梅雨、夏、お盆の季節
夜の帳が降りてきて夏の茹だった昼の空気が幾ばくか薄れてきた頃、鉱石ラジオが大相撲を中継しています
模型の飛行機を宙に泳がせながら、少年が、鉱石ラジオにノイズまじりに混じる「…聞こえるかい…銀河鉄道が…もうすぐ旅立つよ」という声に、動きをぴたりと止めた
カーテンを開けると、満点の星…
古い物、古い記憶にどうしてこう惹かれてしまうのだろうか
記憶の片隅に置いてあった玩具を箪笥から引っ張りだしてきて、メンコの一枚をそっと表にひっくり返してみる
怒ったお相撲さんの顔に、黒ずんたなにかの跡がついている
食べ物の跡なのかなあ…それとも…
不思議な面持ちで、懐古の物を見つめる
真っ黒い生き物が雨の中、道の上を移動している
それ、は、あめふらしと言って、宿場町に来る人たちの魂を食べてしまう、ぬらぬらとした生き物なのだ
普段はフードにコート姿のオジサンの恰好をしているのだ
道沿いに紫陽花が咲いていて、葉の上の蝸牛も雨の汁を啜っている
梅雨の雨が、瓦屋根をしとどに濡らしてゆく
誰もゐない宿場町の通り道を、雨脚早く、雨がバケツをひっくり返したやうに降っている
お化けも、子供も、皆、軒の下。退屈そうに玩具で遊んでいる
お化けは、衝立の後ろで賭け事をしているのだが、
道のお地蔵さんに、誰かが真っ赤な傘を掛けてあげたよ
宿場町の雨の中子供が泣いている
鬼の子だからと人間の子に仲間外れにされたから、悲しくて雨に打たれながら大声で泣いている
軒の下の鴉が真っ赤な眼でそれを喰いたそうな眼で狙っている
輪廻の輪から外れし者は、所詮、人と同じにはなれないのよ…
強くおなりなさい
誰にも負けないように、強く強く
お盆の頃になりました
地獄へ行っていた祖先も、天国に行っていた祖先も、
同じように帰ってきます
迎え火、送り火
生前、なにがあっても、死ねば、罪を許しておやりなさい
どこかのお坊様の言った言葉
真夏の夜の空を見つめながら、噛みしめます