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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case09.幼き日の婚約者と延長線上の幼馴染
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9-8.振り回されるわたし

ルーカスがそんなことで声をかけられないなんて。


見とれて、遠くて、楽しそうで、それから? 気後れして? 自分とは関係ない人だと思い込もうとして?


それは自分だ。


「私が誰と結婚しようと、関係ないって言ってなかった?」

「そうだよ。僕は……クロエが楽しそうにしてるだけで満足だ。友達になったばかりだけど、マリアンヌ嬢が近況を教えてくれるし、それで満足している」


ベンジャミンがため息をついて口を挟んだ。


「ルーカス……それなら、なんでここにクロエがいるんだと思う?」


すると、ルーカスはしばらく考え込んだ。


「もしかして……僕は病気? え? 何? 僕、死ぬの? だから大切な人を集めて会わせてくれるって?」

「違うよ。単純なことだ。クロエが君と婚約しているからさ」


ルーカスは目を丸くした。


「僕と……? なんで? 僕はクロエとは関係ない。僕は……結婚なんかしない。そう決めたはずだ……」


クロエにはよくわからなかった。


探偵の話はどこに行ったの? 何より好きなのは探偵で、クロエはその素質があると勝手に考えていただけなんじゃないの? この頃はそんなこと思っていなかったなんて、そんなはずはない。観察していたのはそのためなんでしょう?


「じゃ、なんでプロポーズなんてしたの?」


ルーカスがぎょっとした顔でクロエを見た。


「しっ……してないっ」

「『クロエじゃなきゃ嫌だ。クロエの一番は僕がいい』って言ったじゃないの」

「そ……」

「私といられるなら、それだけで元気が出る、とても落ち着くし、幸せだ、だから一緒にいて欲しいって、言ったでしょう? それも言ってないというの?」


違った。言ってないや。これ、さっき十歳のルーカスが言ってたことだ。プロポーズと関係ない。


気がついたが、もう遅い。クロエは自分に突き刺さる、ベンジャミンとベルビンの視線を痛いほど感じていた。相当ニヤニヤしてる。顔が……ええ、顔に出てるそこの二人! でもそうじゃないから。別にこの言葉にほだされたわけじゃないから。決して!


うっかり間違えたことにクロエは一気に冷静になったが、ルーカスはそうではない。逆に混乱させてしまったようだ。


どうしよう。


クロエは慌ててベンジャミンに耳打ちした。


「ベン、ごめんなさい。ルーカスが混乱してしまったわ」

「構わないけど……それ、本当に言ったの? 捏造してない?」

「してないわよ! ただ、その……さっき、ルーカスが十歳に記憶が戻った時に言ったの。私の記憶に新しくて、間違えたわ」

「そうか。なるほどね……ま、”探偵にならないか?” ってプロポーズするより、ずっといいね」

「バカにして」

「いや。羨ましいのさ。いつまで経っても変わらないルーカスの気持ちがね。そんなまっすぐに一人を思える人もそういない。ちょっと歪んでるけど」


そして、ベンジャミンは笑った。


「君もだよ、クロエ」

「そ……」


そんなわけがない、と言いかけて、何も言えなくなってしまった。


「でなきゃこんなに頑張れないよ。ルーカスの好きな色だって、何年話してないのかだって、こんなに覚えていられない」

「ベン!」

「顔が赤いなクロエ。外の空気を吸ってきた方がいい」


ベンジャミンがすかさず促し、クロエを部屋から押し出した。


「まずはルーカスを落ち着かせるよ。とにかく、現状の説明が終わるまで、クロエは外で待ってて」


クロエはつまみ出されるように廊下に出され、瞬く間に閉まったドアに、後ろ手に寄りかかった。


どこへ行こう。


自分にあてがわれた部屋を出る羽目になり、クロエは途方にくれた。だが少し考えて、ふと思いついた。


温室へ行こう。ティーテーブルがあるから、そこでお茶を飲もう。


クロエは廊下に控えていた侍女に声をかけて告げると、温室へ向かった。


クロエはこの温室へ行くのがいつも楽しみだった。ティータイムを楽しむための、ごく小さい温室だったが、長居しない屋敷では、充分だった。


そうよ。ケルベロスフラワーの様子を見に行こう。




case09 END


今回は、サイドストーリーなしで、このままcase10へ続きます。



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