11-9.好きの半分
結婚が報酬だなんて、まるで”ついで”よね? やっぱりプロポーズなんてするつもりないんでしょう?
クロエは否定しようと考えあぐねたが、ルーカスの期待に満ちた視線に負けた。
「わかったわ。私の秘書に採用しましょう……報酬がそんなものでよければ」
「それ以外はいらないよ、クロエ」
ルーカスが目を輝かせて微笑んだ。クロエは呆れて息をついた。
「変よ、あなた」
「でもこうじゃないと頷いてくれないだろう? 僕が、”愛してるから結婚して欲しい”って言っても、どうせ信じてくれないんだ」
確かに。一理ある。あるにはあるが、そんなこと言われたことないから、どうするかなんてわからないじゃないの。
「でも信じて欲しいんだ。僕には、ずっとクロエだけだ……クロエが何者でも、僕はクロエがいい」
「悪役令嬢でも?」
「うん」
「プラントハンターでも?」
「もちろん」
笑顔で即答するルーカスに、クロエはなんとも言えない気持ちになった。
我ながら、とんでもない条件だわ……
プラントハンターについて、再考しなくちゃ。侯爵夫人になっても、体力がなくても、ルーカスと一緒でも、出来る仕事があるはず。
闇雲に関連する仕事ならいいと思って探してきた五年、見つけられなかったのはそのせいかもしれない。絞っていくことで、やりたいこともできることも、みえてくるものなのかもしれない……
クロエが考え込んでいると、ルーカスはクスリと笑った。
「クロエは探偵が合うと思うんだけどな」
「私にだって仕事を選ぶ権利があると思わない?」
「そうだけどさ……」
しぶしぶ頷き、ルーカスは、今度は真面目な顔でクロエを見た。
「これまでのこと、全部強引で、すまなかった。だた、これだけは本当だ。僕はクロエが好きだ。君が踊るのもお茶を飲むのも、誰だって構わない。でも、クロエの一番そばにいるのは、僕がいい。一番頼れるのは、僕であってほしい」
そして、ルーカスは少し俯いた。
「僕に時間をくれないだろうか? 僕の半分でも、クロエに好きになってもらえるように頑張りたい」
何を頑張るというの? クロエは思わずルーカスをまじまじと見つめた。
半分って? ルーカスはどれくらいクロエを好きだというのだろう?
「……私はあなたが笑顔なら、それで充分なの。ずっとそれだけなのよ」
ルーカスが、クロエがルーカスを甘やかす以上にクロエを好きなんて、信じられない。だってクロエは、ずっとルーカスを見てきたんだから。彼が笑顔であるように、幸せでいられるように。
何にせよ、クロエの気持ちは夢で思い出した頃と変わっていないのだ。
その笑顔を守るためなら、クロエは何でもルーカスのお願い事を聞いてあげたくなるから。そのためならきっと、探偵にだって、なってしまいそうだから。もし、次に言われてしまったら……
すると、ルーカスが甘くクロエを見つめた。クロエは身構えたが、ルーカスはただ同意しただけだった。
「僕だって同じだ」
そして優しく微笑むと、クロエの手をとりなおし、跪いた。
「クロエ、僕と結婚してください。……受けてくれる?」
クロエは息を飲んだ。
初めからそう言ってくれれば良かったのに。そうすればきっと、……きっと。
ルーカスの視線に、うっとりと蕩けそうになりながら、クロエは首を傾げた。
どうかしら? やっぱり、躊躇したんじゃないかしら? だって、ルーカスは正直じゃないんだもの。そう、きっと、信じなかったわ。探偵になれって言われた方が、確かに、よほど信じられた。あの時は、久しぶりに話したあの時は。
でも今は……
結婚がひどく簡単なことに思えてくる。
「えぇ、ルーカス。もちろんお受けするわ。でも」
”これ以上好きにならなければならないのはどうして?” クロエが聞こうとしたが、ルーカスは指で唇をふさいだ。
「わかってる。一番じゃなくていい。君の一番は決まってる。ゆっくりでいいんだ」
「一番?」
「ケルベロスフラワーだろう?」
時々、ルーカスは意味がわからないこと言う。でも、真剣だから訂正するのも憚られる。第一、人間と植物では好きの意味も勝手も違うのに。
「あなたって本当に……」
「何?」
「わけがわからないわ」
やっぱりちょっと、変なんだわ。
クロエが言うと、ルーカスは心底楽しそうに笑い、クロエを抱きしめた。
cese11 END
ルーカスのサイドストーリーを挟んで12です。




