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第11話 ダークエルフの女王

 城に入る前に、当然だが武器は没収されてしまった。

 通されたのは、城のどこだろうか。停泊場から目隠しをされたため、よく分からない。ただ、地下なのは間違いない。途中で階段を下ったからだ。


 目隠しを取られると、そこは広い一間のホール。光源が多くあったため、窓がなくとも明るさを保っている。

 最奥には玉座がある。それに座するのは、褐色肌のエルフ。頬杖をついて、退屈そうにしている。あれが族長ルゼーナだろう。体が小さい。子供が偉ぶっているようで、少し可愛くも見えるが。両脇には護衛が控えている。

 俺は、ここまで連れてきたくれたミセーリに礼を言ってから、玉座の正面へ歩きだす。ここくらいかな?というところで止まり、片膝をついた。


「謁見を許可していただき、ありがとうございます。エルフの遣いで参りました、東雲 縁と申します」


「珍しい名じゃな?どこから来た?」


「おそらく別の世界から。私は人間です」


「ほう、人間とな!しかも別の世界から!楽しくなってきたのう!(わらわ)はダークエルフの長、ルゼーナじゃ。して、要件はなんじゃ?」


 子供のような見た目とは裏腹に、長としての貫禄があり、その赤い目は鋭い。甘く見てはいけない。

 しかし、人間がこの世界でいかに珍しいかわかる。人間という単語を出すだけで、相手は驚き興味を持ってくれる。これをうまく生かせるか。


「エルフの族長ルーナから書簡を預かっております。ご確認いただきたく」


 俺が書簡を懐から出すと、左側に控える護衛が受け取って、ルゼーナに渡す。

書簡に目を通すルゼーナ。なっ!とかはぁ!?とか声を上げながら、読んでいる。何が書いてあるんだ、一体。一抹の不安を感じるのだが。


「ふぅ~。ルナのやつ、ふざけておるな。本気で和平交渉する気はあるのか!あの性悪女はっ!」


 案の定、お怒りであった。恨みますよ、ルナさん。


「あの、なにか気分を害することでも……」


「全てじゃっ!全てが気に障るわ!いやしかし、貴様のせいではないな。全てルナが悪い」


 クルーデから短気だと聞いていたが、意外にも怒りを収めてくれたようだ。


「縁よ、ルナに何と言われた?」


「和平交渉をして来いと」


「この書簡でか?片腹痛いわ。はぁ……、それだけではなかろう?」


 半ば呆れたような口調だ。確実にあの書簡のせいだろう。


「その……色仕掛けをしろと」


「なっ、ななな!なななな!」


 顔を真っ赤にするルゼーナ。護衛は持っていた槍をこちらに向ける。こっわ。


「でも、そう言われただけで、私は断りましたよ?」


「いや、分かっておる。貴様がこのようなふざけたことをする輩には見えん」


 そう言って、護衛の槍を下げさせてくれる。この族長、かなり寛容な気がするのは俺だけだろうか。それか、ルナさんの信用が低すぎるのか。


「縁、これを読んでみろ!」


 書簡を渡してくるが、残念なことに、俺は字が読めない。


「申し訳ないのですが、私は字が読めません」


「む?ああ、そうか人間じゃったな。しかし、何故言葉が話せるのじゃ?」


「これは私の仲間の魔法によるもので、本当は日本語という言語を話しています」


「変わった術を使う仲間じゃな。妾はそのものにも興味がある。その、にほんご、とかいう言語にもな」


「仲間には里に行けば会えるかと。日本語は私がお教えできます」


「そうじゃな……。分かった。妾が読もう」


 ルゼーナが読もうとするところを、主に読ませるのは悪いと思ったのだろう。護衛の一人が、私が読みます!と言い出し、代わりに読む運びとなった。



 ルゼーナちゃん、お久しぶりですね!

 なかなかあなたが会ってくれないから、お姉さんは寂しかったです。

 さて、今回こうして使者を送ったのは、他でもありません。

 エルフとダークエルフの間で和平を結びたいと思ったからです。

 私たち両種族は、長い間いがみ合ってきました。

 しかし、共通の問題を抱えている以上、手を結ぶのが良いと思いませんか?

 あんまり意固地になっていると、殿方にモテませんよ?

 お姉さんにべったりだった、素直なルゼーナちゃんが懐かしいです。


  p.s. 同意していただけるなら、使者の男の子、少し味見してもいいですよ♡



 うん、ふざけてる。書簡というか私的な手紙じゃん。めちゃくちゃに煽ってるし。護衛のダークエルフも読みながら気まずそうにしてたよ。

 両族長は以前、親しい関係にあったようだ。多分。立場上親しくするわけにもいかないということなのだろうか。

 しかし、ルゼーナの怒りようを見ると、ルナのせいな気もする。本人は多分、ルゼーナちゃん好き好きビームを送ったつもりなんだろうけど。悪気がないのが一番質悪いからな……。


「これはひどいですね」


「じゃろ!?正式な書簡でこのような!妾を愚弄しているとしか思えん!」


「私も当人ならそのように思うかもしれませんが、これはおそらく……悪意はないものかと」


 護衛の2人もうんうん頷いている。ルゼーナは、美しい銀髪をかき上げながら大きく息を吐く。


「はぁ~~~。さすがの妾も言葉を失うのじゃ……縁、貴様も貴様じゃぞ?エルフにとって()()は珍しい。ルナはお前をだしにして和平を結ぼうとしたのじゃ。少しは怒ったらどうなのじゃ」


「そうですね。先程も少々問題があったのですが、この人の行動にいちいち怒っていたら、体がもたないだろうなと直感しまして」


「よくわかっておるな……。ところで、縁よ」


 急にそわそわし出すルゼーナ。人差し指を合わせてもじもじしている。親父のはキツかったが、美少女がやるとこんなにも可愛いのか。


「どうされましたか?」


「その……な?私を、どう思う?お、おお女としてじゃ」


 語尾がしりすぼみになるルゼーナ。相当恥ずかしいらしい。やっぱり気になるんだな。乙女ですな。護衛の目が鋭くなる。わかっているだろうな?と訴えかけている目だ。

 フッ、安心しろ。さすがにこの状況で外しはしないさ。死にたくないし。


「正直に申し上げてもよろしいですか?」


「た、頼む。率直な感想を妾は望むのじゃ」


「私たち男性はギャップに弱い生き物です。ルゼーナさんからは厳しそうな印象を受けましたが、話してみると驚くほど寛容でした。こういった部分はとても魅力的にうつります。もちろん見た目も可愛らしいですが」


 グッ。護衛の2人からよくやったとサムズアップをもらう。単純に思ったこと言ったんだけど、当たりっぽい。

 本人の反応はというと。


「か、かわ!かわわわ!へへへ……これ、そんなに見るでない」


 満更でもなさそうだ。よかった。


「だが縁、妾は大人のダークエルフじゃが、子供のような体型じゃろう?おかしくはないかの?」


 なるほど、自分の体型を気にしているらしい。そうなるのも当然かもしれない。ダークエルフはルゼーナを除き、ここまで会った者すべて、豊満な体型であった。エルフはスレンダーな体型が多い印象だったが、ルナさんは……いろいろとでかかった。

 要するに、自分の周りに同じような体型の者がいないのだ。それで心配になったのだろう。


「何をおっしゃいますか!ルゼーナさんのような体型は人気があるんですよ!……一定の層に」


 俺の言葉を聞いたルゼーナは、ぱぁっと花が咲いたように嬉しそうな顔になる。最後の言葉は聞こえていないようで助かった。護衛は涙を拭っている。愛されてるなぁ、ルゼーナさん。


「縁よ。妾はそなたを気に入った。その上でじゃ。エルフの遣いとしてではなく、人間としてのそなたの意見を聞きたい。和平をどう思う?」


 俺に聞くのかよ。でも第三者として客観的な視点で見れるのは俺だけか。

 図らずだが、かなり有利な展開となった。俺は和平交渉がうまくいくよう、誘導することができる。


 だが、それでいいのか?もし試されていたら?俺を見つめるすべてを見透かすような赤い目。あの目には嘘が見えるのでは?

 残念ながら悪い直感はよく当たるんだ。

 言いくるめようとするな。嘘をつくな。真意を伝えろ。俺の心の声がそう言っている。


「……人間にも人種があるんです。大きく分けるなら、肌の色が黒か白か黄色かです。宗教や国家、様々な利害関係。争いは絶えません。でも、俺は愚かだと思います。生まれた場所とか肌の色で何が決まるんでしょうか?皆、元をたどれば兄弟なのに。俺、妹がいるんですよ。血が繋がってないって分かったんですけど、やっぱり大事な妹には変わりなくて。エルフとダークエルフの間に何があったか俺には分かりません。でも、仲良くできるんじゃないかなって、そう思います。」


「……」


 稚拙だったが、本音だった。決して今までの言葉が嘘だったわけではない。そこに感情を乗せただけだ。

 ルゼーナは沈黙している。何かを考えているようだったが。やがて、口の端がニィッと上がる。


「よかろう。エルフと和平を結ぶ」


 護衛は驚きのあまり、えぇ!と声を上げてしまっていた。

 ただし、とルゼーナは続ける。


「ただし、条件がある」


 条件は以下の3つ。



1、エルフとダークエルフは同盟関係になり、両領土間の移動は自由となる。

2、アーボルデ付近に、ダークエルフの新都市を作るための領土を明け渡す。

3、相互の問題には、必ず協力する。



 領土はルーナ次第だが、他2つなら大丈夫そうだ。

 俺の仕事はこれで終わりかな。和平交渉のテーブルには座ってくれるだろう。冷や冷やする場面もあったが、ルゼーナが思っていたより寛容だったのは幸運に思う。


「条件の可否に関しては、俺からは答えられません。ルーナさんと交渉してください」


「分かっておるから安心せい。さて、縁。腹は減っておらぬか?どうじゃ?昼餉(ひるげ)でも」


 そういえば、出されたお茶を飲んで以降、何も口にしていない。今は午後の2時とかそんなところだろう。時計がないので分からんが。


「いいんですか?それは助かります。外にクルーデというエルフを待たせているのですが、彼女も同席させていただいてもよろしいでしょうか?」


「そうか、呼んでこさせよう」


 同盟への向け、手始めに一緒に食卓を囲むのはいいんじゃないだろうか。クルーデはどう思うかわからんが。1人外で待たせているのに、俺だけ飯を食うわけにもいかんだろう。


 長い卓がある部屋に通される。普段はここで私兵たちと食卓を囲むらしい。俺はルゼーナと席に座って、クルーデを待つ。

 その間、プチ日本語教室が開かれる。正直、すべて日本語で喋っているつもりなので、話分けができるのか不安だったが、『こんにちは』と強調することで、多言語として認識されることが分かった。改めて魔法すげえな。


「失礼します」


 クルーデが到着したようだ。振り返ると、彼女は疑問符を浮かべている様子。説明をして欲しいのだろう。

 後で説明するよと言い、着席を促す。コクッと頷いた彼女は、おずおずと席に着いた。

 ルゼーナはクルーデの立場を知ってか、ルーナの様子を尋ね、自分が困惑したエピソードを話すなどし、緊張を解いてやっている。面倒見がいいのだろう。部下に慕われているのは、よく伝わってきていたしな。

 

 運ばれてきた料理は、ハーブと塩で味と風味をつけた感じの肉料理だった。ハーブは、嗅いだことのない香りであったが、嫌いではない。コンソメのような琥珀色のスープとパンに似たものもついている。


「ほれ、遠慮せず食うが良い。毒など入っとらんから安心せい」


 と言いながら、肉を一片頬張り、毒見役を自ら行う。クルーデへの配慮か。

 いただきます、と食前の挨拶をし、肉を口に含む。いただきますが分からないようで、2人には首をかしげられた。無理もないか。

 エスニックな独特の味付けだが、美味い。何の肉か知らないが、味は牛肉に近いか?


「うん!美味しいです!」 「美味しい……」


 俺たちの反応に、ニッコリ笑って得意げな族長様。


「そうじゃろ?妾の部下は料理が上手いのじゃ!」


 その言葉を最後に、すっかり黙ってしまうルゼーナ。クルーデも少々焦っているようだ。聞いてみるか。


「ルゼーナさん、どうしたんですか?」


 質問の声にピクッと跳ねると、俺の顔をじっと見てくる。


「な、なんですか?」


 次にルゼーナが発した言葉は、最も意外なものだった。



「縁よ。────妾とつがいになる気はないかの?」

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