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彼女は悪役令嬢であって探偵ではない  作者: 霞合 りの
case07.噂の悪役令嬢と交代する探偵
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7-4.探偵の交代の仕方

「名誉貴族?」

「研究や開発などで、大きな功績をあげると、国に認められて、貴族の称号が与えられるんだ。それは騎士から侯爵まで、国への貢献度によって違う。一代限りとされているから、名誉貴族を貴族じゃないと言う人もいるけど、素晴らしい人物なのは変わりがない。ともすると、既存貴族の方が、肩書きに溺れてダメな人が多いかもしれないね」


ルーカスがウィンクをした。クロエは不意に、彼が幼い頃に、身内で言われていたあだ名を思い出し、クスリと笑った。


「あなたのことね」

「僕?」

「面倒くさがりで怠惰なルー坊や」


言いながらクロエはルーカスの鼻をつついた。


「なっ」


ルーカスが一瞬で耳まで赤くなった。


「あら。ごめんなさい」


そんなに恥ずかしい称号だったなんて知らなかったわ。クロエは慌てて謝り、視線を周囲にめぐらせた。


クロエたちを囲む貴族たちの視線、ざわめき。

慎重に食事を整理する給仕たち。


おそらく、クロエの一連の行動を見ていただろう人たちが、クロエを心配そうに、だが困ったように見ている。考えてみれば、クロエがどうにかなったら、国際問題になる。国内だけの問題だったら、クロエが出しゃばる必要もなく、ことを大きくしたことになってしまう。余計なことをしてくれたと思うだろう。


でも、誰も彼女を助けようとしなかったじゃないの。


クロエは少し気分を悪くした。ジークリンデは高名な貴族で、関わるのは難しいことかもしれない。だが、苦しんでいる人をそれだけのために放っておくことは、自分にはできない。植物だって、人の手をかけるときは、放っておいたら枯れてしまう。貴族令嬢なんて手塩にかけられた存在、ひとたまりもない。


「失礼いたします。先ほどはありがとうございました」


クロエたちは執事らしき人物に声をかけられた。


「ただいま主人は対応に追われておりまして、ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありません。後ほど改めてご挨拶をしたいと申しております。して、ソーンダイク令嬢、お体の方は……?」

「ええ、大丈夫よ。お味が変だから間違えたのでしょうけれど、毒などではありませんでしたわ。他のワインを確認して、お食事はこのままでも大丈夫でしょう。でも念のためを思うなら、食事は下げた方が良いかもしれませんわ」

「承知いたしました! 警察などを呼ぶようなことでしょうか? 主人は、あまり大ごとにしたくないと考えておいでで」


クロエがちらりとルーカスを見ると、ルーカスは頷いた。


「そうですね……病人や死人が出るようなことがあれば呼んだ方がいいでしょう。ですが、今回は内輪で解決できそうですし、警察を呼ばなくてもいいと思います。もうきっと問題ありません」

「あ……ありがとうございます! 旦那様!」


執事は、傍にいた給仕たちに伝え、彼らが慌てて走っていく。おそらく、主催者に伝えるのだろう。程なくして、主催者の子爵からもう大丈夫です、と告げられると、安心したように人々は輪を崩し、また談話やダンスの続きを始めた。


「よかったわ。みんなが楽しめないのはもったいないものね」


クロエがホッと息を吐くと、執事は不安そうにクロエを見遣った。


「あの……令嬢が飲んだものは普通のワインであったはずですが……どうしてこんなことに?」

「いいえ、これはワインビネガーでしたの」

「……ワインビネガー」


執事の驚きに歪んだ顔に、クロエはルーカスにこそりと耳打ちした。


「話してなかったの?」

「その時間はなかったんだ」


ルーカスは肩をすくめると、クロエの肩を抱え、額にキスをした。クロエは追い払うようにルーカスの顔を手で押しやると、執事に顔を戻した。


「ええ。ワインで作るお酢です。この国ではリンゴ酢やザクロ酢が有名なのかしら? 私の国ですと、ブルーベリー酢やレモン酢がよく使われていますわ。でも、ワインビネガーはどの国でもそれなりに使われているのではないかしら」

「ええ、もちろん知っております。ですが、サラダにかけるとしても……ここにはありませんし……こんな……ボトルに入れて振舞われたりなどしたことがありません。飲むワインと間違えてしまうではないですか」

「ええ、間違えるように、あえて同じボトルにしていたのだと思いますわ。ワインの中身を出して、わざわざ入れ替えているくらいですもの」


クロエが申し訳なく思いながら続けると、こっそりと聞いていたらしい貴族が、ざわざわと騒ぎ出した。


「なんですって」

「それは大変だ」

「どういうことなんだ」

「責任者を……」

「料理長か? 給仕長か? 誰がこんなことを……」


クロエはざわめきを否定するように、首を横に振った。


「スタッフの方とは限りませんわね。外部の者だって、いくらだって持ってくることができます。差し入れと称してもいいですし、服に隠して持ってくることも可能です。ごく親しい間柄の舞踏会で、いちいち身体検査なんて野暮ですもの」

「え、ええ、確かに……でも……何が目的で……」


執事が途方にくれたように頭を抱える。クロエはルーカスに顔を向けた。


「ねぇ、ルーカス。あなた、どうしてこんなことが起こったのかわかったでしょ?」

「僕が?」

「そうよ。あなたならわかるわ」

「でも……僕はそんな特別な能力はないよ」

「なんでもできるのに?」


クロエが首をかしげると、ルーカスは困ったように微笑んだ。




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