11-2.不愉快な真相
「確かにね」
ベンジャミンが頷き、クロエはホッと息をついた。
「でも今回の、陛下のお話を聞いて、気づいたの。私の……”クロエの”邪魔をするなら、ある程度絞れるんじゃないかしらって。それでも、噂の出来事を知っていたって、普通の貴族は、おいそれとは手を出せないわ。だから……手紙を止めたのは、陛下なんじゃないかって思ったの。ルーカスが私にプロポーズをしたのを知った時、陛下はまずは邪魔することを考えたのよ。王太子殿下を説得するのは後回しにしてね」
どっちにしろ、今までもこれからも、王太子殿下のお眼鏡には敵うわけがないと思うのだが、どうだろうか。
「よく思いついたね……」
ベンジャミンが深く息をついた。
「概ね合っているんじゃないかな。ルーカスも俺も、最初は陛下がルーカスを王女殿下と結婚させようとしてるのかと考えたんだ。でも、……調べたら違ってた、ってこと」
ベンジャミンの言葉に、クロエはため息をついた。
「でも私、陛下と会ったこともないのよ? なのに気にいるなんて、変じゃない?」
クロエが言うと、ベンジャミンはことも無げに続けた。
「陛下は全ての令嬢を検討しているよ。能力があればいい、とおおらかな方だから」
「だとしても、殿下と会ってもいないのに。それに、なんといっても、対立候補は公爵様のお気に入りよ? 断然、有利じゃない。王太子殿下とは親しいはずだし、いくら推薦されたって、公爵様が贔屓にしていれば、当然、殿下と親しくなる機会もあるだろうし、お選びになる可能性が高いのだから、焦る必要なんてないでしょう?」
「うーん、そこがね……俺にも不可解なんだけど……結局、王太子殿下はお選びにならなかったってわけだ。お相手に申し分なく思えるけど、そういう人は好みじゃなかったんだろう」
クロエは首を傾げた。
「そんな単純な理由で? 殿下の意思に任せなくても……」
「クロエ、君は王太子殿下のことをどれくらい知ってる?」
「それが……」
クロエは言葉を濁した。
「私、王太子殿下がどんな顔してるのかすら、よく知らないのよね」
「あんなに有名なのに?」
ベンジャミンの言葉に、クロエは首を傾げた。
「知ってるはずだけど……第二王子の方が知ってるような?」
「それはね、第二王子はルーカスの友達だからだよ」
「そう?」
「そりゃそうさ、そうじゃなきゃ、覚えられないだろ。クロエは人間ならルーカスのことしか興味ないんだ。そんなこと、誰も知らないで」
ベンジャミンがため息をついた。そんなこと、クロエだって知らない。
「なんでかなぁ」
「まぁ、ベン……私だって少しくらいは覚えていることはあったわよ。お茶会や舞踏会で聞いた話では、王太子殿下は、えぇと、性格はあれこれ言われようと、一定の評価はされてしかるべき方だって知ってるわ。殿下には信頼できる部下がたくさんいて、その方たちが財政や国務をしっかりやってるんだと、とっても評価が高いみたい」
「よく知ってるね」
「おかげさまで、ここのところ、冤罪を晴らすための準備として、情報収集はとても大切だったものだから」
クロエが言うと、ベンジャミンは同情するような視線を投げかけてきたが、それには言及せずに頷いた。
「そう。稀に見る平和な時代だ。次代の国王に心配もなく、支持率も高い。正直、王太子殿下が選ぶ方なら、散財することも冤罪を作ることもないだろう。かなり強い監視もつくだろうしね。だから、ちょっと悪いことをしたい野心家にとって、今回の王太子妃を推すには、ちょっと旨味が足りない」
ベンジャミンは言った。さすが裏事情に詳しい。
「そんなの、私を推すって時点でわかったことよ。私を推すのは、誰にでも公平な立場の令嬢がいいって思ってるのよね? それはマリアンヌ様も同じこと……でも他の令嬢は公爵家の後ろ盾があって、公平性にたりないんだわ」
「それだけわかってるなら、理由なんてわかるでしょ?」
「わからないわよ。殿下に秘密裏に花嫁候補を選んで、勝手に推薦して、贔屓にしてきたのよね? だったらやっぱり、そこにはメリットがあるんでしょう」
「そうなんだろうね、やっぱり。誰も君の性格なんて知らないから……ちやほやすれば、便宜を図ってくれるとでも思ってるかもね」
「きっとそうよね……」
クロエは呆れて肩をすくめた。
「マリアンヌ様は性善説で、誰にでも優しいから、公平に”優しく”してくれそうだし」
「そういう意味では、君がなってみても面白いような気がしてきたよ。……いや、怒らないでくれ、ルーカス。仮定の話で実際そうなって欲しいわけじゃない」
ルーカスが鬼の形相でベンジャミンに蹴りを入れていた。
話、聞いてるんじゃない。




