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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case11.追求される助手見習いと提案する悪役令嬢
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11-4.お怒りの言葉

「クロエは僕よりマリアンヌ様の方が好きみたいだな」

「まぁ」


クロエは思わず残念な気持ちでルーカスを見た。


マリアンヌとルーカスは違う。マリアンヌを好きだからといって、ルーカスより好きということにはならない。


「どうして?」


クロエは首を傾げたが、ルーカスはうっすらと笑っただけで何も言わなかった。


「ルー……」


クロエはルーカスの腕にそっと手をかけた。それでも表情は変わらない。


「怒ってる?」


クロエが言うと、ルーカスはちらりとクロエを見てそっぽを向いた。だからクロエは続けた。


「私は怒ってるわよ」


すると思わずといったように、ルーカスはクロエに振り向き、目を瞬かせた。


「へ?」

「本当は、すっごい怒鳴りたいけど……我慢してるわ。さっきは、多少なりとも疑問を解消してくれたんだから、我慢はするものだと思ってるの」

「それはありがとう? でも……何をどんな風に怒っているのか、少しだけ知りたいんだけど、いいかな?」

「そう? でも聞かない方がいいと思うわ。ベンは元気になったら怒っていいって言ったけど」

「なら、僕とクロエの未来のために、聞きたいな。クロエがイライラをため込んだまま結婚なんてしたら、円満な結婚生活ができないじゃないか」


怯えたようになりながら、ルーカスは愛想笑いとわかる笑みを浮かべていた。


「……聞きたい?」

「うん」

「聞いたら、逆に怒ると思うわ」

「怒られて反省はするだろうけど、それで怒ることはないだろう?」

「……わかったわ」


クロエはすぅと深く息を吸うと、寝ている間に溜まっていた不満を、一息でルーカスにぶちまけた。


「本当になんだってあなたは……自分勝手なの? 私の未来のことで陛下と約束してくるなんて。タイムリミットなんて! 勝手に自分の中で考えて結論づけて先回りして……自分でもわかってるでしょ、そんなのガラじゃないんだって。慣れないことをするから、薬を間違えて飲むようなことになったのよ。心配かけないで欲しいわ! あなたみたいな人はね、誰かのためにとか、自己犠牲とか、そういうの、似合わないのよ。思い出作り? 嫌な思いをさせたくない? 私はルーカスと一緒にいて、嫌になったことなんて一度もないわよ!」


クロエは拳を握りしめて一気に言い放ち、深く息をついた。


「……はぁ、すっきりした」


そしてクロエはぐったりしてティーテーブルにうつ伏せた。


ちらりと見た感じでは、ルーカスもベンジャミンもティーカップを手に固まっていたが、そういえばクロエはまだ言い足りないことがあった。


クロエはうつ伏せたまま顔を上げた。


「あなたもよ、ベン」

「ヒッ」

「策を練るのがお得意なのは知ってるわ。誰にでも気安くて社交的で、でも真面目で冷静だから、いつも人には信頼されてるわね。だから噂話も人より多く耳に入るし、自分からは決してバラさないから、本当に信用があるわ。将来は王宮での内勤はほぼ決まりだし、今の研究だって国に戻って続けられる算段もついてる。ええ、優秀なあなたですもの、先のことまで考えてるわ。国に戻ってからの政治的な立ち位置なんてものもね。だからって、自分だけが先んじていることに優越感ばかり抱いて、それにあぐらをかいて上から目線で、自分の気持ちすら放っておいて、状況判断しかできないなんて、男の風上にも置けないわ!」


そしてクロエは起き上がると、手に拳を作り、立ち上がった。


「だいたい、二人とも自分ばかりが先に知っていて、勝手に諦めて、無理な策を練って、私に相談しないとかありえないわよ。当事者は私で、あなたたちじゃないでしょう。ちなみにね、私がそんなことで自信を失ったり自暴自棄になったり、はたまたやたらと自意識過剰になったり派手になったり、そういう人間に見える?」

「見えません」

「それは良かったわ。見えてたなら、幼馴染としてがっかりしていたところよ。それなら、一番に私に言って欲しかったわ。陛下との約束? 私にだって状況を把握する権利があります。私だって、……ただの令嬢で、政治の駒でしかないけれど、でも、守ってもらうだけなんていやよ。私は断固戦うし、権利を勝ち取ってみせるわ。王太子妃なんて、絶対ならない!」


 クロエの渾身の魂の叫びに、ルーカスとベンジャミンは身動きひとつしなかった。だが、先にベンジャミンがティーカップをソーサーに置いた。


「あまり……ルーカスを怒らないでやって。俺はいいけど、ルーカスは君に怒られたら二重に辛い」

「だから……聞かないほうがいいって」


クロエは少々バツの悪い思いでそっぽを向いた。


「俺たちは先回りする癖がついてしまったからな。クロエは守ってあげて喜ぶ人じゃなかった。でも、忘れないで。ルーカスは君の望みを叶えたかっただけなんだから」

「私の望み?」

「探偵でも、プラントハンターでも。君の夢を叶えたかったんだよ。実際はなれなくても、それに近い仕事でもいい。ルーカスは応援したかったんだ。嬉しかったから」

「何が?」

「五年疎遠だったのに、プロポーズのとき、君はルーカスを前のように親しげに”ルー”と呼んで、こう言ったんだ、覚えてる?」


ベンジャミンはにっこりと笑った。


「『探偵? ルー、あなた、探偵になりたいの?』」




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