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第13話 会合

 街に到着した時、既に敵の姿は消えていた。至る所から火の手は上がっているものの、損害は軽微に見える。エルフは街の消火や修復に忙しなく走り回っている。

 停泊場で降りた俺たちは、ルナに会おうと、あの庁舎のような建物へ向かった。ホールに入ると、余計に慌ただしい様子のエルフたちが、作業に追われていた。


「ルナ、来たぞ。ちと遅かったようじゃがな」


 ルゼーナの声に反応したルナはこちらを向き、ぱぁっと嬉しそうな顔になる。


「ルゼーナちゃん!来てくれたのですね!」


 ダッとこちらに駆け寄ってくると、ルゼーナに抱き着く。


「むぐ!?むぐぐぐ!」


 きっと息ができないのだろう。苦しそうにジタバタするルゼーナ。当たり前だ。ルナの豊満なバストを押し付けられているのだから。まるで、プロレス技のベアバッグのようだ。護衛も族長相手には強く出られない様子。ルゼーナが気分を害しても困るので、助け舟を出す。


「ルナさん、放してあげてください。それだと窒息してしまいますよ」


 ハッという顔になってルゼーナを開放するルナ。


「ば、馬鹿者!いきなり抱き着くやつがおるか!この巨乳エルフが!」


 既に気分を損ねている。手遅れだったらしい。

 ルゼーナの発言で傷ついたのか、シュンッとなって、申し訳ありませんと謝罪をしている。本当に悪気はなかったのだろう。

 挨拶が済んだところで、彩葉とジャンヌの所在について尋ねようとする。しかし、その必要は無くなったようだ。こちらに駆け寄ってくる妹の姿を見つけたからだ。きっと、騒がしいのが気になって見に来たのだろう。


「お兄ちゃん!よかった、無事だったみたいだね!」


「はぁ……よかった。彩葉、怪我とかしてないか?」


「うん。大丈夫だよ。全然平気」


「そうか、よかった」


 とにかく、妹が無事でよかった。頭を撫でてやると、犬のように目を細める。可愛い。

 後ろからはジャンヌが遅れてやってくる。


「彩葉は敵と戦って1体仕留めている。褒めてやれ」


「本当か⁉︎しかも無傷か。すごいな!大事な時に一緒にじゃなくてごめんな」


「それはいいけど心配したよ!お兄ちゃんどこに行ってたの?それにあの人たちは?」


 ルナを説教しているルゼーナを見て尋ねてくる。


「ああ、あの人たちはダークエルフだ。ルナさんに頼まれて和平交渉をしてきたんだ」


 意味がわからないといった顔をする二人。いや、俺も意味わからなかったし仕方ないよな。

 とりあえず、かいつまんでこれまでの経緯を話すと、呆れたような顔になる。


「ここを離れるのであれば、私たちに一報くれてもいいだろう」


「なんで教えてくれなかったの?」


 一気に責められる俺。しかし、二人の言っていることは正論だ。俺たちは離れてしまえばお互いに居場所がわからない。その間にどのような状況に陥っても、二人は感知できないのである。

 ふと、通信機で声をかけた時のことを思い出す。


「完全に俺が悪い、すまなかった。でも、ダークエルフの城にいる時、俺は一度声をかけたんだけどな。気づかなかったか?」


「うーん、通信は来なかったかな」


「そもそも個別通信はできるのか?これは」


「できなかったら困るな……。後で紫希に聞いてみよう」


 今は紫希が寝ていると思われるので、夜にでも連絡することにする。

 俺は両族長の方を見ると、相変わらず説教が続いていた。まだやってたのか。



────────────────────



 卓に座って向かい合う両族長。その後ろにはクルーデと護衛の二人が控えている。俺たちは特別に立ち合いを許可させてもらった。二人は親しい間柄と言っても立場は族長。両者から先程の和やかな雰囲気は消え去っており、緊張が感じられた。


「条件は以上の3つじゃ。我々ダークエルフを蔑み、追いやってきたことを考えれば、優しすぎる条件と思わんか?これが飲めぬなら和平はなかったこととする」


「主張は分かります。エルフの代表としても、ダークエルフに対して謝罪をします。しかし……さすがに領土の一部を譲渡するというのは難しいと思うのですが……」


「では、話は終いじゃな。帰るぞ」


「待ってください!」


 立ち上がるルゼーナ。それを引き止めるルナ。話の流れから、両種族間では長い間、差別問題があったように推測できる。溝は思っているより大きいかも知れない。


「私が今回、和平に踏み切ったのはかなり強引でした。でも、それには理由があります」


「ふむ……影の者たちか」


 窓の外を眺めるルゼーナ。影の者とは、きっと街を襲った者のことを言っているのだろう。


「ダークエルフではそう呼ぶのですね。エルフは単純に襲撃者と呼称していました。私たちはあの者たちに手を焼いています。街の被害は毎度軽微ですが、彼らの目的はそこにはありません。」


「じゃろうな……あれの主な狙いはドラゴンじゃ」


 話に興味を持ったのか、ルゼーナは席に戻る。


「そうです。そちらの被害はどの程度ですか?」


「ドラゴン3頭。あとは建材用の石と木あたりがそこそこじゃの」


「やはりドラゴンを……。エルフ領でも既に7頭が奪われています。その他にも、資材や金貨も奪っていくと報告を受けています。しかし、あれが何者なのか特定できていない状況です」


「なるほどのぅ。それで我々の協力が欲しいとな?」


「その通りです。どうにか和平を結べないでしょうか」


「はっ、虫が良すぎるわ!協力とは平等の立場で行う物ではないか。我々が要求しているのは、このアルベンティアほどの領地じゃ。アーボルデの庇護の中で暮らせればそれで良いと、これまでのことは水に流そうと言っておるのじゃ!それさえできぬと言うか!貴様らエルフがそのような考えであるうちは、妾は一族の長として、和平を結ぶことはできん!」


 激しい剣幕。ルゼーナは揺らがない。あくまでダークエルフ側が求めるのはエルフとの平等な関係。エルフと同様に襲撃者への対処はしたい。だが、この二種族の関係改善はそれ以上の問題なのだろう。

 これにルナはどう出るのか。


「私個人としては……領地をダークエルフに譲渡することは構いません。しかし、私も族長という立場上すぐに条件を飲むことはできません」


「フッ、そうじゃろうな。妾も同じ立場なら条件を飲めぬ。そこでじゃ。────和平の前に軍事同盟を結ばぬか?」


「それは──いい考えかもしれません。エルフもダークエルフも、互いに協力することに慣れていません。しかし、共通の敵がいたら?ということですね」


「たとえ盗っ人どもでも、利用できるなら利用せねばな。戦いを通して、慣れさせるのじゃ。和平はそれからでも遅くなかろう」


「──では、その方向で進めましょう」


 桶の中の蛙は徐々に水を温めれば、環境の変化に気づかない。それの応用だろう。長い間、両種族の関係は良くなかった。いきなり和平ともなれば、不満が出てもおかしくはない。共通の敵がいる今、軍事同盟を結び、徐々にエルフとダークエルフが協力するということへの抵抗を取り除く。筋としては通っている。


 決まった同盟の内容を要約すると以下の通り。


 頻発する黒の襲撃者への対策として、エルフとダークエルフは軍事同盟を結ぶことをここに取り決める。


1、両種族間の領土の移動は自由となる。

2、両種族間での戦闘行為及び、その他戦闘行為と判断される行為を禁ずる。

3、各勢力との境に置かれた関所では、両種族合同で見張りを行う。

4、黒の襲撃者について得た情報については、密に交換を行い、伝達漏れを起こさないよう努める。

5、戦闘において必要とされる事項について、両族長主導の元に行う。

6、両種族間においての優劣はなく、最終決定は両族長の話し合いのもとに下される。



 契約書はクルーデが作成した。ルゼーナはそれに目を通している。敵の呼称については『黒の襲撃者』で統一するらしい。


「ふむ、よかろう。“ルゼーナス・デ・レオーヌ”の名において、ここに契約する」


 言葉にしてから、紙に手をかざす。青白く光った後、そこにはダークエルフの紋章が刻まれていた。人間で言う調印だろう。今度はルーナに渡される。


「“ルナフレーナ・エトゥ・プリフィカティオーネ”の名において、ここに契約します」


 同様に紙にエルフの紋章を刻む。これで契約はなされた。

 ルゼーナは疲れた様子である。反対にルナの方は嬉しそうな顔をしている。


「ふぅ、ではよろしく頼むぞ。ルナ」


「はい、よろしくお願いします。ルゼーナちゃん」


 二人は握手を交わし、エルフとダークエルフの同盟が始まった。

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