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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case10.ねじれた結婚相手と目覚めの婚約者
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10-8.恋人の目覚め

 ルーカスの手に誘われるまま、クロエは恐る恐るベッドに近づいた。おずおずとルーカスの手を取ると、深呼吸をした。まだ心臓がドキドキ言っている。


なんだか変だわ。急に気持ちがほどけてしまったみたい。


「あなたこそ……覚えてるんじゃない。忘れたかと思ってたわ」

「忘れてないよ」


そしてルーカスはクロエを自分の方へ引き寄せ、苦笑した。


「忘れてないさ……なのになんで……そんな簡単に言ってくれちゃうかなぁ……」


クロエは首を傾げた。


「何を?」

「『ついてきて』なんてさ」

「おかしかったかしら」


クロエが思わず手を口に当てると、ルーカスは清々しく笑った。驚いたことに、逃げ出したくなるほど、ときめいてしまった。そんなことってある?


「侯爵の後継の僕に、そんな簡単に言う?」

「だって……」

「君は散々、僕がプロポーズしたことを怒ってたし、婚約解消して欲しいって言ってきたじゃないか。それなのに……君が助手になるから僕に探偵になれって。無理なら君の秘書になれって。その上、僕が何を得るのかって? そんなの、君に決まってるだろう……まったく、本当に、予測もつかない」


そしてルーカスはクロエの手に頬を摺り寄せ、キスをした。


クロエは目を丸くした。


二十五歳のルーカスは、こんなことしないわ。こんなに無防備で、隙ばかりの表情を見せるなんてことない……そう思ってたのに。


固まっているクロエを気にもせず、ルーカスはクロエを自分に引き寄せた。


「でも僕は決めたよ。僕はクロエのためなら、なん」


なんだってできる気になってきた、と言おうとしただろうルーカスは、一瞬言葉を切って、クロエの胸元をじっと見つめた。


「……なんでそのネックレスをつけてるんだ? あっ 耳飾りも! 髪留めも! 腕輪も……指輪も?」


外しておけばよかった。クロエは後悔しつつ息をついた。


「……あなたが言ったのよ。つけてくれって」

「嘘だ。どんなに言ってもつけてくれなかったのに。何があったんだ?」


嘘でしょう? また一から説明しなきゃならないの?


「薬を飲んだのは覚えてる? じゃ、こうなるまで何があったのか知ってる? 知らない? それなら教えてあげる。あなたは記憶退行を起こして、十歳と二十二歳になったの。そして、私は十歳のあなたに会ったのよ。可愛かったわ。お願いされたらつけるしかないでしょ」


素直すぎて二度と会いたくないけど、やはりルーカスは可愛かった。あの性格だからクロエはルーカスを甘やかしてしまったのか、甘やかしたからあの性格だったのか……


「迷惑かけた……ごめん」

「構わないわ。あなた、本当に手がかかる人なのね」


クロエは言ってから、自分のことを棚に上げてるように感じたが、ルーカスは紳士的にもそれを指摘しなかった。


「今の僕も?」

「もちろん、今のルーカスのことよ? 意地悪だし強引だし誤魔化してばっかりだし、何考えてるかわからないし……」


クロエの憎まれ口に、ルーカスががっくりとうなだれた。


「クロエ……、頼むよ。いいところがたくさんあるから、一つ増えても減っても困らない、って言ってくれただろう?」

「言ったわ。でも、いいところがたくさんあるってことは、自分でも知っているでしょう? みんなに褒められているんだし」

「それはそれ。クロエから見て、僕はどうなのか知りたい」

「私からから見たルーカス?」


クロエは首を傾げて改めて考えた。クロエから見たルーカス。


「そうね……面倒くさがりで、怠け者で、秘密主義で、意地悪で……」


言いながらクロエは、開きかけたルーカスの唇に人差し指を置いた。ルーカスが不満そうだけど嬉しそうな、複雑な顔でクロエを見る。


……でも気遣ってくれて、信頼できて、助けてくれて、クロエを丸ごと受け入れてくれる。


認めよう。


知れば知るほど、悪いところも愛おしく思えてくる、それがクロエにとってのルーカスだ。手がかかっても面倒でも、振り回されてもうんざりしても。クロエはどんなルーカスだって、彼がルーカスである限り、誰より大切なのだ。


迷惑をかけたくなくて、逃げ出したくなるくらい。


結局、そういうことなのだ。


「……でも……何もしてくれなくても、あなたがあなたであればいいの。そこにいるだけでいいのよ、私のうぬぼれ屋さん」


するとルーカスは一瞬きょとんとした後、目を輝かせた。


「植物の次くらいには好かれていると……うぬぼれていいのかい、僕の植物屋さん」

「どうかしら」


クロエはうっすらと笑った。


「一人で抱えていたことを、全部教えてくれるならね」


クロエの言葉に、ルーカスが言葉を詰まらせた。


「う……うーん?」

「さっき、私が言ったこと覚えてる? ベンに聞いたのよ。全部聞いたの」

「……うーん……」


目下、解決していない問題はあるが、こんな風に心配をかけたことを、ルーカスが反省してくれるなら、きっと自ずと解決するだろう。


少なくとも、これまでのことは話してくれるはずだ。


例えば、クロエに送ったはずの手紙を、送り損ねたと嘘をついた理由なんかを。




cese10 END


マリアンヌのサイドストーリーを挟んで次章です。


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