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第10話 心の内

「うーん、意外と早く終わっちゃったな。何しようかな?」


 薪割りの仕事が意外と早く終わってしまい、私は暇を持て余していた。


 私の担当になったリベルスさんは優しい人だった。あなた大丈夫?なぜあなたのような可愛い子に、薪割りなんてさせるのかしら、と心配してくれたのだ。だけど、そんなのは杞憂なわけで。


 私は小さいころから力が強かった。同級生の男の子は、私をゴリラ女とか怪力女とか呼んで意地悪をしてきた。でも、お兄ちゃんだけは違った。彩葉はすごいとか、彩葉は天才だとか、力が強いことを否定的に捉えなかった。

 実家が剣術道場であることが、そんな考え方に至った原因だって言われちゃったら、言い返せないんだけど。

 

 剣術道場では兄弟子で、家では優しい兄。そんなお兄ちゃんに、私は憧れを抱いていたのだと思う。

 お兄ちゃんが家を出るって言った時、このままでは私の心から大事な何かが抜け落ちてしまう、そんな直感と恐怖を抱いた。嫌だった。行かないでほしかった。

 でもお兄ちゃんの目を見た時、止めても無駄だって分かっちゃったんだ。だから無理やりにでも付いていこうって決めた。お母さんとお父さんには悪いと思った。でも、後悔したくなかったから。今一緒に行かないと二度と会えない、そんな気がしちゃったから。


 でもどうだろう。こっちに来てから、私は何の役にも立ってない。まだ戦闘はしていないとはいえ、今はただのお荷物状態。そんな自分が一番嫌。頑張らなきゃ。お兄ちゃんとジャンヌさんの役に立たなきゃ。


 ブルーな気分でエルフの街を歩いていると、酒場の前で人が集まっていることに気がつく。寄ると、即興の腕相撲大会を開いているようだった。私の得意分野である。しかし、屈強そうな長身のエルフたちに、私の力は通じるのだろうか。

 いや、どうせ命は取られないのだ。物は試しだ。


「それ、私も出ていいですか?」


「あんた、人間のお嬢ちゃんじゃないか。やめときな、怪我するよ」


「そうだよ。アンタみたいなかわいこちゃんケガさせたら、寝覚めが悪くなっちまう」

 

「私の力を試したいんです!お願いします!」


「ちょっと!私たちがいじめてるみたいになるからやめな。分かった。ただ、ケガしても知らないからね?」


「はい!ありがとうございます!」


 口調はちょっと怖いけど、話が分かる人たちだ。ありがたい。

 私は対戦用の席に通され、相手と腕を組む。


「いいかい?構えて、始め!」


 ──ガッ!


 力を入れ、一瞬の均衡。しかし、次の瞬間に敗者の腕はテーブルに落ちている。


 私の勝ちだ。

 辺りは数秒沈黙に包まれる。


 ウォォォォォォォォォォ!


 割れんばかりの歓声が外野から上がった。相手のエルフは驚愕の表情で自身の腕を見つめている。


「なっ……!あんた、いったい何者だい?」


「ふふ、ただの人間ですよ?」



────────────────────



 目を開けると、気まずそうなクルーデの顔があった。


「気がついたか?10分くらい寝ていたぞ」


 体を起こして周りを見渡す。段々と意識がはっきりしてくると、気を失う前の記憶がよみがえってきた。


「……ここは?」


「医務室だ。その……私の…………申し訳なかった!」


 突然の謝罪。体を90度に曲げて頭を垂れるクルーデ。誠意を感じる謝罪だった。


「いや、確かにあれは勘違いだったけど、事故にも近かったしさ。クルーデさんは仕事をしたまでっていうか。だから頭を上げてくれないか?」


 顔を上げると、その表情からは、困惑が読み取れる。


「……どうして」


「え?」


「どうして私に優しくするんだ!私はお前に無礼な態度を取っていただろう!それなのに……なぜ……うぅ」


 涙を流すクルーデ。

 え、ちょっと待ってクダサイ。どうすればいいのでしょうか。私にはワカリマセン。


「えーと……。確かに態度は無礼だったよ?」


「……うっ」


「あーあー、違う。でもその、立場上俺たちをすぐに信用しないのは当たり前だと思うし、本当は優しいのかなって行動から感じてたし……」


 俺の言葉でなおさら泣いてしまう。困った。

 これ以上の対処が分からなかった俺は、立ち上がって、泣いている子供をあやすように、頭をなでなでしてしまった。自分でも何をしてるんだろうと思ったが、クルーデがかわいそうに思って、自然とやってしまったのだった。


 どれくらいそうしていたのだろうか。髪がふわふわで触り心地がいいなとか冷静に物事を考えられるようになったころ、落ち着いてきたようなので、手を離した。おそらく10秒くらいなのだろうが、体感では1分以上だった。


「……ありがとう、縁。改めて、今までの態度は謝る。許してくれるだろうか」


「ああ。許すも何も、最初から怒ってないからな。まあ、次からは状況を飲み込んでから攻撃してほしいけどな」


「うっ、すまない……」


「今のは俺もすまん。いつも一言多いんと言われる」


「ふ、ふふっ」


 それは、初めて見る彼女の笑顔だった。基本無表情だったから、ドキッとしてしまった。


 ──ガラガラ。


「あのー……そろそろいいですか?」


「「────ッ!?」」


 顔を赤くする俺たち。現れた人物は、クルーデが謝罪をすることになった、そもそもの元凶である。


「ルナ様……これは、その」


「二人が仲良くなってくれて嬉しいですよ。案内役にはクルーデをつけるつもりでしたし」


「……もしかして、交渉人の話ですか?」


「そうです。やはり、あなたが適任かと思うのですが」


「和平交渉してくればいいんですよね?でも、中に入れてもらえなかったり、身の危険を感じたら帰ってきますよ?」


「その場合は仕方ありませんね。……でもやっぱり色仕掛けを」


「それは無理です」


 食い気味で回答する俺。無理なものは無理だ。


「もし、可能ならばですが……今から出発できますか?」


「ええ、まあ」


 引き受けてからは早かった。まず最初に、ダークエルフの居城に入るための作戦を教えてもらう。作戦といっても、非常にシンプルだ。


1、ダークエルフの居城へドラゴンで近づく。

2、城に近づけば、間違いなく兵が飛んできて警告される。

3、エルフの紋章が入った旗を広げて、自らが遣いであることを示す。

4、城に入れてもらい、ルーナの書簡を族長へ渡す。

5、族長を説得する。


 城に入れてもらえなければ終わりだな。一応中に入った際にどうやって族長を説得するかは考えておくが、どう転ぶのやら。

 しかも、城にクルーデは入っていけない可能性が高いという。つまり、自分一人で説得しなければならないということである。

 うまくいけば奇跡なのでは?


 外に向かうと、俺が一度乗ったドラゴン、グラヴィが停泊場に待機していた。クルーデの後ろに乗り、操縦は任せる。

 前のように彼女に密着することになるが、もう変な声は上げないし、震えてもいなかった。流石に慣れてくれたようだ。ありがたい。

 前は気まずくてしょうがなかったからな。

 飛び立つグラヴィ。ルーナさんと他数名のエルフたちが見送りをしてくれている。


「縁、ダークエルフの族長について、わかる範囲で教えておく」


「どんな情報でもありがたい。教えてくれ」


「彼女の名前はルゼーナ。頭が切れる上、魅力的な人物だと聞くが……ものすごく短気らしい。怒らせると命が危ない。気をつけるんだ」


「助かるよクルーデ。でも短気か。もし、俺がまずい状況になったら、急いで逃げてくれ」


「だめだ。必ず帰ってこい」


「俺も死にたくはない。もしやばかったらなんとか扉を開いて逃げるよ」


「最終手段というやつか。便利な血だな」


「便利には便利なんだけどね。まだ使いこなせてないからな」


「フン、2日目なんだろう?これからだ」


「そうだな」


 相手を怒らせないように慎重に行かなくては。もし、怒らせるとエルフに迷惑をかける可能性が出てくる。そうなれば彩葉とジャンヌの立場も危うくなると推測できる。要するに、成功させるのが一番だ。

 ルナさんから預かった書簡を読んで、和平に応じてくれるのなら簡単なのだが。


 心の準備を整える間もなく、ダークエルフ領が徐々に近づいてくる。

 聞いていた通り、活動中の火山があるようだ。火口からは、煙が絶えず吐き出されている。植物はあまりなく、アルベンティアと比べると、肥沃な土地には見えなかった。街の中心地には大きな城があり、あの中に族長がいるのだろうと思われた。


 俺たちの接近に気づいていたのだろう。島から5頭のドラゴンが飛び立つのを見た。背中にはやはり人影が見える。そして、あっという間に取り囲まれてしまう。皆マスクをつけており、表情が分からない。その中のリーダーらしき者から、警告が発せられる。


「お前たちはダークエルフの領土に侵入している。今すぐ引き返さなければ、攻撃する」


 それを聞いた俺は予定通り、エルフの紋章旗を掲げ、自分が遣いであることを伝える。


「エルフの遣いの者だ!エルフの族長、ルーナからの書簡を預かっている!ダークエルフ族長への謁見を求めたい!」


 用件を聞いたリーダーは部下に合図を送り、1人が城の方へ向かった。族長へ報告して指示を仰ぐのだろう。


「おい!クルーデ!久しぶりだな!元気にしてたか?」


 さっき警告を発したリーダーが、マスクを取りながらクルーデの名前を呼ぶ。知り合いなのだろうか。親しそうな口調に感じる。


「ミセーリ!私は変わりない。あなたも元気そうね」


「最近出世したんだ!すげえだろ!」


「よかったじゃない」


「クルーデ、知り合いか?」


 俺は小声でクルーデに尋ねる。


「ええ、友達。エルフとダークエルフの関係は確かにあまりよくない。でも、全員が全員険悪というわけでもない」


「へえ、そんなもんか」


 これは意外だった。ルナの話から、てっきり交流が一切ないものだと思い込んでいた。

 しかし、それなら何故、エルフの遣いを頑なに城へ入れないのだろうか。

 ミセーリの部下の帰りを待つ間、クルーデは柔らかい表情で、ミセーリと近況報告をし合っていた。やはりというか、人間と近況のレベルが違っていたが。


 城からの返答は、以外にも謁見許可だった。

 ミセーリに停泊場へと案内される。こうして、ダークエルフ領へ足を踏み入れることに成功した。

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