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顔に痣がある私は永遠に幸せになれないといつも腹違いの美貌の妹に言われてきました。王太子の婚約者に選ばれたあともです。そして妹に婚約者を奪われ、私が決意したこととは?

作者: 叶多

「痣って……消せませんわよね」


 私はいつものように妹に言われています。

 私のほほには真っ赤な大きな痣がありました。火傷のあとのようにも見えます。

 生まれつきで、私を見た瞬間、死んだ母はごめんなさいと泣いたそうです。


 実は母は私を産む前に火事にあい、産気づいて、私を産んですぐ死んでしまいました。

 火事の時に生まれた子だからと母は泣いたそうです。


「どうしてそんなに真っ赤なんでしょう。古の醜女ですわよね」


 後妻にきた母は私を見て気持ち悪いといったそうです。

 私は父にさえ厭われ、離れで暮らしてきました。

 わざわざ妹はそこにきて、醜いわというのです。


 私は黙るしかありません、痣は消せません。

 あまりにも大きすぎました。


「お嫁にもいけませんわよねおかわいそう」


 おかわいそうと言われるたびに私はそうねと返します。

 黙り込んでいると返事くらいしなさいよと怒鳴られるからです。


 妹とは1歳違いなだけでした。母が亡くなってすぐ父は再婚したのです。

 

「髪も真っ赤、呪われていておかわいそうに」


 髪の色は母譲りでした。

 私は妹を思わず睨むと、おお怖いと妹は私をいじめるなんてお父様に言いつけますわ! というのです。


「……」


 目を瞑って耳を塞ぎ、何も考えないようにすればいい。

 鏡は大嫌いでした。



 私が王太子殿下の婚約者になり、どうして! と妹が言いました、私とてわかりません。

 一つだけ、母が王族の縁戚で妹より血筋がよかったからかもしれません。


「痣が目立つな、化粧で隠せないのか?」


 出会ってこう言われましたが、私はこれでも化粧をしていますと答えます。

 するとああそうかと殿下は一言言われて、それから私を無視するようになりました。


 私は離宮に閉じ込められ、実家と変わらない生活を強いられました。


「もうお前は用済みだ。婚約破棄するから出ていけ、後お前は妹をいじめた性悪姉だそうだな、それも含め実家も帰ってくるなといっているからどこへなりと行くがいい」

 

 殿下にこう宣言された私は、着の身着のまま放り出されました。


 私の名前すら呼んでもらえない……まま。


 私は母の親戚の家に身を寄せ、妹が婚約者になったことを聞きました。


「君は優しすぎるよね。どうして黙っているの?」


 親戚のルークが笑いながら言います。私が生活できるように彼はいろいろと差し入れもしてくれていました。彼らがいなければ私は飢え死にしていたかもしれません。


「……耳を塞ぎ、目を瞑り、知らない顔をしていればいいのです」


「え?」


「するとね……報いを与えられるのですわ」


 私はにっこりとルークに笑い掛けます。私は母が書いていた日記を見て、母が父を憎んでいたことを知ったのです。そしてある呪いのことも……。


「……君の妹が顔中ひどいできものができて、かゆいかゆいとかきむしり死んだそうだよ」


「そうですか」


 私は淡々と答えます。ルークが驚いたようにこちらを見ました。


「知っていたの?」


「予想はしていました」


「王太子殿下は、次の婚約者を探しているそうだけど」


「そう」


 私はレースの刺繍をしながら、これが売れたらご飯をごちそうしますねと笑い掛けました。

 ルークの家は母の親戚とはいえ、王家とは関係がなく、かなり貧乏な男爵なのです。

 そこで押しかけ居候をしているのは気が引けたのです。


「別にいつまでもいてくれていいんだよ。シノア、母さんも女の子がいてくれて助かるって言ってるし」


「ありがとうルーク」


 私はにこりと笑います。笑顔すら私はそういえばしたことがなかったと思います。

 


「殿下が……王城の私室が火事になり焼け死んだそうだよ」


「そう」


「驚かないの?」


「因果応報ですわ」


 私は刺繍が売れたので、今日はごちそうを食べに行きましょうとルークに笑いかけました。

 彼とは年齢が同じ16歳、いつも父の目を盗んでは離れにきてくれて遊んだりもしていました。


 だから……。


「……君はもしかして」


「赤の髪の魔女は人間となり幸せになるはずが、愛した男はすぐ魔女に飽きて、彼女は絶望したのです」


 私はルークに向かって笑いかけました。それは私の母、人間となりというのは大げさですが、本来は結婚などするべきではなかった家の娘でした。

 代々、巫女となるべく教育された娘を愛という名前の名のもとに連れ出したのは父でした。


「……王家の縁続きだと」


「影を担ってきた家柄でしたわ。陛下と王妃様もそれをご存じでした、私を婚約者にしたのでしょうね。因果応報もご存じだと思います。王子は5人もいてスペアがいるといわれてましたし」


 ルークはそうかとふうとため息をつきました。

 幼いころから一緒だったけど、この私の闇は見せたことがなかったのです。


「私のこと嫌いになりました?」


「いや、あれだけひどいことをされてきたんだ。仕返ししたくなるのもわかるし」


「……仕返しですか、ただ最初は母の書付を見てその通りにしていただけです。言い返すな、闇を内にため込めと……でもねえ途中から何かあれと一生血のつながりというもので捕らわれるのが嫌だなと思ってきて」


「……父親は?」


「これから因果応報が待っているでしょうね」


「そうか、うちの遠縁だと聞いていたが……」


「ルークの家は分家なので関りはないはずですこのことには……」


「まあ。あのくそ親父だもんなあ」

 

 ルークに何を食べに行きます? と笑顔を向けると、シチューがいいなあとルークが笑います。

 ルークはどうして少しでも娘にやさしくしてやれないのかなあと言います。

 そうできない人もこの世界にはいるのです。ほぼ関りがない人にも優しくできる人たちがいるように。


 私はルークとその家族がいる限りは生きていけるような気がするのです。


 私の痣は母も知らなかったのですが、術者の証、これがある女性は巫女として最高の力を持つのです。

 陛下と王妃様は私に次代の王太子の婚約者にと言われましたが、お断りしました……。

 ルークのことを私は……。今は言わないでおきましょう。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] よくもここまで削り取ったというくらい無駄のない物語ですね。この文字数でこの深さは感心します。
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