11-5.なんなの? 探偵なの?
クロエは首を傾げた。
「言った……? かもしれないけど……」
「ルーカスは一字一句覚えてたよ。嬉しかったんだろうね。想像に難くない」
「そんなの……」
「それだけでもね、ルーカスには充分だったんだ。五年の隔たりを一気に戻したのは君だよ、クロエ」
ベンジャミンは微笑むと、クロエに頷いた。クロエの気持ちなんて、とっくにわかってるんだろう。なんでもかんでもバレてしまうのは、クロエが単純なせいなのか、ベンジャミンが賢いからなのか。きっとどちらもだ。
「確認はしていないけど、ルーカスはこう考えたんだと思うよ。周遊している間は、国の影響からは逃れられる。その間、ルーカスはクロエを独り占めできて、クロエは自分の趣味に没頭できる。その間に、クロエが、ルーカスと結婚すれば、自分のしたいことができると伝えたかった。でもルール違反はしたくなかった。君の気持ちを無理に動かしたくはなかったんだ。でもこのまま戻ったら、王宮から手紙が来るわけだから、ちょっとばかり焦って、急いだんだろう。結果、俺がしたんだけど、こうしてバレて、いい方向に転がったと思うけどね。どう、違うか?」
「……ベンジーはなんなの? 探偵なの? 心理学者なの?」
情けない声のルーカスに、ベンジャミンが笑った。
「クロエを前にすると、尊敬すべき”欠点なき男”も形無しだ。ルーカスには愛すべき欠点がある。クロエに対してだけは、冷静になれないんだよ。だから、許してやって。クロエを助けたいと思ったら、プロポーズして探偵にならないかなんて、ちょっと斜め上だろう? それと同じだ。君に風邪を引かせてしまったのが辛かったから、慌てて愚行に出てしまったけど、反省してるんだ」
ベンジャミンはいい友達だ。本当に。こんなに一生懸命ルーカスの擁護をしてくれる。なんでも知っていて、なんでも相談しあえる、利害のない親友。羨ましいことだ。
クロエはため息をついて頬を膨らませた。
「それがバカだっていうの。少しくらい私に頼ってくれたっていいのに」
しょんぼりしていたルーカスが、ふと顔を上げた。
「まさか……クロエ、……拗ねてる?」
「違うわよ」
「嘘だ。クロエ、もしかして、僕が何も言わなかったから……寂しかった?」
「……違う」
二度も否定したのにもかかわらず、ルーカスはクロエの顔を覗き込んだ。クロエは自分がどんな顔をしているかわからなかった。だが、ルーカスの満面の笑顔を見るに、怒っているわけではないのだろう。
「クロエが怒ってる本当の理由がわかった。僕のこと、心配してくれてるんだ。そうだろう? こんなことを計画して、勝手に実行したこと。君だけが気付かないなら、僕だけが断罪されればいいって、僕が思っていたことが、嫌なんだ?」
「そりゃ……そうでしょ。だって私、婚約してるのよ? それなりに環境に慣れようとしてたのに、無駄になるかもしれないなんて、ひどいじゃない」
「王太子妃になるなら、無駄にはならないよ」
「そうじゃないわ! 婚約したなら結婚するはずなのに、しない前提なんて、おかしいでしょってこと。ルーと結婚するつもりになってた私は何だったのって話よ」
すると、ルーカスは目を丸くした。
「僕と結婚するつもりだったのかい? 本当に?」
「そうじゃなければ、私、何しに来たのよ?」
「でも、……解消してくれって、いつだっていいって、……一人で生きていけるって言ってたし……」
「当たり前でしょう! あなたの気が変わればおしまいなんだから。あんな思いつき、すぐに飽きると思うのは当然だわ。私なんてすぐに飽きられると思ってたし」
「飽きないよ?」
すぐに混ぜっ返してくるのは余裕からか。クロエはムッとして言い返した。
「そうみたいね、残念ながら!」
「クロエ、顔が真っ赤だ」
「あああ……」
クロエが頭を抱えると、ルーカスはクロエの頭を優しく撫でた。
「可愛いな」
「やめて」
本当に。
クロエが身もだえしていると、ルーカスがふと呟いた。
「本当に……僕は、どこで間違えたんだろうか」
「何が?」
「植物しか好きじゃないことくらい、知っていたのにな。話し辛くなって、距離が開いてしまったら、とたんに分からなくなってしまった」
「それは……私も同じよ。勝手にルーカスに怒っていたんだもの。面倒くさがり屋の苦労知らずで、関わると碌なことがないって」




