11-6.今後の課題
クロエは今では、自分のルーカスへの評価に穴があると気づいていた。
成長した姿に見とれて、距離を感じて遠くて、自分がいなくても楽しそうで、話しかけるにも気後れして。
自分とは関係ない人だと目を背けようとした。
だから、強引さも話を聞かないところも、押し付けがましいところも、利己的な理由だけだと思い込んでいた。
「でも、そんなことなかったわ」
クロエはルーカスが考えていることを知ろうとしなかった。ルーカスはクロエが本当にしたくないことは強要しないことは、知っていたのに。
ルーカスは変わらずいつも頑張っていて、優しくて人気者で、それは嘘でもなんでもなかったのだから。
「君が……僕のことを嫌っていないのは、プロポーズした時にわかったよ。自分でも不思議だけど。なら少しは好きになって欲しくて……頑張ったつもりだった。でも、僕は間違いばかりしてた。君の気を惹くことも、僕がどう思ってるかも、伝えられてなかった」
ルーカスが静かに続けた。
「でも今は、疎遠になっていた間、嫌われていると思ったのがそもそも間違えてたと、思うようになったんだ。あれは僕が勝手に思ってたことだ。クロエに無視される自分が恥ずかしかったんだ。こうして話せば、前とクロエは変わらないし、そういえば植物ばかりだったなって。そして、僕のことだって、……植物の次くらいには好きかな? と思い始めてた」
「そうね、ケルベロスフワラーの方が好きだしね」
クロエが笑いながら言うと、ルーカスは肩をすくめてベンジャミンに向き直った。
「今に至ってこれだよ、どう思う?」
「まぁ、……そういうとこあるよね、クロエ」
ルーカスの冗談めかした言葉に、ベンジャミンはにこりともせず言った。雰囲気がとげとげしい。思わず、クロエとルーカスは目を合わせた。
「あの変な植物の何がいいわけ? マリアンヌ様が散々ほめそやしてたけど、俺にはさっぱりわからなかった。マリアンヌ様はクロエを崇拝しすぎてる気がする」
クロエは思わずニヤリと笑った。
「悪いけど、マリアンヌ様は簡単には渡さないわよ」
「なんのこと? 友情に厚くていいなと話しただけだよ」
「へー、そう? マリアンヌ様に惹かれないなんて、ベンジャミンは目がおかしいんじゃないの?」
「目はおかしくない。惹かれてないなんて誰が言ったんだ」
ベンジャミンは怒鳴り、我に返って顔を赤くした。クロエが黙って見守っていると、頭を抱えて髪をくしゃりとひねった。
「いつから」
「今初めて知ったわ」
「うそつけ」
「本当よ」
クロエが言うと、ベンジャミンは顔を青くしてクロエに詰め寄った。
「彼女は知らないだろうな?」
「だから……、私は今知ったのだから、マリアンヌ様が知ってるかどうかなんて、知らないわ」
「言うなよ。絶対に」
「言わないけど……」
別に言ってもいい気はする。だが、ベンジャミンはマリアンヌの気持ちには気づいていないらしいのだから、仕方がない。クロエがルーカスをちらりと見ると、ルーカスは親友の取り乱した姿にあっけにとられていた。
「全く……クロエはなんでもお見通しか」
「そんなはずないでしょう。だったら私はこここまでこなかったはずだもの。とっくにプラントハンターを目指して野山を駆け回ってるわ。効率悪いったらないわね」
クロエが文句を言うと、今度はルーカスがムッとした。
「そんなこと言わないでよ。僕と婚約するのは効率悪くないだろ?」
「……探偵になろうなんて、言わなければね」
「もう言わないよ。だって探偵にならなくても結婚してくれるんだもんね」
クロエはため息をついた。なんで探偵になるために結婚するなどと、そんな発想になったのか、やっぱり理解しがたい。
「私がルーカスと結婚する意思があるって、どう伝えるつもり?」
「宣言すればいいんじゃない?」
「それが本心だって、誰にわかるの? 私がこうして話を知ったなら、陛下はそれを元に、私がルーと婚約解消しないとならないように働きかけてくるんじゃなくて?」
「そう……だろうな……」
ルーカスが手を口に当て、考え込んだ。
「それに、マリアンヌ様はどうするの? 彼女だって、国に帰る時には、王太子殿下の花嫁候補から抜けてなきゃならないわ。そうしないと、彼女が花嫁候補の一番になってしまうかもしれない。私がまぬがれても、王妃になりたくないマリアンヌ様がなってしまったら、私悲しいわ。たくさん助けてもらったのに」
「でもそんなの、どうすればいいんだよ」
不機嫌なベンジャミンに、クロエは励ますように言った。
「何かできることがあるはずよ」
「……とりあえず君たちは、すごく仲良くして、誰も間に入れないと周知する必要があるね」
ベンジャミンの冷静な言葉に、ルーカスが顔を上げた。
「これまで以上に、どうやって?」
「それはどうにかしろよ。二人でイチャイチャすればいいだろ」
「僕はいいけど、クロエはしたくないだろう? そういう性格じゃない。無理はさせたくないし……」
珍しい。クロエのことを慮ってくれるなんて、何があったんだろう。今後、しばらくないかもしれない。
クロエはしばらくルーカスを見ていたが、確かに自分は人前でイチャイチャしたいタイプではないし、どうしたらいいのかもわからない。かといって、どうしたらいいのか……面倒になり、投げやりに思いつきを言い放った。
「そんなまどろっこしいことをしなくても……それなら、もう結婚してしまえばいいじゃない」
男性二人がぎょっとしてクロエを見た。




