11-3.正直な不満
ベンジャミンは顔をしかめてクロエに顔を向けた。
「冗談はさておき、」
「どれが冗談?」
「君をちやほやする話。そういう政治が嫌だから君を推してる人もいて、公爵様と懇意にしてる方々と対立してるんだ。貴族ってどこかで誰かが繋がっているだろう? ウェントワース侯爵家は、そういう意味ではかなり特殊だね。外交や開拓を重視しているせいか、国内政治には完全に中立だ。それがクロエやマリアンヌ様を推す動機にもなっていて、それなりに支持されてきた。きっと王太子殿下には、君を褒める言葉がたくさん届いていることだろう。もちろん、陛下にもね。それで気に入られたんだろうね」
迷惑な話だ。
「でも、陛下の思惑や貴族の思惑とは、王太子殿下は離れたところにいる。何しろ、よくできた人だから」
「だから?」
「自由意志も強くて、自分で選びたい。それには逆らえないよ。なおかつ、慎重な人なんだ」
「……ちょっと面倒な人なのね?」
「自分で”性格はあれこれ言われようと”って言ったじゃないか」
「そうだけど……」
クロエは眉をひそめた。あまり納得のいく話ではない。だが、全てに納得がいくこともないのだから、何らかの答えが得られただけでもマシだろう。
「それじゃ、公爵様を推している勢力は、私とマリアンヌ様の評判を悪くして、あとの二人を選ばせたかったってこと? 私が惨めな状況になるように画策して……」
クロエは話しながら合点がいって、手を叩いた。
「なるほどね、あれらの実行犯たちを支援したんだわ。変だと思ったのよ。バラ事件の時だって、ポールの恋人と犯人の令息の恋人と、職場が同じだなんて、やっぱりちょっと出来過ぎな気がしたの。それに、その前の鸚鵡が逃げた時だって、確かに恨みはあったのでしょうけど、鳥かごの鍵を手に入れるのがあんなに簡単なのはおかしいと思ったのよ。それが気になってしまって、罠かもしれないと思って……だから、いつも未然に防ぐことはできなかったんだわ」
すると、ベンジャミンが呆れた顔でクロエを見た。
「罠だと思う方も思う方だけどね。それだけ、クロエには味方がいなかったってことか」
「それは私自身も悪かったと思ってるわ。ルーカスとの噂を無視して、ウェントワース夫人と親しくしていたんだから。でも、ウェントワース夫人は、唯一、植物の話を一緒にしてくださる貴重な方だったんですもの、話の合わない同年代の令嬢を気にしていられなかったのよ」
「植物、植物、ね……本当に君はぶれないな」
ルーカスが呆れたとも面白がるとも言えない口調で口を挟んだ。クロエが口を尖らせると、ベンジャミンは二人のやりとりを笑った。
「そういう意味では、クロエは思わぬ伏兵だったね。だからこそ、陛下も気に入ったのかな。ルーカスとの噂も実を結ばず、まさか、社交界から姿を消さないばかりか、こんな風に令嬢を味方につけて、マリアンヌ様と親しくして、相手をやり込めるなんて思わなかったんだ。かといって、うまくいったところで、みんなが望むような対応をしてくれるとは思えないけど」
自分で頷きながら、ベンジャミンは説明を続けた。
「反対勢力は、そこに目をつけたんだ。君を担ぎあげれば、バランスのいい勢力図になるって」
「つまり、そのために、冤罪対策に奔走している私を助けることもなく、嫌がらせを止めることなく、私が潰れても構わなかったと。そういうことね……」
クロエはそこまで言うと、黙り込んだ。すると、ルーカスはクロエの手に自分手を重ねた。
「ほら。いい話じゃなかったじゃないか。だから今は聞かない方がいいって言ったのに。だいたい、それでどうしてクロエなんだ。マリアンヌ様だって同じように嫌がらせされていたじゃないか。クロエより人気があるなら、そっちでいいのに」
「やぁね、ルーカス。マリアンヌ様はね、みんな、自分の息子の嫁になって欲しいと思ってるからよ。私が筆頭候補になるのは、みんな都合が良かったんだわ」
クロエはうっすらと微笑んだ。
「どうして私が一番適していると思われてるのか、不思議だったけど、これならよくわかる気がするわ。第一、人見知りだし嫌われ者だし、もっと人気者である方がいいじゃない。マリアンヌ様みたいな……」
と言っても彼女は、それなりに天真爛漫だということが問題になる気もする。それが陛下の懸念どころだったのかもしれない。だが、そんなの細かいことだ。王妃になるのだ、クロエの方が問題な気がする。やはり人間、第一印象が大切だ。
「身分のことを思うと、王太子妃候補は、貴族ならせいぜい伯爵家出身がギリギリだと思うのに、男爵令嬢が推されるなんて、異例よね。マリアンヌ様がどれだけ素晴らしい方か、よくわかるわ」
クロエがうっとりと言うと、ルーカスは頬杖をつき、不思議そうに首を傾げた。




