7-6.事実との結び付け方
「まぁ、……名誉貴族の名声が欲しい、斜陽の貴族はいるからね。その可能性はないでもない。でも、ケスラー伯爵はこの国でも有数の資産家だ。今回みたいに小規模で感じのいい舞踏会にワインを納品できるのは、信頼があってこそだ。その上で、ちゃんと納品したワインを確認する意識のある、しっかりしたお嬢様だよ。公爵家からの申し出さえ、はねのけられるかもしれない」
「そうね、斜陽なんてはずがない。私だって知っている名前ですもの」
クロエが頷くと、ルーカスは微笑んだ。
「……あぁ、クロエがちゃんと勉強していてくれたなんて、知らなかった。特産品についても覚えていてくれたし、この国の貴族たちのことも覚えてくれて、嬉しいよ。本当は僕の」
「だって、ケスラー伯爵家のワイン畑は、最先端の肥料と育成方法で、本当に美味しいワインを作るのよ! ブドウだって美味しくて、新しい品種も研究なさってるそうなの。だから、一度会ってお話ししてみたくて」
ウキウキと目を輝かせるクロエの目を、ルーカスは心配そうに覗き込んだ。
「君は僕と婚約してるんだよ?」
「えぇ、それが?」
「それに、長男は結婚してるよ?」
「未婚じゃないと話してはならないの?」
「そうじゃないけど」
渋るルーカスの顔を見て、クロエは突然言い出した意図が分かった。クロエは呆れて腰に手を置いた。
「……どうして私がボッシュ家に嫁入りしたいなんて発想になるの? 婚約しているのはあなたよ。どこの誰が自分の婚約者に別の家への嫁入りの話をするっていうの?」
「でも……僕の家はブドウ畑もないし、品種改良もしてない……ただの外交と開拓の責任者だし……」
「そのおかげで、私はこうして一緒に連れて来てもらえてるのよ。感謝こそすれ、不満なんてないわ。植物研究だって話を聞いたり、施設に連れて行ってもらえる約束をしているし……畑だって観に行く予定でしょ。森や乾いた土地の開拓について、見学と調査をお願いしに行くのも、連れて行ってくださるんでしょう?」
「う……うん……」
「ね、私にとってこれ以上に嬉しいことはないわ。私、いろんな土地でいろんな植物に出会えるのがたまらなく嬉しいのよ!」
「そう……だよね……植物、植物……」
ルーカスが悲しそうに呟いた。何よ。何が不満なのよ。そのために来たのよ。だから探偵になんていうルーカスの無茶な要求にも、ついていってるんでしょうが。
「ところで、名誉貴族って、彼はどんな功績をあげたのかしら?」
「あぁ。植物研究だよ。画期的な肥料開発をしたんだ。エマ様が取引している国立研究所の一員でね。ローゼ様夫妻とも知り合いだそうだ」
「そうなの?」
クロエは驚いた。ルーカスはそもそも、ローゼからグレゴリーの話を聞いていたのだ。いつだろう、と思うと、先日の食事会の時だとしか思えない。クロエがアッカーソン夫妻とピンクマリアンヌの話をしていた間、フィンケ夫妻と国立植物研究所の話をしていたのだ。
「あらやだ」
そして、クロエはローゼからの手紙を電撃的に思い出した。
「ケルベロスフラワー!」
ルーカスが首を傾げた。
「は?」
クロエはルーカスの胸元に抱きつき、勢い込んで話した。
「私のためにケルベロスフラワーを推薦してくださった方よ、きっと。だってローゼ様がとても優秀だとおっしゃってたもの。きっとそうよ。だって、グレッグって、グレゴリーの愛称じゃない?」
「そうだけど……」
「こ……」
こんなことってある?
「クロエ……?」
ルーカスが励まそうとしたのかクロエを抱きしめた。クロエはいつものように嫌がる暇もなく、考えを巡らせた。
もしかして?
「私の……せい?」
「まさか?」
ルーカスが驚きにクロエを引き離した。
「わからないけど、彼女が休んでいるところへ行きましょう」




