイハイ。じゃあグーラーで無く、自我が無い美女を探します。さっきのOLさんは?
「彼女もグーラーです。……君のアタマにはセクハラしか詰まっていないのですか?」
ハハハ。そんなまさか。場を和ます為のジャパニーズジョークだYo!
「食料を持って帰るんでしたよね? 井上、中野。手伝いなさい」
言われて二体のゾンビがレジカゴを持って待機。調教されてるー。
弁当類は消えていた。既に廃棄されたようだ。三郷さんの指示で。レトルト食品を中心にトイレットペーパーや生理用品、洗剤と菓子、アイス等々をカゴやレジ袋へ放り込む。
近藤さんも応援に加わり、かなりの物量が確保できた。雑誌コーナー片隅のエッチな書籍はリュックの中だ。ついでに酒も確保。今度こそ窓辺でカラランを成功させる!
絵璃鈴ちゃんの眼差しが一層冷たくなった。レスラー系ゾンビの絵璃鈴ちゃんへのセクハラは自重しよう。抗体者の肉体強度は一般人と変わらないそうだ。
「周辺のゾンビは三郷さんの指揮下なんですよね?」
「はい。周囲数キロは自分の指揮下です」
とんでもねぇな。ゾンビと人間の共存も楽勝なんじゃないか?
「……いえ、ゾンビの知能は低く、人間はゾンビを受け入れてくれないので……」
難しいらしい。目下の目標は蘭堂一家の説得か。どーなるかなー。
井上さん、中野さん、近藤さん。ついでに手ぶらの絵璃鈴ちゃんと三郷さん。むしろ俺がオマケか。六人で連れ立ってマンションへと歩く。往路の緊張感は何だったのか? 水溜まりをぱしゃりと踏む。井上さんも中野さんも無反応だ。俺と家族の決意と涙は……。
業火は風前の灯火だよ!
程なくしてマンションに辿り着く。やっぱり五分か。
部屋番号を押し、キーを差し込めば聖廟への扉が開かれる。ツアーの皆さん、こっちですよ。
しばし悩んで三郷さんを振り返る。
「エレベーターを使っても良いんですかね?」
三郷さんは僅かに悩み、「人数が多いですから二回に分けた方が良いかと」
「じゃあ俺と絵璃鈴ちゃんが先に。三郷さんとその他は後からお願いします」
ツッコミは無かった! 遂に絵璃鈴ちゃんが俺に心を許してくれたんだ! 彼女の目は冷たい。……気がする。
「それでは人数が偏りますから、井上もそちらでお願いしまう」
お願いされました。よろしくお願いしまうー。
ちっ! まぁいい。井上さんは自我が無いだろう。五階までの数十秒。セクハラ王に、俺はなる!!
尻を蹴られた。割と強めに。絵璃鈴ちゃん! 君の自我について議論したいんだが!? 密室で! 二人きりで!
絵璃鈴ちゃんが溜息を吐く……ようなジェスチャーをとった。呼吸器官も停止しているようで、呼吸が必要ない代わりに発声――喋る事が出来ないようだ。グーラーとやらも難儀だね。
五階で三郷さん達と合流し、自宅前に帰還。懐かしくもある我が家の玄関だ。
「朝春君、ちょっと待って」
なんですか?
「君のご家族を見たら川井達が暴れてしまいます。……あなた達は荷物を置いて、コンビニに戻りなさい」
こくりと頷き、四人は命令に従う。絵璃鈴ちゃん手ぶらだったよね? 何でついて来た?
「彼女は他の三人の先導役です。川井が案内しないとコンビニまで戻れないので」
へぇー。だとしても少しくらい荷物を持って欲しかった。蹴られそうだから言わなかったけど。
スマホで母さんに連絡。ドアを開けてもらう。
どたどたどた!
「トモ! 無事だったのね! ……え?」
「兄さん! お怪我はありませんか!? ……え?」
「朝春! あたしは信じてたよー! ……え?」
三人が三郷さんを見て固まる。
「初めまして。自分は防衛大学校所属。二学年の三郷あきらと申します」
あんたまともな自己紹介できるんじゃねーかぁ!! ……ハッ!? 人間のフリして家族を襲うんだな!?
恐るべし世紀末巨乳! さては母さんのパイ拓が目的か!?
「意味不明な企みをでっち上げないで下さい!」
うるさい! 謎の笑い声で吠えろ!




