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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case07.噂の悪役令嬢と交代する探偵
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7-8.誤解の解き方

「ワイン……」


その言葉に導かれるように、ルーカスが前に一歩出て、つぶやいたジークリンデの手を取ってかしずいた。


「ええ、そうなんです、ジークリンデ・ボッシュ嬢。実は、今回、ケスラー伯爵のブドウ畑も見学に行こうと思っておりまして……その前にお嬢様とその御婚約者様にお会いできたのは、不幸中の幸いでございます。こんな時でなければ、もっと喜べましたものを。無作法で失礼いたしました」

「まぁ……そうでしたの……」


うまく話が繋がった。クロエはホッとして様子を伺った。すると、ジークリンデがぼんやりとルーカスに問いかけた。


「私……でも、あの、……グレゴリー様は……?」

「アレント殿でございますか? ええ、ご立派な方ということで、ローゼ様も絶賛しておりました。先日ご一緒した時に、国立植物研究所の話をしていただいたんです。とても優秀で、信頼できる、素晴らしい人物と聞き及んでおりますよ。こうしてお会いしましても、婚約者様のことを大切に考えてらっしゃる素敵な方だと僕は感じております」

「国に連れて帰る……研究者は……?」


やっぱりそうだったんだ。クロエは心臓が高鳴るのを感じた。ジークリンデはクロエがグレゴリーをスカウトしに来たのだと思ってる。


「なんのことでしょう?」


ルーカスが何もわからないかのように、不思議そうに首を傾げる。ジークリンデはクロエを見上げ、同じように不思議そうな顔をするクロエを見て、深くため息をついた。


「ごめんなさい」

「謝ることなどございませんよ。こちらこそ、急に買い付けの話など無粋なことを」


ジークリンデは頭を振った。


「いいえ、いいえ、違うんです。私が……」

「僕たちは、もう戻ったほうがよさそうですね。あなたの体調が戻るまで、僕たちも無粋なことはいたしません。犯人探しはこちらで進めさせていただきます。愉快犯でしょうから、見つけるのはそう難しくはないでしょう。クロエは犯人探しがとても上手なんです」


そう言って、ルーカスは、はにかんで得意そうに微笑んだ。本当に何も知らないかのように。


クロエは思わず首をかしげそうになってしまった。


……さっき言ったこと、覚えてるわよね?


ジークリンデが自分で騒ぎを起こしたと、クロエが考えていること。だがルーカスは微塵も感じさせていない。ただ優しく、丁寧で、それが逆に焦りを感じさせる。


誤解を解かなければ。”正直に罪を告白しなければ”。そんな気にさせられる笑顔だ。


これがルーカスの外交力……完全に策士になれる。面倒臭がりの怠け者でよかった。


ジークリンデの表情に迷いが生じた。


でも、そうしたらバレてしまう。ジークリンデがクロエの悪い噂を信じたことを。


おそらく、グレゴリーは良い噂を信じ、それについて苦言を呈したのは想像に難くない。ローゼから話を聞いていれば、クロエが彼女の悩みを解決したことを知っているからだ。そしてそれを、ジークリンデはクロエの元で働きたいと思っているのだと誤解した……


「あの……」

「あぁ、気にしておられますか。飲み物に長けたお嬢様が、お酢を毒と間違えたからといって、誰も批難するようなことはしませんよ。ならばこその勘違いがあることでしょう」

「違うんです、お待ちください。待ってください……」


言いながら、ジークリンデは自分の手をぎゅっと握った。


「私、私が……」


だが何も言えず、ジークリンデは押し黙った。グレゴリーがジークリンデに寄り添い、頭を撫でた。


「ジーク、どうしたんだい? お気遣いに感謝して、お願いしよう。そして、ワインの話はまた今度に」

「違うの。違うの、グレゴリー様……」


ルーカスがちらりとクロエを見た。クロエは視線の意味を理解した。


……ちゃんと覚えるみたい。


そして、もうジークリンデは大丈夫だろう。むしろ、引き延ばさない方がいい。


クロエが頷くと、ルーカスはグレゴリーを見て、またジークリンデに視線を戻した。


ほろほろと涙をこぼすジークリンデにルーカスが優しく言った。


「自分で飲んだんですね?」


グレゴリーが一瞬、動きを止めた。ジークリンデは震える肩を自分で押さえながら、静かに頷いた。


「……はい」




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