7-7.研究成果の上げ方
向かいながら、ルーカスがクロエに慌てて話しかけた。
「どうしてそんなことを? 君のせいって? グレゴリー・アレントと知り合いなの?」
「いいえ、知らないわ。初めて会った」
「それなら、なんで?」
「もしかして……彼女はこう考えているんじゃないかしら」
クロエは植物が好きで、自分の国でも植物産業を発展させたいと意気込んでいる。そのことを、エマやローゼが彼らに話している可能性は高い。もちろんそれができたらいいと思ってるけど、クロエの権限では何ができるわけでもないし、すぐにできるとも思ってない。
だが、ジークリンデはそれを単純には考えなかったのではないか。
何しろ、クロエはやり手の外交官の婚約者だ。きっと権力があって、お金もあるに違いない。その権限で、クロエは無理やりエマと知り合い、ローゼを紹介させ、グレゴリーに花を選ばせた。
「それはもちろん、自分の国に彼を連れ帰るためよ」
クロエは利己的で他人のことを考えないから、無理やりにでも連れて行くつもりだろう。グレゴリーは婚約者と自分の仕事の間で揺れてしまう。
「まぁ、確かに……名誉貴族だろうがなんだろうが、平民の出ということで、扱いはいいものとは限らないね。結局、名誉貴族にするということは、この国から出るなということだから。既存貴族のジークリンデ嬢と結婚してしまったら、他国に就職するのは難しい。この国の一研究員でいるより、隣国の第一人者の方が、好きな研究ができるかもしれない。そう考えたってことか」
ルーカスの言葉に、クロエは頷いた。
「そうだと思うの」
「なるほど。そして、彼女は自分が身を引くことを考えた」
「えぇ」
「つまり、こういうこと?」
結婚する前に、ジークリンデが失態を犯せば、グレゴリーは自分から離れることができると考えている。
今日のような日に、グレゴリーとクロエと出会うような日に。きっと今日は、クロエが無理にルーカスに頼んで、グレゴリーの出る舞踏会に出席しに来たのだから。
ルーカスは言い終えたところで、頭を振った。
「理屈は通るけど、本当にそんなこと、考えるものか?」
「そういう人はいるものよ。責任感が強い人ほど、考えてしまうのかもしれないわね」
「君はそんなこと考える?」
「何が?」
「僕とのことを……」
「そうね。探偵なんて自分ですればいいと思ってるわ」
「クロエ、そのことだけど」
ルーカスが続きを言う前に、ジークリンデが休んでいるだろう部屋に着いた。
ドアをノックし、クロエが顔を出すと、ジークリンデはさめざめと泣いており、グレゴリーはそんな彼女をなだめるので悪戦苦闘していた。
「どうなさったんですか?」
ルーカスが声をかけると、グレゴリーはあたふたとルーカスに頭を下げる。
「それが……医師に診てもらって落ち着いたら、泣いてしまって……」
「何か話をしましたか?」
「えぇと……お二人の話はしましたが……」
「僕と? クロエの?」
「ええ。お似合いで素敵だと言う話です。噂が錯綜していましてね、クロエ・ソーンダイク嬢がとても意地悪で酷い人物だと言う方と、高潔で聡明な方だと言う方が。その話をしていたら、泣いてしまって……」
うつむいていたジークリンデが、クロエを見た。自分がジークリンデを問い詰めることはできない。なぜなら、憶測が正しければ、これはクロエが自分の噂を否定してこなかった弊害だ。むしろ自分のせいだと謝りたい。だが、あちらで調べれば、すぐに彼女がしたことだと気づかれてしまうだろう。どうにかして自分から告白してもらわねばならない。どうしたら……
クロエは緊張で震えそうになる手を押さえ、なんとか落ち着いた笑みを浮かべた。
「お身体はご無事で何よりですわ、ジークリンデ様。突然お伺いして申し訳ありません。お話ししても?」
「……えぇ」
「あぁ、そういえば、グレゴリー・アレント様」
「はい」
「先日は、ローゼ様にケルベロスフラワーをお勧めいただき、ありがとうございました。とても素敵な植物で、本当に毎日飽きません」
「それは良かった! お勧め甲斐があったというものです」
ニコニコと微笑むグレゴリーを見ながら、ジークリンデがまた泣きそうに目を潤ませる。
「それで私、……その、今回の旅行の最初の記念に、ワインを家に送ろうと思いますの」
ルーカスが驚いた顔をしたが、私は話を進めた。
「ケスラー伯爵家のワイン畑は、最先端の肥料と育成方法で、本当に美味しいワインを作るという評判でしたので、とても楽しみにしておりました。私の国に入ってくるワインでは、種類は豊富とは言えませんもの。ですから、お二人に選んでいただきたいと思いまして、無作法とは思いましたが、こちらへやってきましたの。この機会に、お二人の結婚祝いにも、何か贈らせていただけたらと思いますわ」
クロエがにこりと微笑むと、ジークリンデは唖然としてクロエを見つめた。




